女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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「見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません」

 それから暫くして涙は落ち着いた。
 だが、それと同時に羞恥心が一気にプレセアを襲った。
 家族の優しさに触れて、涙が止まらなくなったとは言え、子どもの様に泣いてしまった。
 しかも……顔見知りのリヒトの前で。

「全然。寧ろ、素敵だと思ったよ。皆互いを大切に思っていることが伝わってきた。優しい御家族なんだね」

 リヒトの言葉にプレセアは大きく頷いた。

「あの、リヒト先輩。改めてこの度は助けて頂き、ありがとうございます。実は……なぜか分からないんですけどその時の記憶が無くて。リヒト先輩にはただいなるご迷惑をお掛けしたことでしょう」

「僕はただ家に帰る途中に偶然居合わせただけだから気にしないで。それと、記憶に関しては仕方ないよ。病み上がりだったと聞いたし、まだ体調が万全じゃなかったんだよ。……ねぇ、プレセアさん。少しは楽になったかな?」

 その問にプレセアは瞳を瞬かせた。
 なぜこの様な問いをリヒトがしたのか、理由は全く分からない。
 会話の流れからしてなぜその様な問に繋がるのかも理解し難い。
 けれど、なぜかストンとその問いを受け入れることができた。
 だからだろう。
 頭で考えるよりも、声が出た。

「すごく楽です。まるで、何かから解放されたみたいに身体も気持ちも……全部軽くなった様な気がします」

「……なら良かった」

 リヒトは嬉しそうに微笑む。
 まるで自分のことの様に微笑む彼をプレセアは不思議に思った。

「じゃあ僕はこれで失礼するね。様子を見に来ただけだから」

「もう少しゆっくりされていって下さい! まだお礼もできていませんし……」

「別にお礼なんていいよ。困っている人がいたら助けるなんて当たり前のことだし」

「……では、もう少しでお菓子が焼き上がる時間なんです。なので良ければ御一緒してくださいませんか? お茶の相手がいなくて困っているのです」

 プレセアの言葉にリヒトは目を微かに見開いた。

 助けて貰ったのに何もお礼をしないのは如何なものか。
 だが、リヒトといえばそのお礼は必要ないと言った。彼にとって人助けは、当然なもの故なのだろう。
 けれど、プレセアからしてみてはお礼をせずに終わるのは礼儀、人間性から見逃せないものである。

 結果、会話から垣間見えたリヒトの人間性からお茶のお誘いをした。
 これがお礼となるとは思っていない。
 ただリヒトという人物を知りたいと思ったのだ。
 同じ学校の先輩と後輩。
 話した記憶は一度だけある。
 そんなただの知り合いの自分に優しく接し、笑いかけてくれた人。
 人助けを当然とする善人。
 ……では、それ以外では?

 お茶の席で彼について知り、改めてお礼の品を贈ろう。
 そんな考えを持って、お誘いの言葉を送った。

 リヒトは小さく微笑んだ後、言った。

「もう身体は大丈夫? 無理してない?」

「元気が有り余っているくらいですよ」

「そっか。なら、御一緒させて貰おうかな。焼きたてのお菓子も気になるし」

「ありがとうございます!」

 良い返事にプレセアは歓喜した。


 それから焼きたてのマフィンやタルト、クッキーなどが続々と運ばれてきた。
 甘い香りが一気に部屋の中を充満し、視界、嗅覚の二つの感覚から浴びる幸せにプレセアは頬を緩ませた。

「すごい嬉しそう。お菓子好きなんだ」

「甘い物が好きなんです。リヒト先輩はお好きですか?」

「うん。研究のお供としてもよく食べてる」

「研究……?」

 そう言えば以前リヒトに学校で会った時、彼は白衣を身につけていたことを思い出す。

「とある研究を任されてるだ。それで学校で白衣きて、研究室に閉じこもってる」

「研究を任されているだなんて凄いですね」

「そんな凄いことじゃないよ。僕しか頼む相手がいないから任されてるだけ」

 ……それは十分凄いことなのでは?
 そうプレセアは思った。
 なにせ、彼にしか頼めないから頼まれているということなのだから。

 けれど、こうして謙遜するのもリヒトという人物の人間性なのだと分かった。

「って、もうこんな時間!? 帰らないと」

「も、申し訳ありません! 私が引き止めたせいで!!」

 気づけば部屋はオレンジ色に染まっていた。
 一体どれだけ話をしていたのか。

「全然。僕もすごく楽しかったし。お菓子もとても美味しかった。お茶に誘ってくれてありがとう」

「私の方こそ無理をいってしまい、申し訳ありませんでした。私も……とても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」

 そう言って頭を下げるプレセアにリヒトは微笑む。
 とても穏やかで優しい笑みで。


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