女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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 自分でも到底有り得ない事をしたと思っている。

「散らかっててごめん。適当に座ってて。タオル持ってくるから」

 そう言葉を残し、足の踏み場もない部屋を器用に進んでいくリヒトの背中を見つめながら、プレセアは呆然としていた。

 本当は良くない事だと分かっている。
 婚約者でもない異性の家に二人きり。
 しかも雨のせいで衣服は透けてしまっている。
 もしこんな場面を見られてしまえば、きっと勘違いしてしまう人も居るだろう。
 それはリヒトにだって迷惑をかける。

 ......そう分かっている筈なのに、身体は動かない。
 本当は直ぐに家に帰るべき筈なのに。


「座っててって言ったのに。......まぁ、座れるような場所もないか。はい、タオル」

 そう言って差し出されたタオルを受け取る。
 汚部屋というに相応しい場所だが、タオルはまるで新品のように綺麗だった。

 リヒトの善意に甘え、タオルを受け取る。
 何だかむしゃくしゃして乱雑に頭を拭けば自慢の手入れの行き届いた髪の毛はボサボサになった。

「身体冷えたでしょ。温かいもの入れるね」

「いえ、お気持ちだけで十分です。雨宿りさせて頂いてタオルまで貸して頂いたんです。もうこれ以上は......」

「僕がしたいだけだから気にしないで。取り敢えずこっち来て」

 手招きされ、プレセアはおずおずと着いていく。
 リヒトが通っていた箇所を追って家の奥へと進んでいく。

 そうして進んでいくうちに扉が一つ現れた。
 戸を開ければそこには地下へと続く階段があった。

「地下の方が片付いてるし、いろいろ道具・・・・あるから」

 そう行って階段を降りていくリヒト。
 プレセアは置いていかれぬよう、階段を降りていく。

 そうして辿り着いた先は工房だった。
 一体何の工房なのかは分からない。
 ただ、初めて見る文字が綴られた本がテーブルいっぱいに開かれている。

 そして......部屋の中央には大きな釜が置かれていた。

 確かに、この部屋は足の踏み場はある。
 綺麗......とは言い難いが、確かに先程の部屋たちよりは片付いている方だろう。


「えっと......何処に置いてたかな」


 棚に無造作に手を突っ込み、並べられた瓶を掻き分けていく。
 中には色とりどりの粉や見慣れない葉っぱが詰め込まれている。
 一体彼は何を探し、そして行おうとしているのか検討もつかない。

 だが、タオルからふんわりと香った心地よく、優しい香りにプレセアは頬を緩めた。


「あ、見つけた」


 そして漸くお目当てのものが見つかったらしい。
 中には赤い葉っぱが詰め込まれている。
 これまた見た事のない葉っぱだ。

 リヒトは瓶の蓋を開けるなり、数枚手に取る。そしてクシャクシャと手のひらですり潰した。


「本当は秘密にしとけ、って言われてるんだけど....風邪ぶり返したら大変だしね」

「あの、リヒトさん?」

「動かないで」

「え....?」


 突然真剣な眼差しと声色でそう言われ、距離を詰められる。
 あまりに突然のことに目を瞬かせる間もなく、プレセアの頭上からすり潰された葉っぱが降ってくる。


「な、何をなさっ.........て、あれ?」


驚きのあまり声を荒らげそうになるが、瞬間、直ぐに自分の身に起きた違和感にプレセアは唖然とした。

先程までびしょびしょに塗れ、気持ち悪いほど肌に密着していた服がすっかり乾いていたのだ。
しかもそれは服だけには留まらない。
髪の毛だっけ綺麗に乾き、いつもの美しい光沢のある髪へと戻っていた。

咄嗟に顔をあげれば、まるでいたずらっ子のように微笑むリヒトと目が合った。


「驚いた?」


そして目を細め笑うリヒトに、プレセアは大きく頷いた。
だって、今のは間違いなく......


「ま、魔法......?」


魔法
それはかつて、魔力を持つ特別な存在である魔法使いのみが扱えた特別な力。

しかし、時代が進むにつれて魔法使いの存在はこの世から忘れ去られていった。

否......消されてしまった。

その特別な力を求めて、魔法使いを奪い合いを始めた。
戦いに巻き込まれ、朽ちていく大地。
奪われる数々の命と生活。

皆、限界だった。

だから人々は考えた。
こんな争いが起こるのは、全て魔法使いが原因であると。

......魔法使いをこの世から消してしまおうと。


プレセアは恐る恐ると尋ねた。


「魔法使い様......なのですか?」


その問いに、リヒトは唇が弧を描いた。

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