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竜の国 編
76 お帰り。そしてこれからもよろしくね
しおりを挟む早いことにもうアンくんと別れて三年が経つ。
私はミレイと共に家でお茶をしながら話をしていた。
「でも少し残念」
ミレイがお茶を口に運び、言った。
「何が残念なの?」
思わずそう尋ねる私。するとミレイは笑う。
「レオン兄様との婚約の話しよ。エデン、断ったんでしょ?」
「あー」
私は視線を逸らしつつ、曖昧に答える。
実はついこの間、私はレオン様に結婚前提のお付き合いを申し込まれたのだ。
レオン様は王位継承者なので次期国王だ。もし結婚したら幸せな日々が送れるだろう。
けど……
「約束したから」
私も今年で十九になる。
周りからは結婚を考えてもいいじゃないかと言われるけど、私には待っている人が居るから。
それからまたミレイと話し込んでいると、突然家の扉が開いた。
「エデン居るか!?」
「ロキさん!? えっと、いらっしゃい。 どうしたんですか? そんなに慌てて」
突然家の扉が開いたかと思えばそこには息を切らし、頬には汗を伝わせたロキさんの姿があった。しかもどこか余裕の無さそうだ。けれどどこか嬉しそうでその証拠にロキさんは笑いながら言った。
「ドラゴンに乗った竜人が空を飛んでた! もしかしたら……っておい!」
「ちょっとエデン!?」
私はロキさんの話を最後まで聞かずに家を飛び出した。
この時期にドラゴンに乗ってやって来る竜人なんて一人しか思い浮かばなかった。
一体何処でドラゴンに乗った竜人を見たのか聞きそびれてしまった。だから一体何処に彼が居るのか分からず、取り敢えず私はルゲル村を走り回った。
ルゲル村は私が初めてやって来た時に比べたらとても発展したと思う。
今では宿谷もできて、ユウさんのパン屋さん以外にも飲食店や花屋、仕立て屋などのお店が出来始めた。毎日冒険者もやって来るし、旅人だって来る。
ルゲル村は大きくこの三年で変化したのだ。
そして私も大きくこの三年で成長したと思う。
まずアンくんが居ない生活は本当に大変で、苦労の毎日だった。
なにせ私もルカも炊事洗濯は出来なくて、メルさんやロキさんに教わりながら頑張って身につけた。けれどまだアンくんほど料理は上手じゃないし、お皿を割ることなんて日常茶飯事だ。
それから私は仮の冒険者じゃなくて、正式に冒険者をすることにした。
とは言っても難易度の高い依頼は受けないようにしている。理由は簡単。モンスターとの戦闘はまだ怖いからだ。
ルゲル村ではドラゴンが空を飛んでいたことから少しのパニック状態に陥っていた。でも、冒険者がいるためか皆どこか安心しているようだったし、何より私が走り回っていたからかすれ違う度に様々な人から「魔導師様、お仕事ですか?」「魔導師様、ドラゴン退治頑張って!」などと声を掛けられる始末だった。
結局、ドラゴンに乗った竜人の姿は発見出来ず、私は取り敢えず森に行く事にした。
あまり期待はしてないけど、もう他に思い当たる場所が無かった。
森にはたくさんの冒険者が入り浸り、モンスターと戦闘しているする姿をよく見かける。
森の奥にどんどん進んで行けば、ふと前方から誰かが歩いてきているのが分かった。
その人影は明らかに私よりも背の高い人で、アンくんでは無いなと確信した。なら冒険者かもしれない。ここら辺で小さな金髪の髪をした男の子を見なかった聞いてみよう。
「あの、すいません。お尋ねしたいことがあるん……ですけど」
と私が声を掛けた時、緑色の瞳を目が合った。
けどその瞳はただの緑ではない。瞳孔の奥が僅かに黄色でまるで宝石のような輝きがある。そんな綺麗な瞳を私は一つしか知らない。
「アンくん……?」
私は思わず尋ねた。
正直、自信が無い。
だって今目の前にいるのは私よりも背が高くて、綺麗に整った顔立ちをしたかっこいい男性だから。私の知るアンくんとは程遠い容姿なのだ。
「疑問形って酷くない?」
彼は少しムッとした様子で言った。
「アンくん……なの? 本当に?」
確認するかのように私がそう尋ねれば、「そうだけど」と彼は言った。
そして手を差し伸べられ、私はその手を握った。
すると突然引き寄せられたかと思えば、横から「準備完了です!」と可愛らしい声が聞こえた。
「ルカ!?」
可愛らしい声の正体はルカだった。
と言うか朝から姿が見えないなと思っていたけど、まさかこんな場所に居るなんて。てっきり村の子供達と遊んでいるのだと思っていた。
ルカは人間の姿からドラゴンの姿へと変わるとドヤ顔で言った。
【さぁ! お乗りください! ここに居たら直ぐに邪魔が入っちゃいますよ!】
私はちらりとアンくんを見つめる。
すると目がばっちり合って思わず私は目を逸らす。
まだ見慣れないアンくんの姿に戸惑いを隠せない。
「お師匠、乗ろう」
けどアンくんは笑っていて、そのまま手を引かれルカの背中に乗り空へと飛んだ。
どんどん小さくなっていくルゲル村を見下ろしつつ、私はアンくんに尋ねた。
「三年でそんなに成長するものなの?」
「元々竜人でも小柄な方だったんだよ。けど、竜の洞穴で鍛えられたからね。一気に背が伸びた」
「そっか。見慣れないけど、アンくんだって分かるよ」
「お師匠だって髪伸びて雰囲気変わったね。綺麗」
「なっ!?」
さらりと言われた言葉に私は混乱した。
破壊力は凄いし、何より恥ずかしい。
すると今度は後ろから抱きしめられ、私の心臓はより活発に動き出した。
「お師匠。俺、強くなったよ」
「う、うん」
「俺のこと、待っててくれた?」
「ま、待ってたよ」
「ぎこちない。緊張してるの?」
「しない方がおかしいでしょ!」
思わず声を上げてしまう私にアンくんが笑う。
あんなに可愛かったアンくんが今ではカッコよくなっていてまだ頭が完全にはついていけてないのだ。
「ねぇ、お師匠。これからは弟子として……そして恋人として俺を傍に置いてくれませんか?」
「……断る理由なんてないよ。だから、そんな悲しそうな声で言わないで」
私は振り返り、そう言った。
どこかアンくんの声は不安そうで、とても悲しそうなものだった。
恐らく私に断れると思っていたんだと思う。
そっとアンくんの頬に手を添え、私は告げる。
「アンドレじゃなきゃ嫌だよ。アンドレだから私は弟子として、そして恋人として傍に居てもらいたいの」
この三年間。どこか詰まらなかった。
けど、アンドレの居る今からはきっと凄く楽しい日々になる。
そんな予感がするんだ。
終わり
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