烙印を理由に婚約破棄。その結果ステータスALL1000の魔導師になりまして

流雲青人

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竜の国 編

75 お別れ?

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 リーネはこれから仕事があるとかで書斎にこもってしまったので、私は一人ぼっちになってしまった。アンくんもルカもエルゼもシキも皆何処かに行ってしまい、私はただただお城の中をさ迷うことしか出来なかった。

 廊下を歩けば竜騎士とすれ違う。
 その度に廊下の隅に体を寄せ、私へと頭を下げる彼等に少し緊張していた。

 「なぁ、やっぱり巫女様は陛下と結婚するのだろうか?」

 「噂だろ? けど、凄く仲良さげだったよな……」

 二人の竜騎士の会話が後方から聞こえ、思わずため息が零れた。
 リーネは友人だ。結婚だなんて考えられない。
 例え、誰かが望んでも絶対に私の意思は変わらないだろう。

 少し重い足取りで、取り敢えず部屋に戻るべく廊下の角を曲がる。
 すると見慣れた後ろ姿を見つけた。

 「アンくんー!」

 私はアンくんの名前を呼ぶ。
 するとピタリとアンくんが足を止めた。
 パタパタと急ぎ足でアンくんの横に並べば、何故かギロりと睨みつけられてしまった。

 「どうかしたの?」

 「何でもない」

 「嘘。明らかに何か隠してる。何かあったの?」

 どうやらご機嫌ななめの様子のアンくんに尋ねる。けどアンくんはただそっぽを向くばかりだ。

 これは……私、何かしちゃったかな?

 そう思い、心当たりがないか考えていると……

「陛下と本当に婚約したの?」

 「え!?」

 予想外過ぎる言葉に私は驚きの声を上げた。
 まさかアンくんまでもが信じているだなんて……。
 私は頭を抱えつつ、アンくんに言い聞かせるように言った。

 「リーネとは断じてそういう関係じゃないから」

 「ほんとに?」

 「嘘なんてつかないよ」

 私の言葉に安心したのかアンくんが口元を少し緩めた。
 一体どうしたんだろう? と不思議に思っていると「アンドレ!」とアンくんを呼ぶ声が聞こえた。

 そこには竜騎士の制服に身を包むアンくんと同じくらいの年齢に見える竜人の姿があった。

 「み、巫女様! お疲れ様です!」

 「うん。お疲れ様」

 返事をすればその竜騎士は何故か顔を赤くして「巫女様と話せたぁ!」と嬉しそうに言った。中には声をかけただけで顔を赤くして倒れたり、逃げられてしまうこともあったからこれはまだ良い方だ。何でも竜人にとって巫女は英雄だから皆恥ずかしがっているんだとか。

 「で、そんな慌ててどうしたんだよ?」

 「シキさんから聞いて慌てて来たんだ。だってお前、後々人間の国へ行くんだろ? だから試練は受けないのかなって思ったんだよ!」

 一体何の試練だろう? と不思議に思っていると、突然アンくんが「あぁ!」と声を上げた。そして顔を青く染めた。
 そんなアンくんを見て「俺は知らせたからな!」とその竜人の子は行ってしまった。

 取り残された私とアンくん。
 私は取り敢えずその試練について尋ねることにした。

 「えっと、試練ってなに?」

 私の質問にアンくんが頭を抱えながら答える。

 「竜人は成人を迎えるにあたって成人を迎える三年前からは必ず竜の国で過ごすん決まりになってるんだ。そしてその間に竜の洞穴という洞窟で修行を重ねるんだけど、その洞穴から抜けれるのは早くて一年と少し」

 「早くて一年!? それに竜人でそこまでかかるってことは普通の洞窟じゃないんだね」

 「うん。中には魔法を使うモンスターとか竜人には不利なモンスターがうじゃうじゃいるんだ。その洞窟から無事に帰還出来たら大人の竜人として認められるんだ」

 「……もし抜け出せなかったらどうなるの?」

 「今まで一度も抜け出せなかった竜人は居ないから大丈夫だよ。遅くて三年で皆何とか帰って来ているみたいだし 」

 アンくんの返答に私は心底安堵した。
 けれど直ぐにそんな安心も消えしまった。
 なぜなら……


 「寂しくなるな。だってアンくんは十三歳なんだし、今から三年間竜の国に残らなきゃいけないんだもん」


 私の言葉にアンくんは大きく目を見開き、そして小さく頷いた。

 三という数字はとても小さいものだけど、三年間と言うととても大きいものに感じ取れてしまう。

 けど、竜の国には竜の国なりの伝統があるのだ。
 私の我儘でアンくんを連れて行く訳にはいかない。


 「竜の国に来てもう一週間。そろそろ帰らないと皆心配する頃かも」

 「……うん」

 「アンくん、これでさよならじゃないよ。だから笑って。ね?」


 下を俯くアンくん。私はそっと頭を撫でようと膝を曲げ腕を伸ばしたらその手はアンくんによって止められしまい、思わず私は「え?」と言葉をこぼす。

 私は恐る恐るアンくんを見る。


 「子供扱いするな! 今はまだ小さい竜人だけど……俺だって今から立派な竜人になってやる!」

 「ムキになっちゃって……アンくんは可愛いなー」

 顔を真っ赤にさせて反論してくるアンくんはやはり天使のように可愛い。
 思わず頭を撫でたくなる衝動を必死で我慢していると突然前髪を持ち上げられた。

 「どうかしたの?」

 アンくんは私のおでこにある失格紋をジーッと見つめ、黙り込んでしまった。

 「俺、前にお師匠に凄く酷いこと言った」

 「……まだ気にしてたの?」

 私の問いにまたアンくんは黙り込んでしまい、私は小さく息を吐いた後、わしわしと勢いよくアンくんの頭を撫で回す。突然のことに驚いている様子のアンくんお構い無しに続ける。

 「前までは確かに気にしてたけど、これがあってからこその私だって今は思える。それに私の失格紋を見ても誰一人私を嫌ったりしなかった。それだけで私は本当に嬉しかったんだよ。まぁ、これのせいで結婚とかは不利になる可能性は大きいんだけどね」

 「大丈夫だよ。だってお師匠は俺のお嫁さんになるんだから」

 「え……?」

 アンくんの言葉に瞬きを繰り返す私。
 聞き間違い? だとしてもなんて自意識過剰な耳なのだろう。

 「だから、待ってて欲しい」

 いつも可愛い愛弟子としか見てなかった。
 けどその言葉と声と、表情に心臓が高く高なったのが分かった。




*******




 翌日。私はルカと共にルゲル村に帰宅する事にした。


 「エデン。短い間だったけど、本当にありがとう。またいつでも来て。君なら大歓迎だから」

 「ありがとう、リーネ。勿論、また来るよ」

 私は差し出されたリーネの手を握り返す。
 そしてエルゼや、シキ達とも握手を交わした後、私はドラゴンの姿になったルカの背中に乗った。

 【私、悲しいです。ちゃんとアンドレさんとバイバイしてません】

 ルカが項垂れ、悲しそうに言った。

 そんなルカを私は優しく撫でる。

 「大丈夫。三年後には必ず会えるから」

 【はーい……】

 もう少しで竜の洞穴に潜ることになると言うことで、アンくんは今その準備中だ。正直、アンくんなら一年もせずに洞穴を抜ける事が出来ると私は思っていたりする。

 
 
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