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竜の国 編
74 王と巫女の噂
しおりを挟む竜の国に訪れて一週間が経ったある日のことだった。
今日は一区でアンくんとルカ、エルゼさんと商店街を回ったあとお昼を食べるためによったお店で女店主のおばさんが満面の笑みを浮かべ話しかけてきた。
「巫女様、巫女様。噂は本当なのかい?」
「噂?」
竜の国の伝統食、魔獣のステーキを目の前にしまだ慣れずにいる私に女店主が更に頬を緩ませる。
「巫女様と国王陛下が婚約するって噂ですよ!」
女店主の話に思わず私とアンくんが「えぇ!?」「はぁ!?」と驚きの声を上げた。一方、ルカはエルゼさんに「こんにゃく?」と尋ねていて、エルゼさんが「婚約」と正しく教えていた。
「パーティに参加した皆が言ってますよ。国王陛下と巫女様は婚約を結ばれたって」
「それなら私も耳にしました。しかし確かにあれだけ仲良さげに話されていたら誰もが勘違いするのも無理はないかと思います」
エルゼの言葉に私は思わず「えぇ……」と言葉を漏らす。
パーティ中、私はリーネと親しくなった。とは言ってもそれはリーネ限らずエルゼやシキ、アンくんのご両親ともだ。
けどまさかそんな噂がたっているなんて……。
私は竜の国の伝統食を恐る恐る口に運びながら思った。
見た目は真っ黒な塊だけど、食べた瞬間口いっぱいに広がる肉汁。味付けもちょうど良い。量が多いのは竜人に合わせてあるから仕方ないとして、最初は魔物のステーキなんて言うからどんな物かと想像したけど、案外普通で安心した。
「大変恐縮ですが、エデン様。私は貴方様と陛下の結婚ならば心から祝福出来ると思う……いいえ、出来ます」
「出来ます……って、私とリーネは友人であって結婚とかは……」
「巫女様と陛下が結婚!? やはり噂は本当だったのか!?」
「何だって!?」
エルゼと私の会話に耳を傾けていたお客さん達が次々に席を立ち、口々にそう言い始めた。お酒が回っているのか彼らは誤った理解をしてしまったみたい。慌てて私は止めに入ろうとしたけど、彼らは酔った勢いで店を飛び出して大声で叫ぶように言いながら商店街を歩いて行った。そして噂とはなんて怖いものなんだろうと私は思った。店を出た頃には歩いているだけで「お幸せに」やら「素敵な花嫁姿、期待しています」などなど祝福の言葉を掛けられてしまうようになっていたのだ。
こうなったらリーネに状況を説明して何とかしてもらおう。
私は人混みを掻き分け、リーネの居る城へと足を急がせた。
*******
「それは面白いことになったね」
「笑い事じゃない。こっちは真剣なんだよ?」
城へと戻ってきた私は早速リーネに状況を説明した。
けれどリーネは話を聞くなりお腹を抱え笑いだしてしまった。
思わず口先を尖らせ、ムッとする私にリーネが「ごめんごめん」と謝る。
「けど、そんな噂がたっているとは……俺も初耳で驚いてるよ」
「王様でしょ。どうにかしてよ」
「俺が早く婚約者を決めれば収まる話なんだろうけどね」
「リーネは婚約者が居ないの?」
「うん。正直興味がなかったからね」
竜茶というお茶を飲みながら、私はリーネの話に耳を傾ける。
最初は独特な味に抵抗があって中々飲めなかったけど一週間も飲んでいたらば気づけば味に慣れてしまっていた。最初は中々飲み込めなかったけど、今ではすんなりと喉を通るようになっているのだ。
「それにエデンには俺よりもっと相応しい奴が居ると思うんだよ」
「まるでその相手が誰だか分かってるみたいな口調してるけど?」
少し嫌味っぽく言ってみた。
けど、リーネは微笑むばかりで本当に彼の言っていることが正しいのかもしれない思えてしまった。
私はカップをテーブルへと置き、お菓子を口に運ぶ。
竜の国のお菓子は甘さ控えめ。特に見た目にこだわっている様子もない物だけど中々美味しい。用意されていたら勝手に手が動いてしまっているほど私は竜の国のお菓子に心を奪われていた。
「竜人は人間で言う十六歳で成人となる。竜人は人間と違いとても長生きな生き物だ。成長も成人となる十六歳で止まるけど三十になっても見た目は人間でいう二十代とは変わらない」
なぜそんな話を突然するんだろう? と首を傾げる私。
リーネはそのまま話を続けた。
「でも、エデンには巫女の力がある。だから竜人とさほど変わらない寿命だと思う」
「う、うん? えっと……つまり何が言いたいの?」
話の行き先が全く分からない私には思わずリーネに尋ねた。
「まぁ、そのうち分かるよ」
けどリーネはそうはぐらかした。
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