60 / 78
パン屋がやってきた編
58 街へやって来ました
しおりを挟むユウさんへと調達した材料を渡した時のあのキラキラとして瞳は私は一生忘れる事は無いと思った。あそこまでパンの事を考え、そして村の為を思って頑張ってくれる人を見ていたら私も頑張らなくちゃと思った。
いつか私にも夢中になれる何かが出来るのだろうか……?
ユウさんみたいにキラキラとした瞳で向き合える特別な何かが。
「エデンさん……エデンさん!」
私はハッと我に返った。
「あ、うん。な、何?」
「大丈夫ですか? 具合が悪いんですか? さっきから呼んでたのに上の空でした」
「ごめんごめん。考え事してたよ……」
心配そうに私の顔を覗き込むルカ。
うぅ……心配を掛けてしまった。
ルゲル村から歩いて一時間弱。ユウさんの言っていた街にやって来たもののそこは思っていた以上に大きくて栄えていた。
でも思っていた以上に近くにこんな大きな街があった事が驚きだった。
ルゲル村に人が入らない理由はもしかしたらあの入り組んだ分かりにくい場所にあるのも大きな原因かもしれない。あと地図に載ってないしね。
私はキョロキョロと辺りを見渡す。
行き交う人々はどの人も裕福な人に見える。
お店だって多い。けれど食べ物に関する店は一店も無かった。
それに何だか空気が重い。
これはもしかすると…………
私はルカを手招きした。
すると嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねながら私へと寄り添う。
そんなルカの耳元で私は言った。
「ルカ……ちょっと頼めるかな?」
「はい!!」
やる気満々であった。
それから数分後。
「あの、すいません……ママ知りませんか?」
ルカは二人の女性に声を掛けた。
「え? あらやだ迷子? 困ったわね……」
「名前は?」
二人の女性が膝を曲げ、ルカに尋ねる。
ルカの演技力の高さに私は驚きつつも女性達の反応を観察していく。
「あの、私……お腹空いちゃいました」
その言葉に二人の女性は顔を見合わせ首を振った。
その行動の意味は何となくだけど理解出来た。
「ごめんね……その……ここにはあまり食べ物が無くてね」
「この子、もしかして他所から来た子なのかもね……」
「食べ物無いんですか?」
「うん。まぁ……ちょっと今厄介事にあっててね。食べ物の殆どが持ってかれてるの。ほんと、困ったものよね……」
思った通りだった。
街の空気といい、住人達の少し切羽詰まった行動。
どうやらこの街は盗賊の支配下とされているらしい。
冒険者などを呼びたいのは山々なんだろうけどきっとそれも出来ない状態なんだろう。
うーん……厄介な事になっちゃったな。
私はただお店の宣伝チラシを配りにやって来たのだ。
なのにまさかここがこんな状況に陥ってたなんて……。
助ける? とは言っても下手に動いてもダメだし、うーん……。
そう思っていた時だった。
「お前らァァ! 今日も俺様達が来てやったぞ!」
あからさまに悪役と言った感じの声が聞こえ、次々に広場のステージに十数人の男が登っていく。
どうやら彼らがこの街に支配した盗賊みたいだ。
「殺されたく無かったら今日はそうだな……女を差し出せ! 今日は遊びたい気分だ!」
一人の男が下品な声で笑い出す。
一人だけ明らかに格が違う。どうやら彼がリーダーのようだ。
「待ってください! 他に、他に何かないでしょうか!? 女性は結婚前にそんなふしだらな事はしてはいけないとこの街の掟で決まっているんです!」
すると一人の男性が声を上げた。
だけどその声は震えていて、体も小刻みに震えていた。
「あぁん? 掟? 知るかっ! 死にたくなかったら早く女を差し出せ。そうだな……十五人ぐらいで許してやるから」
舌をだし、口元を舐める男。
なんと言うか……気持ち悪いな。
それに、やっぱりこういうのは良くない。
私はルカと共に居た女性達の方へと駆け寄る。
「私が時間を稼ぎます。そのうちにこの場所から離れて下さい」
「え!? 」
「ルカ、貴方も避難してて。いいね?」
「はい!」
聞き分けの良い子で良かった。
私はルカの頭を撫でると、その場を去った。
「貴方のお姉さん!? と、止めなきゃ……!」
「大丈夫ですよ。エデンさんは本当に凄い人ですから!」
そんな会話が繰り広げられている事を知らずに、私は盗賊達の前に立つ。
「おぉ! こりゃあいい女だな。まぁ、ちょい幼いが我慢してやるか……」
「私は捕まりに来たのではなく反省してもらう為に来たんです」
「はぁ!?」
益々声に不機嫌さが増した。
ギロりと睨みつけられたけど、そんなんで怯むほど私も弱くはない。
呼び込みの為に来たはずなのにどうしてこうなっちゃったんだろう……。
8
お気に入りに追加
5,662
あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる