54 / 78
パン屋がやってきた編
52 変わった人
しおりを挟む「ユウさんはどうしてルゲル村に?」
ふと気になったので尋ねてみた。
「実はこの村に幻の食材があると聞いて来たんです! エデンさんはご存じですか!? 幻の食材を!!」
急に瞳がキラキラしてきたぞ……!
それに幻の食材なんて初めて聞いたし、一体どこ情報なのだろうかそれは。
若干不安になってきた……。
「パン屋と言っても見習いなんですけどね。エデンさんは好きなパンとかありますか?」
「私はクリームパンが好きです。あ、でもホイップクリームたっぷりのパンも好きです」
「成程。女性の意見はとても大切なので伺えて良かったです。今度作った時是非アドバイスください」
「いやいや。私、素人ですよ?」
「素人とか素人じゃないとか関係ないですよ」
ニコリと微笑むユウさん。
こういう人の事を裏表のない人というんだと思う。
ユウさんの笑顔は優しくて暖かい。
それに一緒にいて何だか落ち着くのだ。
「メルさんに聞きましたけどエデンさんってSランクの冒険者なんですよね? 俺、初めてSランクの冒険者見ました! 俺は冒険者カードも持ってないのでこうして採集に付き合ってもらえて本当に嬉しいです。俺、モンスターと戦った事ないので凄くドキドキしてたんです」
「この森はモンスターがあまり出ないので大丈夫ですよ。出たとしたもCランク程度ですから」
「Cランク?」
しまった……。
Cランクのモンスターなんて普通通じるわけがない。
なにせモンスターのランクは鑑定眼が使える者にしか見えないランクなのだ。
これはもう変な女と思われたに違いない。
これからルゲル村に暮らす者同士仲良くやっていきたかったのに!
後悔したって遅いのは分かってるけど、後悔せずにはいられなかった。
私は恐る恐るユウさんの方へと視線をむける。
けど、ユウさんの反応は私が思っていたのとは全く違うものだった。
「もしかしてエデンさん…………鑑定眼が使えるんですか!?」
「は、はい。そうですけど……それよりも」
何で鑑定眼の事知ってるの!?
驚きを隠せない私だった。
「俺、父に聞いたことがあったんです。その鑑定眼が使える人はごく限られてるって……エデンさんってもしかしてSランクの冒険者の中でも飛び抜けて凄い冒険者だったりするんですか!?」
キラキラ輝く瞳でそう見られると何だか照れるものである。
でも悪い気はしない。
だって凄いって言われて嬉しくない人なんていないと思うから。
「飛び抜けてかは分かりませんけど、それなりに魔法も使えます。それと最近友人に剣術を学んだんです。なので剣も少々使えますし……あ、体術もそれなりに出来ますよ」
「でもエデンさんって魔導師なんですよね? 」
唖然とするユウさんに私は笑いかける。
予想通りの反応だったし別に深い意味もない話だった。
だから話題を変えようとした時だった。
「エデンさんが物凄く強い方だというのがよく分かりました。けど、あまり無理はしちゃダメですよ」
なんて……そんな事言われた。
私は大きく何度も頷いた。
そんな私を見てか笑い出すユウさんの横顔をバレないように見つめる。
ここまで何かに夢中になったりする物が彼はあって私には無い。
ちょっと羨ましい気がした。
「それで、その幻の食材って何処にあるんですか?」
「木の実と聞いたんですが……」
キョロキョロと辺りを見渡すユウさん。
この自然豊かなルゲル村の森には沢山の木の実がある。
一つ一つ探していく時間なんて無い。
なら方法は一つだけである。
「ねぇ、リスさん。ここら辺に幻の食材って言われてる木の実が何処にあるか知らない?」
私は木の枝の上で休んでいたリスさんへと声を掛けた。
実は私、動物と会話が出来る。
いや、出来るようになっていた……というべきかな?
巫女の力によってどうやら私はドラゴン以外の生物とも会話できるようになった。村長曰く、私が成長したからとの事。
【幻の食材? 何だそれ? 特徴は無いのか?】
「それが分からないんだよね」
【そうかい。分かった! 任せとけ! 嬢ちゃんにはいつも助けて貰ってるしな!】
リスさんはそう言うと小さく鳴いた。
この子は前怪我をした所をルカが見つけ、私が助けてあげた事があった。
それ以来たまに家に木の実などを持ってきてくれるようになり今では友達である。
リスさんが去った後、私とユウさんの間には沈黙が走った。
「えっと……リスさんが探してくれるらしいです。この森のことをよく知るリスさんなら幻の食材の正体が分かるかも知れません」
「は、はい……」
「すいません。驚かせちゃいましたよ。あはは……」
き、気まずい!
良かればと思いついつい動物に声を掛け話してしまった。
この行動は見方によっては気持ち悪がられるに決まっている。
そう分かっていたけど私はその手段を選んだ。
だってここまで夢中になれる物があってそれを必死で追いかける事が出来るユウさんの応援をどうしてもしたくなったのだ。
「驚きました。けど、凄いですよ、エデンさん!」
「えぇ!?」
「俺、小さい頃から動物と話てみたかったんです。それが出来ちゃうなんてエデンさんは本当に凄いです!」
ここまでキラキラした瞳で言われるとは予想外だった。
…………ほんと、変わった人だな。
11
お気に入りに追加
5,662
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる