烙印を理由に婚約破棄。その結果ステータスALL1000の魔導師になりまして

流雲青人

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錬金術師と魔導師編

49 二人の思い

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 「グレスさんが負けた!? 嘘だろ!?」

 「あの子は一体何者なんだ!?」

 ざわざわとザワつく魔術師団の人達。
 自分たちの長であるグレスさんが負けてしまったのだからそういう反応になるのは仕方ないと思う。けど、やっぱり私へと注がれる視線は興味津々といったものばかりである。

 「私の勝ちです。約束通り2人を見逃して下さい」

 「勿論。約束通り見逃してあげます。しかし、それは今回だけです。次はありません。それとこれはレオン殿下からの伝言です。クロート、お前のしようとしている事が本当に正しいのかもう一度よく考えろ、だそうです」

 「……レオン」

 ポツリとクロートの口からレオン殿下の名前が呟かれた。
 レオン殿下もきっとクロートがノエルさんを生き返らせようとしている事を知ってたんだ。

 私はクロートの方へと視線を投げる。そしたらバッチリと目が合ってしまった。
 逸らす……なんて事はしない。
 逆に絶対に逸らしてやるもんか! という思いが強かった。

 「クロート!!」

 私は大きく息を吸い、お腹から声を振り絞り叫ぶようにクロートの名前を呼んだ。
 そんな私の声に驚いたのか、クロートが肩をビクリと上げる。
 それと同時に私へと囁かれていた声も消えた。

 「私が出来ることはここまで。あとは二人がどうするかだよ」

 禁忌を犯してまで再び手に入れたいもの。
 それをどうするかは二人が決める事なのだ。

 2人は顔を見合わせ2人は頷いた。
 私にはわからなかったけど、二人には通じるものがあったらしい。

 【エデン。貴方には御礼を言わなきゃね。それと謝罪も……】

 「あぁ。本当に……」

 急にしおらしくなる2人に私は慌てふためく。

 「確かにびっくりしたけど、大好きな人を取り戻したいって気持ち、凄く分かるから」

 私だってオークション会場でフェリーヌを助ける際必死だった。
 それと同じ事なのだ。

 「もう辞めた。禁忌を犯すのは。ノエルもきっと望んでないだろうしね……」

 【……そうね。私達、無我夢中で全くノエルの気持ちを考えていなかったわね】

 そう言うと2人は小さく微笑んだ。
 釣られて私も頬が緩んだ。


 コホン

 そんな中、1つの咳払いがこのホンワカとした空間を消した。
 その咳払いはグレスさんのものだった。

 「エデンさん。1つ聞いていいかね? 君、魔法の耐性があるようだったがまさか精霊の加護を持つ者なのかい?」

 「はい。そこに居る精霊……リリアが私に加護を与えてくれた精霊です」

 って、グレスさんにはリリアの姿は見えないのか!

 『そしてこの方はこの精霊の森の番人なのです』

 後ろからひょこっと鎧の兵士が現れた。
 そう言えば私、この精霊の森の番人なんだっけ……。

 鎧の兵士の言葉にグレスさんが大きく目を見開き笑った。
 最初は怖い印象が強かったけどグレスさんはよく笑う。たまに怖い笑顔の時もあるけど悪い人では無さそうだ。なにせレオン殿下や、ミレイ、ゼアさんの国の魔術師団の団長さんなのだからきっといい人に違いない。何故かそんな確信さえ出てきた。

 「エデンさん。貴方への伝言も預かっています。いろいろ大変だっただろうがお疲れ。直ぐに迎えに来る。だそうです」

 「はい」

 頷けば、私の肩にちょこんとリリアが座った。
 何だかこうしてリリアが肩に座ってくれる事が久々に思えてしまった。

 【エデン。騙しちゃってごめんなさい。でもね、これだけは信じて欲しい。貴方に加護を与えた事は本当に私の意思なの。貴方なら私の加護を悪用せず正しく活用してくれると思ったの】

 「うん。ありがと、リリア」

 よほど安心したのかリリアはホッと胸を撫で下ろした。
 今回グレスさんとの戦いでリリアの加護がどれだけ役にたったかなんて言うまでもない。だって魔法に耐性があるなんて最強すぎる。だから私はこの戦いで無傷でいられクロートとリリアを助けることが出来たのだ。

 リリアの頭を人差し指で優しく撫でる。
 すると嬉しそうにリリアは笑った。

 「ねぇ、鎧の兵士さん。貴方は私が精霊の森の番人だと言ったけど、私にその役は務まらないと思う。だから代わりに違う人を番人として迎え入れて欲しいの」

 『…………そうですか。それはとても残念です』

 しゅんとする兵士。
 やっぱこうなっちゃうよね……。
 でも私に番人なんて務まらない。
 きっと私よりももっと番人に相応しい人がするべきだと思うのだ。

 ん? 相応しい人……?

 居た。私よりも何倍も相応しい人が!
 それはもちろん……

 「クロート! 今日から貴方が精霊の森の番人の!」

 「え?」

 らしくない抜けた声を出すクロート。
 まぁ突然こんな事言われたら驚くのも無理はない思う。
 いつも無表情なクロートだったけど、今回は違った。
 目を丸くし、口をパクパクと動かしている。
 そんなクロートが面白くて私は思わず吹き出した。

 「私ね、クロートほど番人に相応しい人は居ないと思う。だって思いやりがあって、優しくて、尚且つ精霊と仲良しなんだもの! 私よりもよっぽどクロートの方が相応しいと思うの。だから……引き受けてくれないかな?」

 「……ほんと、レオンが惚れるのも分かったよ」

 「レオン殿下が何かした?」

 「いや、なんでもないよ」

 最後の方がよく聞き取れなかったけど、まぁ、いっか。

 私はクロートへと手を伸ばす。

 「クロート。新たな精霊の森の番人を引き受けてくれないかな?」

 「断る理由なんて無いよ」

 クロートの言葉に思わず笑顔がこぼれた。
 私の手を握り返してくれたことも、笑顔でひきうけてくれたことも全てが嬉しかった。

 結局、何故自分が精霊の森の番人として選ばれたのかは分からないまま。
 だけどそれでもいい気がした。
 だって2人が笑ってくれてるんだから。






 **************






 「お師匠!!」

 「エデンさぁぁぁぁん!」

 それから数時間後。
 アンくんとルカが島へとやって来た。
 そして会って早々私の胸の中に飛び込んできた。
 まさかのアンくんまでも飛び込んできたのでビックリしたけど凄く嬉しかった。

 私は2人の頭を優しく撫でる。
 私の胸の中で泣きじゃくる2人。
 どこまで自分が2人に心配をかけたのかよく伝わってきた。

 「エデン!!」

 「ミレイ……」

 すると今度はミレイとレオン殿下がやって来た。
 ミレイの瞳にはみるみるうちに涙が溜まってきた。けど、ミレイはその涙を流すことは無かった。すぐにその涙は拭い、ふぅと小さく息を吐くと……

 「話はあとよ。まずは帰りましょう」

 「うん……そうだね」

 私は頷き、アンくんとルカの手を取る。
 2人は私の手をギュッと握り返しきた。

 「お師匠。絶対に離してやんないから!」

 「もう……ルカを置いていかないでほしいです」

 そんな事を言う2人。
 顔に熱が溜まっていくのが分かった。

 私、この子達には適わないな~……

 いつの間にか我が子のような……そんな存在になっていた。

 「エデン」

 名前を呼ばれ、私は振り向く。
 そこにはクロートとリリアの姿があった。

 「本当に感謝してる。ありがとう。それと……ごめん」

 「謝らないで! 結果的に禁忌は犯さなかった訳だしそれに……何気に毎日楽しかったよ。クロートとリリア出会えて私はよかったって思ってる」

 【やっぱりエデンって無自覚でそういうのはダメだと思うわ】

 「俺もそう思う」

 何故か頷き合う2人。

 え? 無自覚ってどういう事?
 私、何かしちゃったって事?
 謝った方がいいのかな?

 そう思った時

 「クロート。てめぇ……もしかしてエデンに」

 「うるさい。黙れ」

 「お前なぁ!? 俺がグレスをそっちに寄越さなかったらガチで罪人だったんだぞ!」

 「え!? それってつまり……」

 グレスさんが目をつけてた……みたいな事を言ってたのは嘘で本当はレオン殿下の指示だったって事?

 レオン殿下の顔が真っ赤に染まっていたった。
 そんなレオン殿下を見てくすくすと笑うミレイ。
 こっちもこっちでいろいろあったみたい。

 「俺はお前を助けるためにだな裏で頑張ってたんだよ! グレスを動かすのがどれだけ大変だったか……」

 大きな溜息を吐くレオン殿下。
 余程大変だったんだろうな……。溜息からよくそれが伝わってきた。

 「レオン。ありがとう」

 「え」

 「だから……ありがとうって言ってんだよ!」

 「聞こえねぇな。もう一回は言ってみろ」

 「言うわけないだろ。ばーか」

 「馬鹿だと!? お前はもっと感謝という言葉を学ぶべきだっ!」

 なんて言い合いを始めてしまったレオン殿下とクロート。
 何だか見ていて微笑ましくなった。


 
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