45 / 78
錬金術師と魔導師編
43 魔力を注ぐ仕事
しおりを挟むクロートの家へと来てから3週間がたった。
今日もいつも通り暇な時間を過ごすのだろうか?
ゴロンとベッドの上に転がり天井を見つめているとコンコンと扉がノックされ、はーい、と返事を返せば扉越しからクロートの声が聞こえてきた。
「エデン。手伝って欲しいんだけど……」
「うん。今行くね」
そう答えれば、リリアがぱあっと表情を明るくさせた。
【さっきの声が冷徹の錬金術師ね!?】
「うん。この家の主のクロートだよ」
【光の精霊王としてどうしても御礼が言いたかったの! 仲間を助けてくれた冷徹の錬金術師に!】
リリアはそう言うと、早く行きましょう! と私の肩にちょこんと座る。
この三週間ずっとクロートは仕事場にこもっていたのでやっとクロートに会えることが嬉しかったのかリリアの表情はとても明るい。
私は、はいはい、と答えながらクロートの仕事場へと向かった。
***********
仕事場に着けばクロートが目を大きく見開き、唖然としていた。
その視線は明らかに私の肩にいっていた。
「えっと……クロート、この子ね」
【初めまして、クロート! 私はリリア。光の精霊王よ! 貴方に会える事をとても楽しみにしていたわ。これからよろしくね!】
「あ、あぁ。よろしく……て言うかエデンって精霊の加護貰ってたんだな……」
「実は私もまだ知ったばかりなんだ。元々は持ってなかったものだから」
私の言葉に益々クロートが目を見開く。
まぁ、そうなるよねー……
リリアが言うには精霊の加護とは生まれつき備わっているものらしい。だからクロートが驚くのも当然だ。
だって生まれつき持ってたって訳じゃないのだから。
全てのステータスが1000になった途端って訳でも無いけど、明らかにそれが関係しているようにしか私には思えない。
クロートがジーッとリリアを見つめる。
一方のリリアもクロートをジーッと見つめている。
お互い全く視線を逸らさない。
「えっと……ねぇ、リリア。貴方、クロートに御礼を言いたかったんだよね?」
【そうよ! 忘れかけてたわ! クロート、私は貴方に御礼が言いたかったの。私の仲間である光の精霊を助けてくれたことを】
「…………あぁ」
あれ?
思わず私は2度見してしまった。
だってクロートの表情が明らかに暗くなったから。
それに何だかとても苦しそうに見えた。
「多分、それ俺の事じゃない」
【え?】
「え?」
クロートの言葉に私とリリアの声が重なった。
「何の精霊かは忘れたけど、昔確かに精霊を助けたことはある。けど主に精霊達を助けたのは俺じゃなくて別の人だ」
淡々と言うクロートに私とリリアは顔を見合わせる。
何だか……訳ありみたい。
少しの沈黙が走り、空気が重くなる。
そんな空地を打ち消したのは勿論リリアだった。
【いいえ! それでも助けてくれたことには変わりないわ! ありがとう、クロート! 感謝しているわ!】
こういう明るくて元気なところ、私は良いなと思う。
きっとこれからリリアのこういう明るい所に助けられていくんだろうな。
何となくだけど私にはそう思えた。
「まぁ、その話は置いといて……エデン。早速だけどこの間みたいにここにある瓶全部に魔力を注いでくれるか?」
クロートが指を指す。
私は指がさされた方を見つめる。するとそこには大量の瓶があった。ざっと見た感じで軽く100は超えてそうな数の瓶。これに全て魔力を込めるとすれば相当な時間が掛かるだろう。
「普通の奴だったらこれ全てに魔力を注ぐ前に魔力が底尽きるだろうけど、出来るか?」
「た、多分……出来る思う」
そう私が答えれば、クロートは小さく微笑むと椅子を持ってきて私に勧めた。私はその椅子に腰を下ろし、瓶に手を伸ばす。
中身はこの間の瓶と同じ色の液体。
確か薬って言ってた気がするけど、何の薬なんだろう?
いや、今はそんな事は考えずにさっさと終わらせてしまおう。そして早くここを飛び出して皆の元へ帰らなくちゃ。
アンくん……元気にしてるかな?
ルカ、泣いてないかな??
ミレイはきっと怒ってるだろな……
グランジュエには御礼を言わなくちゃ……
あー……集中出来ない。
【ねぇ、エデン。こんな話知ってる?】
「何?」
【昔、1人の女性がいました。彼女は精霊の加護を受けた特別な女性でした。でも彼女は病弱で、流行りの病気で命を落としてしまいした。そんな彼女を助けるべく、1人の青年はずっとずっと薬の研究を行ってきました。そう、死者を蘇らせる薬を青年は作ろうとしているのです…………というお話しよ!】
「え、落ちは?」
【無いわよ】
「あ、そっか……」
なんと言うか……よく分からない物語。
て言うか落ちが無いから物語と言えるのかも謎だ。
私はチラリとリリアの方を見つめる。
でもリリアは鼻歌を歌って一向に目が合わない。
やっぱりリリアは何かを隠しているの気がする。
でもその隠し事をリリアが話しくれそうには無い。
「……集中しよう」
私は瓶を取り、仕事に取り掛かった。
11
お気に入りに追加
5,662
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる