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魔導師の集い編
番外編
しおりを挟む初めてエデンと会った時、正直乗り気はしなかった。
没落しかけた家を助けるために婚約を結ぶなんておかしいと思ったし、見た目がどうとかの問題では無いけどただ単に何故魔力も無い落ちこぼれなんかと婚約しなきゃいけないんだ、という子供じみた考えしかなかったのだ。
だけど烙印を見た瞬間、そんな考えは消えた。
『綺麗なのに勿体ない』
気づけばそんな声が自分の口からこぼれていた。
あの時のエデンの顔は今でも忘れられない。
なにせその後大粒の涙を流しだし、泣きじゃくってしまったからだ。
正式に婚約が決まってからというもの部屋から出られないというエデンの為に毎日と言ってもいいほど俺はエデンの家に訪れては沢山話をした。最初は中々話さなかったエデンもだんだん心を開いてくれたのか話すようになってかくれて、次第には笑顔も見せるようになった。
お菓子をお土産に持っていけば嬉しそうに食べてくれた。
本を持っていけばまるで花が咲いたかのような笑顔を見せてくれた。
けど、お土産の中でも特に喜んでくれたのは俺のする話だった。
小さい頃はどういう子だったーとか、学校での話とか……エデンはこんな話を特に嬉しそうに聞いてくれた。
何故そんなに嬉しそうなのか一度尋ねたことがあった。その時エデンは「貴方のことが知れて嬉しいからです」と答えた。それが凄く嬉しくて、俺はエデンが喜んでくれるならと沢山の話をした。
最初は妹のような感覚だった。
だけどそれがだんだんそれが変わり始めたのはいつだっただろう? 今じゃあまり覚えてないけど、俺は確かにエデンの事が好きだった。
このまま順調に進んで結婚して、一緒に暮らしたい。
外の世界を一緒に探索したり、願わくば街へ出掛けたいとも思ってた。
でも、そんな願いは呆気なく打ち砕かれた。
18になった俺に突然ディグラード公爵がエデンとの婚約を取り消すようにと言ってきたのだ。
最初はそんな話に耳は貸さなかった。
だが少しずつディグラード公爵に脅しをかけられるようになった。
家を没落させる、と言われた時は正直やってみろ、と思った。
だけど次の脅しはそうはいかなかった。
『もし断るなは、エデンの命は無いと思え……』
なんて脅されたらその脅しにのるしかなかった。
そんな時、魔法学院で学んだことを思い出した。
人間は最大の悲しみを味わった時、膨大な力が目覚めるという話を。
もし自分と婚約破棄した場合、エデンはその最大の悲しみを背負い魔力が目覚めるのでは?
最大の悲しみを自分と婚約破棄した事でエデンに与える事が出来るのかは若干不安ではあったが、もし目覚めた場合はエデンを自由の身にしてほしい、と伝えた。
ディグラード公爵が俺の願いを受け入れてくれるとは思わなかったけど、伝えるだけ伝えた。
その後、予定通りエデンに婚約破棄をしに屋敷へと向かった。
わざと今回は使用人さんに冷たいお茶を用意してもらい、準備は完璧だった。
力が目覚める際、体温が急激に上がるらしい。
その熱は上がるほど大きな力が目覚めやすいとも聞く。
正直これは賭けだった。
冷たい紅茶をかけ体温を下げさせ、婚約破棄を告げる。
それから一気に熱を上げさせ、強い力を目覚めさせる……なんていう作戦。
エデンにはきつくて辛い思いをさせてしまったと思う。でも、エデンが自由の身になるにはこの方法しかないと思ったんだ。
そして婚約破棄を遂に告げた。
笑顔がだんだんと消えていくエデンを見た時、ゾッとした。今まで築き上げてきた信頼というものが一気にエデンの中で崩れ落ちてきていることが分かった。
でも、エデンを守る為なんだ。
そう何度も言い聞かせる。
その後、エデンがどうなったかは分からなかった。
俺の家は没落せずにすんだ。
だけどエデンの事が気になって仕方なかった。
そしてあの日、魔導師の集いでエデンと再会した。
そこで会ったエデンは俺の知るエデンでは無くなっていた。
それは良い意味で、だ。
なんと言うか昔は下を向いて気が弱い……守ってあげなければいけないという感じだったのが、今のエデンは上を向いて前を向いていた。そんなエデンから強さを感じた。成長したんだな、と心の底から思った。
今のエデンはきっと俺の事をどうも思っていないだろう。
でと俺はこの先もずっとエデンの事を好きでい続けると思う。
レッドドラゴンに乗り、妹フェリーヌを助けにいく為隣国へと向かっていくエデンの姿を見詰める。
だんだん小さくなっていくその姿に俺は目を細めた。
君は本当に強くなったと思う。
…………もう俺はエデンには必要無い存在だ。
ありがとう、エデン
君に出会えて本当に良かったよ。
そして…………さようなら俺の初恋。
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