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魔導師の集い編
37 一億リッチの値
しおりを挟む「っ…………お姉ちゃん!!」
フェリーヌの体の自由を奪っていた手枷と足枷を外してあげれば、フェリーヌが私に勢いよく飛びついてきた。こんな事されたのは初めて事なので少し戸惑ったけど、ここで1人恐怖を味わってたんだ、泣いて私に飛びついてくるのもむりはないと思う。
それにいつもは強気でしっかりしているフェリーヌがこんなに泣きじゃくる姿は初めて見たので、少し驚きもしながら少しでもフェリーヌが落ち着けるようによしよしと頭を撫でる。
「……お姉ちゃん、助けに来てくれてありがとう。でも、私は置いていって。私はお姉ちゃんに酷いこといっぱいしてきたから。だから……お願い、私を置いていって。奴隷になっても私は私だもん。大丈夫だから」
目から大粒の涙を流してるのに何処が大丈夫なの??
ねぇ、フェリーヌ。
貴方は私に何か隠してるんじゃない?
そう言えばフェリーヌがもっと小さい時。五歳頃だっただろうか? 私の部屋に来て「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」なんて呼びに来てくれたのは。
あの時のフェリーヌはいつも私の部屋に来ては扉の前で話し掛けてくれてたっけ。
懐かしいな……。
「フェリーヌが置いていってほしくても置いていかないから。フェリーヌ……あの人が……父がシグナリス王国に居る。そこでじっくり話そう。ね?」
「……お父様、捕まったんだ」
「……うん」
沈黙が走る。
早くフェリーヌを説得しなければいけないのは充分承知の上なんだけどどうフェリーヌを説得したらいいのか分からない。
こうなったら無理矢理にでも連れて帰ろう!
着慣れない服装のせいで動きにくいけど、まぁ何とかなるだろう。
そんな時、コンコンと何処からかノックするような音が聞こえてきた。
その音にフェリーヌがビクリと肩を動かし、私にギュッと抱き着く。
取り敢えず隠れなきゃ……。
私はキョロキョロと辺りを見渡す。
だけどこの部屋には何も無い。
あるものと言えば私がさっき壊した檻ぐらいだ。
「エデン! エデン!」
だけど次に聞こえてきた声に思わず私はホッと胸を撫で下ろす。
「……ミレイ!」
そう私が投げかける。
すると
「えぇ。私よ」
と返ってきて、笑顔がこぼれた。
その声は確かにミレイのものだった。
どうやらノック音はミレイの仕業だったらしい。
キョロキョロと不安そうに辺りを見渡すフェリーヌに、私は大丈夫だよ、と言う。そう言えば安心したのか小さくフェリーヌは頷いた。
「今降りるからちょっと待ってね」
そんな声が聞こえてきたかと思えば次の瞬間ミレイが上から軽々と私達の前へと現れた。しなやかな着地に、思わず拍手しそうになる私。まさか天井に居たなんて思ってもいなかったけど。
「エデン、瞬間移動魔法を試してみたけれど魔法が禁止されていて使えないわ。グランジュエ先生の作戦通りにいきましょう。まずここには外へ繋がる通路を通って外へ行くわよ。半信半疑だったけれどエデンと別れた後すぐに通路を見つけて辿ってきてみたけど……ビンゴだったみたいね」
ミレイはそう言うと、青白い光に包まれた紙を私へ差し出した。
その紙から感じるのは膨大な魔力。
ゴクリと私は息を呑む。
「グランジュエ先生の魔法の一貫よ。彼、あー見えても凄いんだから」
「……大魔導師って本当だったんだね」
ただの紙の筈なのにそれから感じる魔力は膨大なもので、グランジュエの魔導師としての凄さがよく伝わってきた。
どんな魔法なんだろう? 後で聞いておこう。
そんな事を考えながら、私は早速脱出の準備を始める。
ミレイを先頭に次にフェリーヌ、そして私の順番で通路へと入り外へと脱出する、という作戦。
外にはルカとアンくんが待機しているらしく、見張りは完璧。
そしてこの脱出ルートの存在を知るものはグランジュエを含む私たちしか居ないとか。
なにせこのルートは昔グランジュエが若い頃こっそり造っておいた通路らしい。やんちゃだった頃に裏市場の商品をこっそり盗む為に造ったとか何とかで……とにかく感謝しきれない。
ミレイが軽々とジャンプし、通路へと入り、次にフェリーヌが通路へと入る。
「フェリーヌさん、登れる?」
「……は、はい。大丈夫……です」
「じゃあ最後は私だね」
伸ばされたミレイの手。
私はその手を掴むべく、ジャンプをしようとした時だった。
カツン カツン
足音が聞こえてきた。
その足音は明らかにこちらに向かってくる足音だった。
「……二人は先に逃げて」
「何言ってるのエデン!?」
「そうだよ! お姉ちゃんも一緒に逃げよう!」
「ここで三人捕まったらどーもこーもないでしょ? だから私が時間稼ぎする。その間に二人は逃げて」
そう、ここで三人捕まったら意味が無いのだ。
なら……私が時間稼ぎすればいい。
もし何か起こっても私ならこの力で対応できると思うから。
「………分かったわ。ごめんね、エデン。それと……ありがとう。外で必ず会いましょう」
「そんな、お姉ちゃん!!」
最後までフェリーヌは私の事を呼んでいたけど、その声はどんどん小さくなっていく。ミレイがフェリーヌを何とか連れていってくれたらしい。
二人を確実にここから抜け出させる為にはまず通路の存在がバレないようにする事。その為には時間稼ぎが必要だ。私ならその時間稼ぎが出来る。もし何かあったとしても対処できるだろうから。
ガチャ
ギギギギィ……
扉の開く音がした。
徐々に部屋へと差し込む外の光。
私は光の差す方へと視線をむける。
するとバッチリとこのオークションの管理人と目が合った。
「お、お前、何をしている!? くそ、五十三番が居ない。逃げられたなら仕方ないか……お前、先にステージに出ろ。って……お前枷はどうした!?」
「壊しました」
「なんだと!? Aランク冒険者でも壊さないような一品だぞ!? 」
とにかく今は時間稼ぎだ。
私は新たな枷を付けられ、オークション会場へと連れていかれた。
***********
ガヤガヤと響く薄暗い場所。
だけどそんな薄暗さは少しだけで、あっという間に光で照らさせた。暑くて眩しいほどの光。
これがスポットライトだと気づいた時にはもう私はオークションのステージへと上がっていた。
「商品番号六十五番! デコに烙印が押されています。しかぁし! 見てください、この美しいブロンドの髪と、海のように深い青い瞳! 麗しいこの容姿を手に入れ奴隷として可愛がるのも良し、人形のように飾るもの良し! 使い方は皆様次第でございます! それにこの商品、なんと先程Aランク冒険者でも壊せない枷を壊していたとか。もしかしたら物凄い才能の持ち主なのかもしれません! という事で…………ステータス測定を行います!!」
派手な服に身を包む男性が愉快そうな声でそう言った。
そして男性の言った通り、ステータス測定を行う為の石版が運ばれてきた。
これは……流石にやばい。
ざわざわとざわめきが増す観客席。
ここで全てのステータスが1000だってバレたら終わりだ。
ポタリとステージに汗が落ちた。
二人は逃げ切れたかな?
だったらいいな。
そろそろ私も逃げないと。
そう思ったけど何故か体が動かない。
それにどんどん視界がぐらついてきた。
頭だってもう全然働いてくれなかった。
「……一億リッチ」
そんな中、突然声が響いた。
さらにざわつき出す観客席。
司会者の男性があんぐりと口を開けている。
「聞こなかったか? 一億リッチだ!」
またそんな声が響き渡り、次の瞬間、
「い、一億リッチ!! 一億リッチが出ました! ありがとうございます!」
と司会者の男性が涙声で叫ぶように言った。
観客席から拍手の音が聞こえてくる。
誰かが私の元へ近づいてくるのが分かったけどそれと同時に私の意識は去っていった。
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