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魔導師の集い編
32 父の背中
しおりを挟む「っ!! こうなったら!! お前、ちょっとこっちに来い!」
「ほえ?」
強引に隣に居た少女の腕を掴み、ナイフをその子の首筋に当てる。しかもその少女はルカだった。まだ自分の身に何が起ころうとしているか理解出来てないのかキョトンとしている様子のルカの首筋に当てられているナイフがキラリと光る。
これには会場がざわざわとざわつき始め、パニック状態に陥った。
「ルカを離して……」
「離すわけない無いだろう! エデン! お前がこちらに来なければこの娘の命は無いぞ!」
「ルカは関係ない。離しなさい」
私が一歩踏み出そうとすれば、それはミレイによって阻止された。
ここで私が動いてしまえばルカの命は無いからだ。
私は唇を噛み締め、拳をギュッと握りしめた。
今のルカは人間の姿。
元のドラゴンの姿だったら硬い皮膚でナイフなんて通さないのだが……。
元はドラゴン……。
そうだ。ルカはドラゴンなんだ。
私はニヤリと微笑んだ。
ルカを人質としてナイフを押し当てられるのを見て焦ったけど、もうそんな焦りは無い。逆に余裕しかなくなった。
「な、何がおかしい!!」
「いえ、ただ可哀想だと思っただけです」
「可哀想……?」
私は小さく頷く。
人質に選ぶ人を間違えたのがディグラード公爵の大きなミス。
だってルカは本当はドラゴンなんだから。
私はルカを指さし呟く。
「ルカ。真の姿へと戻れ」
【はーい】
ルカがニコリと微笑む。
その笑顔には不安など一切無い。
次の瞬間ルカが眩い光に包まれた。
目を見開くディグラード公爵。
先程までは腕の中にすっぽりと収まっていたルカだったが、みるみるうちに大きくなり、遂にはルカの本来の姿であるドラゴンの姿へと変わっていた。
お屋敷の天井が高いおかげで天井を突き破ることは無かったけれど、スレスレである。
皆ドラゴンを見て唖然としているけど、まぁそうなるよね。
しかもドラゴンと言えど、レッドドラゴンなのだ。
ディグラード公爵が驚いている隙に私はその手からナイフを取り上げた。
そしてそのナイフを遠くへと投げ捨てた。
「エデン! 父親に向かってそんな態度をよく取れたものだな!」
「父親って……よくそんな事まだ言えますね」
「っ……何が望みだ!? 分かった、その烙印消せば一緒に来てくれるのか!?」
必死に私に縋り付くディグラード公爵に、私は大きなため息を吐いた。
「私は怒っています。貴方の態度に。私は絶対にディグラード家には戻らない。さっきから言ってるでしょ?」
「…………本当に悪かったと思ってるんだ。跡継ぎのことも、烙印の事も、セリアのことも……そして今の事も。だが、セリアに関しては本当に驚いたんだ。 最初はセリアの家が没落しかけていてそれを助ける条件としてセリアにエデンとの婚約を結ばせた。落ちこぼれのエデンと婚約を結ばせて嫌がると思っていた。それですぐに婚約を破棄してセリアの家は没落するだろうと。でも、全く違った。気づけばお前達は仲睦まじくなっていた。正直言って、とてもつまらなかったよ」
「…………それで?」
「…………私はセリアにエデンとの婚約を破棄するよう命じた。最初は拒否され続けた。だがセリアの家の話を持ち込み、脅した。あいつは最後まで迷っていたよ。まさかあんなにエデンの事を愛していたなんて予想外だった。それに……あいつは私に最後までずっと頼み込んできた。婚約を破棄したらきっとエデンに本来の力が宿ると。その時はエデンを自由の身にさせてほしい、と」
「セリア……様が?」
力無く頷くディグラード公爵に、私は拳をギュッと握りしめる。
セリア様に関しては驚きしかないけど、一旦置いとく事にしよう。
まずはこの人、父を何とかしないといけないからね。
この人の話を聞く限り、私は昔も今変わらず玩具らしい。
そんな中またこの人と同じ道を歩むなど考えられない。
私はニコリと微笑み、そして
「取り敢えず……一発いえ、三発ほど殴らせてください」
「へ!? エデン!?」
「では一発目いきまーす!」
私は思いっきりディグラード公爵の言葉を無視し、勢いよくパンチを御見舞した。
私のパンチが余程強烈だったのか、ディグラード公爵は宙を舞い、そして床へと落ちてきた。
「や、辞めてくれ! エデン!!」
「こんなんじゃ私の今までの辛さは味わえませんよ? あと、二発……いいえ、十発ぐらいかな??」
「や、辞めてくれ! 本当に!!」
「あ、もしかして魔法攻撃をお望みですか? 私、物理技も得意だけど、魔法も得意ですよ?」
「いやだぁぁぁぁ!」
叫び声を上げながら、体をお越し会場の奥へと走っていくディグラード公爵。逃げようとしているみたいだけど、そう簡単には逃げられなかった。
鎧を着た人達が一斉にディグラード公爵を囲んだのだ。
その数何百人。
しかもその鎧にはシグナリス王国の紋様が刻まれていた。
一体何が起ころうとしているのだろう……?
そう私が思った時だった。
ギュッと背中から抱きつかれ私はハッとする。
後ろを振り向けばそこにはミレイが居て、その隣にはゼアさん。そしてレオン殿下も居た。
「ディグラード公爵。さすがに今回の件はやりすぎだと思う。そう思わないか? 兄弟達?」
「そーそー、没落は逃してあげたのにまさかグランジュエさんを利用するなんてねー。僕も兄さんと同意だよ」
「はい。私もレオン兄さん、ゼア兄さんの意見に同意です。ディグラード公爵の行いは行き過ぎていると思います」
ゼアさんもミレイも今レオン殿下のこと兄さんって呼んだ?
という事は事は……二人は……もしかして……?
「ゼアさんとミレイって王族なんですか!? ということは兄弟!?」
慌てふためく私に、ミレイがくすくすと笑う。
「えぇ。黙っててごめんね、エデン」
「僕も黙っててすみません。でも、似てると思うんですけどねー髪色とか?」
言われてみれば皆桃色の髪色だ……。
通りで何処かで見た事あるような気がしてた訳だ!
「…………さて、ディグラード公爵よ。これから貴方は一旦牢屋へと入ってもらおうか」
「ひぃ!」
情けない声をあげるディグラード公爵に、私は舌を出す。
最後は抵抗なく兵士達に連行されたディグラード公爵。
いや、もう公爵じゃなくなっちゃうのか。
そう言えば……あの人の名前知らないな。
私も私であの人の事を全く興味なかったのかもしれない。
連行されていく父の後ろ姿を見つめる。
どんどん遠くなっていくその後ろ姿を見つめながら私は小さく微笑む。
何だか……スッキリしたな。
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