烙印を理由に婚約破棄。その結果ステータスALL1000の魔導師になりまして

流雲青人

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魔導師の集い編

31 仮面をとる

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「話に割り込んでしまって大変申し訳ないのだけれも、ちょっといいかしら?」

 そう言って突然私の前に現れたこれまた王子様のような衣服に身を包む人。
 しかしその人の声は綺麗なソプラノの声なので間違いなく女の人だと思う。

 それと……その声は何処かで聞いた事のある優しい声だった。 


 「な、なんだ貴様!?」

 「仮面舞踏会なのだから正体は明かしてはいけないのよ。でも、これは仮面舞踏会とは言わないのかも。だってダンスが終われば仮面を取る事になるんだから」

 「ぐぬぬぬぬ! うるさい! うるさい! 何処の庶民魔導師かは知らないが、これはディグラード家の問題。首を突っ込むな!」

 お父様はそう言うと、女の人を思いっきり突き飛ばした。
 床に勢いよく尻もちをつくその人に、私は慌てて駆け寄る。

 「大丈夫ですか!? 怪我は!?」

 「平気よ。心配かけてごめんなさいね」

 「心配だなんて……その、ありがとうございます」

 「うんうん。勝手に私が入り込んじゃったのが悪いから心配は要らないわ。でも……」

 女の人はそう言うと、ゆっくり立ち上がる。
 そしてギロりとお父様を睨み付けた。
 だけどその姿はとても凛々しくて、とてもかっこよく見えた。
 そしてそれと同時に私はやっとある事に気が付いた。

 「え、もしかして……!」

 そう言いかけた瞬間、口を手で覆われた。
 目を見開く私。
 ちょっとしたパニック状態に落ちた私だったけど、それはたった一瞬だけだった。

 「ごめんねー、でも仮面つけてる間はその人の正体に気づいても触れてはいけないんだよねー。ルールもしかして知らない?」

 この柔らかな優しい声に私のパニックは収まった。
 理由は簡単。私の知る人物だったからだ。
 会話をした時、相手は敬語だったけど、間違いなくあの人だろう。

 私はチラリと横目で私の口を覆った人物を見つめる。
 すると目がバッチリ合った。
 その人は慌てて私の口から手を離した。

 「あ、えっと、すみません! 苦しかったですよね」

 さっきの口調からあの時と同じ敬語に戻るその人。
 私は咄嗟にその人の名前を呼びそうになった。
 だけどルールを思い出し、口を閉じる。
 危ない、危ない。危うく口に出してしまうたころだった。
 
 「おやおやー? もうダンス所ではない雰囲気ですねー。仕方ない、ダンスは辞めてもう仮面取っちゃいましょあ! さぁ、皆様、仮面を取り、真の姿をお披露目頂こうか!」

 グランジュエがもうダンス所ではないことに気付き、ダンスタイムは終了。音楽がやんだ。そしてそれと同時に次々に皆が仮面を取り出す。
 私も前髪の下にある烙印が見えないようにそっと仮面をとった。


 「エデン!」

 「ミレイ!」

 ミレイが私の方へと駆け寄ってきて、勢いよく私に抱き着いた。

 やっぱりミレイだった。

 私は心の底から安堵した。
 それほど不安だったんだと思う。
 突然脅されて来た集いの場でまさかのお父様と再会。
 今頃子供だとか育ててきたとか言ってきて、だけどフェリーヌを売り飛ばしたって聞いた時は大きく心が揺らいだ。私が戻ればフェリーヌを連れ戻す事が出来るかもって。

 嫌な妹だけど、やっぱり妹は妹なのだ。
 

「エデン! あんな男の話には耳を貸しちゃダメよ! あの男はエデンを利用しようとしているの。だから絶対にディグラード家には戻ってはダメ!」

 「うん……分かってる。ありがとう、ミレイ」

 そう私が言えば、ミレイは小さく頷く。
 大丈夫。私の答えはもうとっくの前に決まってる。

  
 「お父様……うんうん、ディグラード公爵。私はもうディグラード家に戻るつもりはありません。その様子であれば家が潰れるのも時間の問題でしょう。最後くらい、儚く散って惨めに消え失せて下さい」

 「そんな……エデン! 頼む! エデン!!」

 「泣いたって私の考えは変わりません。私は貴方の道具なんかじゃない! 私は人間です! ずっと部屋に閉じこもって頃とは違う。もう逃げない! 私は強くなったんだから!」

 そうある意味は私は強くなったのだ。

 拳をぎゅっと握りしめた時だった。

 ふわりと甘い香りがした。
 振り返ればそこには桃色の髪をした男の人。

 私は大きく目を見開いた。

 「レオン殿下……」

 そう私がレオン殿下の名前を呼べば、レオン殿下は小さく微笑んだ。

 あれ? この仮装……さっきの……。

 私はレオン殿下の衣装を凝視する。
 その仮装は先程私にダンスを申し込んできた人と同じものだった。

 「没落は逃してやったのがこちらの落ち度だったようだな。ディグラード公爵、もう貴方を味方するものなどいない」

 「ふん! 馬鹿間抜け王子が! 私はまだ諦めんぞ! エデン! 必ずお前を連れ戻す! 必ずだ!!」

 ギャーギャーと騒ぎ散らすディグラード公爵。
 
 あーーーーもう…………

 我慢の限界だ。




……ブチッ


 何かの切れる音がした。

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