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魔導師の集い編

30 ディグラード家

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 仮装も決まり、私達は集いの場へと向かう。
 私はエルフ、ルカは花嫁、そしてアンくんは王子様の仮装だった。
 アンくんの仮装もこれまたリアルで、腰に下げている鞘のおかげかその仮装は一際目立つものだった。
 てか、それ絶対に本物の剣だよね?

 いつでも抜かりのないアンくんに、私は改めて関心した。
 それと三人揃ってヘンテコな仮面をつけているせいか、吹き出しそうになった。

 そして遂に集いの場へと到着した。
 チョコレート色の扉が開けば、そこには様々な仮面をつけた人達が楽しそうに世間話に花を咲かせていた。
 パーティーは初めてだから少しドキドキするけど、それよりもあのグランジュエという魔導師が私の秘密をどうするのかが気になって仕方ない。この集いにも参加したんだからその秘密をいっそ忘れてほしい。

 そんな欲望を持ちながら、私は集いの場へと足を踏み入れた。

 「お師匠、今から何するの?」

 「取り敢えずグランジュエを探す!」

 「ルカも手伝いますっ!」

 「うん。ありがとう。でもルカ一人じゃ危ないからアンくん、ルカをよろしくね」

 「了解」

 「それじゃあまたここで落ち合おう。人が多いから気をつけてね」

 「はい!」

 二人の返事に私も頷く。

 集いの場はかなりの広さである。
 探すのは困難に近いかもしれないけど、あの派手な髪色なら案外すぐ見つかるかも。
 そんな小さな期待を胸に私はグランジュエを探す。

 すると


 「やぁやぁ、こんにちは、美しいエルフよ」

 「……はい?」

 そう声を掛けられ、私は首を傾げた。

 そう言えば私、エルフ の仮装してたんだっけ?

 「今からダンスが始まりますが、御一緒に踊ってはいただげせんか?」

 そう言って私へと手を差し出す男性。
 大きな羽が特徴的な白い仮面をつけているその人もまた王子様のような仮装をしている。

 「えっと、ダンスよりもグランジュエという方を探しているのですが……そのグランジュエの居場所を知りませんか?」

 「あぁ……あの人ならまだいらっしゃって居ないんですよ。グランジュエはこの集いの場へと誘い出す為には参加者達が踊る必要があるんです」

 「な、なるほど? ならお願いできますか?」

 そう私が言えばその人は仮面越しでも分かるくらい目を見開いた。
 そして次の瞬間くすくすと笑いだした。

  私、変な事言っちゃった?

 一人焦る私にその人が呟く。

 「いえ、相変わらず……いえ、面白い方だと思いまして」

 「面白い……ですか?」

 「はい、とても」

 そう男性が言った時、8時を知らせる鐘の鳴る音がした。
 その鐘の音が鳴り終わったのと同時に、音楽が流れ出し次々に人々が踊り出す。くるくると回転したり、見つめ合いながらただ歩くなど様々なダンスが繰り広げられている。だけど仮面越しでも分かるくらい皆楽しそうだった。

 「では私達も踊りましょうか」

 「あの、実は私、こうして男性と踊るのは初めてでご迷惑になると思うんです。だから他の方と踊った方がよろしいのではないでしょうか?」

 今思えばセリア様とも踊った事がなかったっけ。
 お屋敷でパーティーは何度も開催された事はあったけど私は参加出来なかったから。

 「いえ。私は貴方と踊ってみたい。それだけなので気にしないで下さい。それに、女性をエスコートするのが紳士の務めです」

 「そう、ですか……」

 ダンスは男性にエスコートされて踊るものなのね。
 それなら何とか踊れるかも……。
 そう思い、私は手を差し出す。

 だけどそれは間に突然入ってきたある人によって阻止された。
 その人は私の方を見るなり、ギロりと私を睨み付けた。
 その瞳は私がよく知る瞳。冷酷なその瞳に私は思わず後ずさりした。

 「やっと見つけたぞ! エデン!!」

 「お父様……!!」


 割り込んで入ってきた人は間違いなく私の父だった。
 個性的なちょび髭が何よりの証拠だ。
 だけど何処か今までと様子が違う。
 ヨレヨレのスーツと言い、まとまっていない髪といい……何だか老けたようにも見えた。

 「な、何故ここに……?」

 「グランジュエに協力してもらったんだ。さすがグランジュエ。さすが私の友人だ!」

 大きく口を開け、豪快に笑い出すお父様。
 しかしその笑顔はあっという間に無くなり、太陽が一気に沈んでしまったかのように暗くなった。

 まさかグランジュエとお父様と繋がってたなんて……。

 私は唇を噛み締めた。

 すると
 
 「大事な娘さんと会えたようで良かったです、我が友よ。見つけてあげたんですから御礼としてエデンさんを下さい。なにせエデンさんは素晴らしい素材なのだから」

 ひょこっと突然後ろから現れたグランジュエに私はビクリと肩を動かした。
 お父様も驚いたのか目を大きく見開く。
 そしてその後目を泳がせながらごにょごにょと話し出す。

 「あ、あぁ……グランジュエのおかげだ。礼を言う。だが、素材にはやれない。エデンは我が家の次期当主なのだ」

 「当主? いやいや、もう潰れかかってるじゃないですか」

 グランジュエの言葉に私は目を大きく見開いた。

 ディグラード家が没落しかけている……?

 有り得ないような話だけど、グランジュエが嘘をついているようには見えない。私はお父様へと再び視線を戻す。
 お父様の額には大量の汗が伝っており、さらに瞳に冷酷さが増していた。

 そして次の瞬間、私は勢いよく肩を掴まれた。

 「エデン! ディグラード家を立て直すにはお前の力が必要なんだ! 頼む! 戻ってきてくれないか!?」

 「何を言ってるの……?」

 唖然とする私にお父様が怒鳴るように話し出す。

 「お前が出て行った後、王宮の奴らがやって来た! それで突然ディグラード家を潰そうとしたんだ! 何とか没落は回避出来たものの、もう没落寸前だ。頼む、エデン! 戻ってきてはくれないか!!」

 「嫌です! 今更行くわけないじゃない!」

 「何故だ!? 何故なんだ!? お前を育てたのは私だぞ! 何故親に逆らう! 子供は親の言う通りにすればいいんだ!」

 「今更親の顔をしないで! 私は1度も貴方のことを親だと思ったことは無い! それに、私はディグラード家の当主にはならない! 当主はフェリーヌでいいじゃない!」

 フェリーヌ

 その言葉にお父様がその場に膝から崩れ落ちた。

 私はそんなお父様を見て、愕然とした。

 いやな予感がした。

 でもただの予感。
 外れて欲しい。
 どうか外れて欲しかった。


 「もしかして……フェリーヌを見捨てたの?」

 沈黙が走る。

 そしてその数秒後に、お父様が呟いた。

 「あいつは……ある奴隷として売り飛ばした。いい金になったよ」

 外れて欲しかった予感が的中した瞬間だった。
 嫌な妹だったけど、世界で1人だけの私の妹だ。
 あれだけ溺愛していた娘を簡単に売り飛ばしたお父様にも私は呆れて何も言えなかった。いや、人間性を疑ってしまった。

 「…………有り得ない。有り得ないよ!」

 「だがな……お前が帰ってくれば全ては元通りだ! フェリーヌだって連れ戻せる!! だから、頼む……頼む……エデン……」

 大粒の涙を流しながら床へと頭をつけ、私へと必死に頼み込むお父様。

 こんなお父様の姿、見たくなかったな。

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