上 下
16 / 78
謎の依頼編

16 竜騎士の見習い

しおりを挟む

 「この役立たずがっ!!」

 例のパーティの皆が集まり数分後。突然ギルド内にはそのパーティのリーダーの怒鳴り声が響き渡った。

 怒鳴られている人はゼアさん。
 先程まで生死をさ迷っていた人だ。

 そんなゼアさんを険しい目付きで睨みつける体格いい男性。

 「くそっ……お前がもう少し良い盾になっていれば良かったんだ! 分かってるのか!?」

 「そうよそうよ! 顔が良いから入れてやったのにさ、とんだ役立たず!」

 顔が良いから入れたって……なんて理由だよ。

 思わず突っ込みを入れる私。
 まぁ……確かにゼアさんは綺麗な顔立ちだと思う。
 男性の割には白い肌とか……綺麗な桃色の髪色とか。
 ……やっぱり何処かで見覚えある気がした。

 「すいません。でも、皆が無事で良かったよ 」

 こんな状況の中でも笑顔を一切消すことのないゼアさん。
 あんなに酷いことを言われているのに全くもって相手を攻めないし、自分の意見も言おうとはしない。
 見ていてモヤモヤしたけど、これはパーティの問題。
 首は突っ込めない。

 「ゼア。取り敢えず、お前は今日でパーティを辞めてもらうぞ」

 「はい。今までありがとうございました」

 意外とすんなり受け入れるんですね……。

 あまりにもすんなりと受け入れてしまうゼアさんに私は驚きを隠し切れなかった。

 「僕もそろそろ家に顔を出さないと叱られてしまう頃ですし。こんな僕をパーティに参加させてくれて本当にありがとうございました」

 いい人なのか、もしくはただ単に呑気な人なのか……それは分からなかったけど、これはこれで一件落着なのだろうか?

 「それと、エデンさん!」

 「は、はい?」

 突然を呼ばれ、戸惑う私にゼアさんが微笑む。
 なんだか気品溢れる笑顔だ。

 「また今度御礼をさせて下さい。エデンさんは命の恩人ですから」

 「は、はぁ……」

 これは断れなさそう。
 取り敢えず承諾すれば、また気品溢れる笑顔を向けられた。

 にしても本当に綺麗な笑顔。

 私は思わず手で目を覆った。

 
 ゼアさんと、冒険者さん達を見送った後今度は別の件に取り掛かる。
 そう、あの謎の依頼についてだ。

 「おーい。もう皆帰っちゃったから出てきていいよー」

 そう私が声を掛ければ、物陰から黒い塊が現れた。

 「じゃあ、貴方の話しを聞かせてくれるかな?」

 「……あ、悪魔!!」

 「悪魔じゃないからね! 魔導師の見習いだからね!」

 何故か怯えられてるんだけど、普通逆じゃないかな?
 だって相手は冒険者を襲ってた訳だし。

 「まずはそのフード取ろうねー」

 私はそう言って深々と被られていたフードをとる。
 以外にも抵抗されなかったから少し驚いたけど、一番驚いたのはそのフードの下から現れた顔だった。

 太陽みたいな金色の髪に、深い緑色の瞳。だけどその瞳の瞳孔が微かにだけど黄色に輝いていて、まるで宝石みたいだった。
 それに整った顔立ちはまだまだ成長途中というか……簡単に言えば可愛らしい顔立ちだった。
 見た目からして……十二歳ぐらいかな? 


 「か、かわいい……」

 思わず口から出た言葉。
 そんな私の言葉にその子は顔を真っ赤にさせ、声を上げた。

 「可愛い言うな! 俺は男だぞっ!」

 「男!? さ、詐欺だっ!」

 「お前だって悪魔だろ!」

 「それに関しては本当に違うからね!」

 子供みたいな言い合いかもだけど、これに関しては引き剥がれない。悪魔呼ばわりはさすがの私でも黙ってはいられなかった。

 「だっておかしいだろう! 竜人の俺が人間如きに負けるなんて!」

 「え……貴方、竜人なの?」

 普通の人間にしか見えないんだけど……

 竜人と言えば人間離れにした身体能力。
 人間如きにってそう言う意味だったのか!
 そりゃあ負けたら驚くだろうし、悪魔呼ばわりするのは仕方ない事かもしれない。それよりも私はどうやら竜人よりも強いらしい。これに関してはいろいろ不味い気がする。

 竜人の人間離れした身体能力は異常なものだと聞く。
 大きな石を片手で粉々にしたり、三メートル以上の大ジャンプも出来るとか。
 でもまだこの子は子供の竜人。
 今は私が強くても仕方ないのかもしれない。
 なにせ私はステータス全てがマックスの1000なのだから。

 「竜人は竜騎士になる為に人間を捕まえるんだ! 指定は冒険者ランクがA以上。依頼を出してAランクの冒険者を釣ったのに……あんたが乱入してくるから俺の計画は台無しで……しかも竜騎士の試験に落ちた俺はもう帰る場所もないんだよ!」

 「えっと……ごめんね。貴方の言ってることがよく分からないかな……その最初から説明お願いできるかな?」

 私がそう言えば、その子は目尻に溜まった涙を拭いながら説明してくれた。

 その子が言うには竜人は竜騎士になる為に冒険者ランクがAランク以上の人間を五人捕まえ、冒険者カードを奪う事が必要らしい。そしてそれに失敗した場合は竜人の暮らす国……竜の国から追放されるらしい。試験中は空からドラゴンに乗った竜騎士が監視しているらしく、自分が試験に失敗した事はもう国に知らされているだろう……との事。


 …………成程。

 私、凄く申し訳ない事をしたらしい。
 けどもしあの時冒険者さん達を助けていなかったらゼアさんはきっと亡くなっていたと思う。
 てか冒険者カードを取るだけならあそこまでボコボコにする必要あったのだろうか?
 
 うーん……難しいな。

 膝を曲げ、私は丁度目線が合うように屈む。


 「ねぇ、名前はアンドレでいいんだよね?」

 「そうだけど……」

 「じゃあアン君。今日から私の家で弟子として住まない?」

 「は?」

 「ちょ、ちょっと待ってください! エデンさぁぁぁぁぁん!!」

 大声を上げたメルさんが慌てた様子で私の元へ駆け寄る。
 そして耳打ちで話し出す。

 「相手は竜人ですよ!?  」

 「まぁそうですけど……放っておけないじゃないですか。行き場も無いみたいだし……それに私の家一人暮らしには大きいので大丈夫ですよ? それにあの家一人暮しにしては広すぎますし」

 「そういう問題じゃないです!」

 「ねぇ、アンくんはどう? 嫌?」

 「エデンさん話しを聞いてくださいぃぃぃ!!」

 メルさんの声が響き渡る中、私はアンくんに尋ねる。
 そんな私にアンくんが呆然としながらも小声で話し出す。

 「……変な奴」

 「変な奴じゃなくてエデンだよ。魔導師の見習いで、今日からここで暮らすことになったの」

 「後悔してもしらないからな……」

 「うん。いいよ」


 後悔なんてしないよ。

 そんな保証は何処にもないけど、もう居場所が無いというアンくんを放ってはおけなかった。
 私はアンくんを自分と重ねてしまった。
 そうしたら手を差し伸べずにはいられなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...