上 下
17 / 78
謎の依頼編

番外編

しおりを挟む

 暖かな日差しが図書室に降り注ぐ。
 オレンジ色に染まる宮殿の図書室に一人。
 私、シグナリス王国第一王女のレイ・シグナリスは何度目かも分からないくらい読んだ本を再び読み漁っていた。
 図書室にある本の数は三千冊以上。
 そんな本を全て幼い頃から読み漁り、読破してきた。

 王族の事を良く思っていない輩がいるからと幼い頃から公の場には明かされずにいた私。その為、外の世界に出ることは固く禁じられていた。


 でもね、禁じられたら逆に気になってしまうのが普通だと思うの。

 今まで何度もお城を抜け出してはお気に入りのレストランやお洋服屋さんに通ったりした。上手くぬけだせた時はバレない事もあったけど、基本いつもバレて大抵連れ戻されて国王……私の父に叱られた。
 だけど私は叱られたってお城から抜け出す事を辞めなかった。


 そんな我儘な行動ばかりとっていたからその日は罰が下ったんだと思う。

 その日はエデンと出会った日だった。
 そしてその日、私は初めて知らない人に絡まれた。
 公の場には明かされずに育ったからと言って私は外の世界を甘く見すぎていたみたい。
 どうせ私を第一王女と知る人は居ない。
 だから抜け出しても大丈夫。
 そんな軽い気持ちでいつも通りお城を抜け出していた矢先私は初めて人に絡まれた。しかも、どうやらその人は私の事を知っているようだった。

 あの時だけは初めての事で怖くて何も出来なかった所にエデンが現れ、まるで本の中に出てくる王子様みたいに私を助けてくれた。


 あの時の事は一生忘れられないと思う。
 だって私の思い出のページに刻まれているのだから。


 お気に入りの本をギュッと抱きしめ、私は窓の外を見詰める。

 今頃エデンはルゲル村に着いた頃かしら?
 うんうん……もしかしたらとっくの前に着いているのかも。
 お姫様抱っこされた時は驚いたけど、本当にエデンは可愛くてカッコよかった。



 ガチャ

 図書室の扉が開く音がした。

 ……使用人かしら?
 そう言えばもう夕食の時間。
 出しっぱなしにしていた本を本棚に片付けようと私は椅子から腰を上げる。

 「あ! ここに居た!」

 「ゼア兄さん!?」

 思わぬ来客に私は驚く。
 一方、ゼア兄さんはニコニコしながら私の元へ駆け寄ってくる。

 ゼア兄さんはこのシグナリス王国の第二王子。
 私と同じで公の場には明かされず、この世には存在しない人間として育てられてきた。
 もし第一王子であるもう一人の私の兄が暗殺、もしくは病死などした時の場合の為に。

 第一王子の方の兄さんは厳しい人だけど、次期国王として勉学に励んでいる。第二王子のゼア兄さんは社会見学とか言って三ヶ月ぐらい前に家を出たってきり音沙汰無くて凄く心配していたのにこんなにひょっこり帰ってくるなんて……。

 「ゼア兄さん。三ヶ月も何処に行ってたの?」

 「冒険者になってパーティを組んだんだー。とは言っても雑用係みたいなものだったけどね」

 「社会見学に行くって言ってたけど、まさか冒険者になってたなんて……」

 昔からゼア兄さんは思いついたら即行動の人だった。
 だけどまさか冒険者になっていたなんて……。

 「いろいろ大変だったよー。生と死の境目もさ迷ったしねー」

 「に、兄さん!? それはそんなに軽々しい話じゃないわ!」

 生と死をさ迷ったと言う割には平然としているゼア兄さんに私は突っ込みを入れた。
 兄さんは昔からこう……なんと言うか……少し変わってるのよね。

 「生と死をさ迷ってた時にね、助けてくれたんだ。綺麗な女の人だったよ~」

 「そ、そう……って女の人!?」

 「あ。でもね……その人と出会ったからさ、だから良かったなってだけで、もしその人との出会いが無かったら今頃僕、パーティ皆をどうしてたかは分からないけどね」

 そしてたまに常識人を掛け離れた様なことを言う。

 ゼア兄さんは昔から剣術に関しては本当に凄くて、騎士団団長と互角に戦える剣術を持っていた。

 「まぁ、たった数時間前の出来事だけどね」

 「兄さん!? 」

 「もうパーティなんて懲り懲りだよ」

 大きなため息を吐き捨てる兄さん。
 そんな兄さんに私は尋ねる。

 「ねぇ、そのパーティで何があったの?」

 「いやーね。盾にされたんだよねー」

 「た、盾?」

 「モンスターが出る度にだよ? 酷いよねー」

 「そ、そう……それは大変だったわね」

 「まぁ、僕の話は置いといて。レイもなんか変わったね。三ヶ月あってないだけだけど何か明るくなった?」

 兄さんに指摘され、私の頬が緩む。
 自分でも自分が変わったような気がしていたから気づいてくれて嬉しかったのだ。

 「えぇ。友達が出来たの。それも凄くいい子でね。いつかお城に招待したいな」

 「レイに友達!? 僕、嬉しいよ。あの人見知りで弱気で世間知らずなレイに友達なんて!」

 「私だってビックリよ。恋愛には奥手って言うか女性自体に興味なさそうな兄さんにそんな相手が出来たなんて……」

 兄さんの言うその人が凄く気になるけど、教えてはくれなさそうね。

 上機嫌な横顔を見つめながらふと私はそう思った。
 こんなご機嫌な兄さんはもしかしたら初めて見たかもしれない。

 「そう言えば兄さん、何処に行ってたの?」

 「ルゲル村ってとこだよ。いやぁ、身体能力強化魔法使って全速力で走って帰ってきたんだよ? 父さんの使い魔から手紙が来て、ほんと焦ったんだから」

 「え、兄さん、ルゲル村に居たの!?」

 「そうだけど?」

 まさかの展開に私は驚きを隠せなかった。
 だってそこはエデンが向かった村なのだから。

 「兄さん、よければルゲル村であった事話してくれないかしら?」

 「よく分からないけどいいよー」

 ルゲル村と言えばエデンが目的地としていた場所。
 もしかしたら兄さんはエデンと会っていたかもしれない。


  …………エデン


  初めて出来た友人の名前を心の中で呼びながら、私は兄さんの話を耳を澄ませた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...