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謎の依頼編
番外編
しおりを挟む暖かな日差しが図書室に降り注ぐ。
オレンジ色に染まる宮殿の図書室に一人。
私、シグナリス王国第一王女のレイ・シグナリスは何度目かも分からないくらい読んだ本を再び読み漁っていた。
図書室にある本の数は三千冊以上。
そんな本を全て幼い頃から読み漁り、読破してきた。
王族の事を良く思っていない輩がいるからと幼い頃から公の場には明かされずにいた私。その為、外の世界に出ることは固く禁じられていた。
でもね、禁じられたら逆に気になってしまうのが普通だと思うの。
今まで何度もお城を抜け出してはお気に入りのレストランやお洋服屋さんに通ったりした。上手くぬけだせた時はバレない事もあったけど、基本いつもバレて大抵連れ戻されて国王……私の父に叱られた。
だけど私は叱られたってお城から抜け出す事を辞めなかった。
そんな我儘な行動ばかりとっていたからその日は罰が下ったんだと思う。
その日はエデンと出会った日だった。
そしてその日、私は初めて知らない人に絡まれた。
公の場には明かされずに育ったからと言って私は外の世界を甘く見すぎていたみたい。
どうせ私を第一王女と知る人は居ない。
だから抜け出しても大丈夫。
そんな軽い気持ちでいつも通りお城を抜け出していた矢先私は初めて人に絡まれた。しかも、どうやらその人は私の事を知っているようだった。
あの時だけは初めての事で怖くて何も出来なかった所にエデンが現れ、まるで本の中に出てくる王子様みたいに私を助けてくれた。
あの時の事は一生忘れられないと思う。
だって私の思い出のページに刻まれているのだから。
お気に入りの本をギュッと抱きしめ、私は窓の外を見詰める。
今頃エデンはルゲル村に着いた頃かしら?
うんうん……もしかしたらとっくの前に着いているのかも。
お姫様抱っこされた時は驚いたけど、本当にエデンは可愛くてカッコよかった。
ガチャ
図書室の扉が開く音がした。
……使用人かしら?
そう言えばもう夕食の時間。
出しっぱなしにしていた本を本棚に片付けようと私は椅子から腰を上げる。
「あ! ここに居た!」
「ゼア兄さん!?」
思わぬ来客に私は驚く。
一方、ゼア兄さんはニコニコしながら私の元へ駆け寄ってくる。
ゼア兄さんはこのシグナリス王国の第二王子。
私と同じで公の場には明かされず、この世には存在しない人間として育てられてきた。
もし第一王子であるもう一人の私の兄が暗殺、もしくは病死などした時の場合の為に。
第一王子の方の兄さんは厳しい人だけど、次期国王として勉学に励んでいる。第二王子のゼア兄さんは社会見学とか言って三ヶ月ぐらい前に家を出たってきり音沙汰無くて凄く心配していたのにこんなにひょっこり帰ってくるなんて……。
「ゼア兄さん。三ヶ月も何処に行ってたの?」
「冒険者になってパーティを組んだんだー。とは言っても雑用係みたいなものだったけどね」
「社会見学に行くって言ってたけど、まさか冒険者になってたなんて……」
昔からゼア兄さんは思いついたら即行動の人だった。
だけどまさか冒険者になっていたなんて……。
「いろいろ大変だったよー。生と死の境目もさ迷ったしねー」
「に、兄さん!? それはそんなに軽々しい話じゃないわ!」
生と死をさ迷ったと言う割には平然としているゼア兄さんに私は突っ込みを入れた。
兄さんは昔からこう……なんと言うか……少し変わってるのよね。
「生と死をさ迷ってた時にね、助けてくれたんだ。綺麗な女の人だったよ~」
「そ、そう……って女の人!?」
「あ。でもね……その人と出会ったからさ、だから良かったなってだけで、もしその人との出会いが無かったら今頃僕、パーティ皆をどうしてたかは分からないけどね」
そしてたまに常識人を掛け離れた様なことを言う。
ゼア兄さんは昔から剣術に関しては本当に凄くて、騎士団団長と互角に戦える剣術を持っていた。
「まぁ、たった数時間前の出来事だけどね」
「兄さん!? 」
「もうパーティなんて懲り懲りだよ」
大きなため息を吐き捨てる兄さん。
そんな兄さんに私は尋ねる。
「ねぇ、そのパーティで何があったの?」
「いやーね。盾にされたんだよねー」
「た、盾?」
「モンスターが出る度にだよ? 酷いよねー」
「そ、そう……それは大変だったわね」
「まぁ、僕の話は置いといて。レイもなんか変わったね。三ヶ月あってないだけだけど何か明るくなった?」
兄さんに指摘され、私の頬が緩む。
自分でも自分が変わったような気がしていたから気づいてくれて嬉しかったのだ。
「えぇ。友達が出来たの。それも凄くいい子でね。いつかお城に招待したいな」
「レイに友達!? 僕、嬉しいよ。あの人見知りで弱気で世間知らずなレイに友達なんて!」
「私だってビックリよ。恋愛には奥手って言うか女性自体に興味なさそうな兄さんにそんな相手が出来たなんて……」
兄さんの言うその人が凄く気になるけど、教えてはくれなさそうね。
上機嫌な横顔を見つめながらふと私はそう思った。
こんなご機嫌な兄さんはもしかしたら初めて見たかもしれない。
「そう言えば兄さん、何処に行ってたの?」
「ルゲル村ってとこだよ。いやぁ、身体能力強化魔法使って全速力で走って帰ってきたんだよ? 父さんの使い魔から手紙が来て、ほんと焦ったんだから」
「え、兄さん、ルゲル村に居たの!?」
「そうだけど?」
まさかの展開に私は驚きを隠せなかった。
だってそこはエデンが向かった村なのだから。
「兄さん、よければルゲル村であった事話してくれないかしら?」
「よく分からないけどいいよー」
ルゲル村と言えばエデンが目的地としていた場所。
もしかしたら兄さんはエデンと会っていたかもしれない。
…………エデン
初めて出来た友人の名前を心の中で呼びながら、私は兄さんの話を耳を澄ませた。
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