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ifストーリー
6日目 ②
しおりを挟むパーティの前日。アレクシアはクラウスの元へと赴いていた。
「驚きました。突然いらっしゃるなんて…」
「すまない。少し話がしたくて来たんだ。すぐ済むから」
アレクシアの訪問に驚きはしたものの、クラウスは快く彼を受け入れた。
一体何の話だろうか?
そうクラウスは思いつつ、静かにアレクシアを見つめた。
「明日、パーティだろう? 出席はするのか?」
「え!? …そ、それは…勿論」
明らかに口篭るクラウス。
アレクシアはそんな反応を見逃さなかった。
メイド達によって用意された紅茶の心地よい香りと採れたてのフルーツを使用して作られた色とりどりのフルーツタルトが机を彩っている。
クラウスはアレクシアから向けられる視線に耐えられなくなったのか、慌てた様子でそれらを勧め始めた。
「我が家の料理長が作ったフルーツタルトです! 大変美味なので是非…」
「あぁ、頂こう。だが、その前に……パーティ。どうするんだ?」
「そ、それは……」
クラウスは俯く。
中々反応が返ってこず、アレクシアは肩を竦めた。
それがクラウスの答えなのだと分かった。
だからこそ……アレクシアは決心を固めた。
「俺がステラを幸せにする」
▢◇◇◇◇▢▢◇◇▢
パーティ会場にて、ざわめいていた会場が一気に静まり返った。
ステラの元に歩み寄ってきた青年によって。
しかし、その青年は仮面を身に付けており、顔は確認できない。
突如現れた青年に周囲が驚きを隠せずにいる中、ステラだけはその青年を真っ直ぐただ見詰めていた。
「俺は、貴方ほど心優しくて素敵な方は知りません。だからどうか自信を持って欲しい」
その優しい声色。
聞き慣れた心地よいその声に、ステラは確信を抱いた。
同時に込み上げて来ていた涙がいっきに溢れ出した。
そんな突然のステラの涙に戸惑う周囲の人々。
特にブリトニーは困惑したが、ステラのその涙の意味に直ぐに気づいた。
だからだろう。
「ステラ。私も貴方程素敵な人なんて知りませんわ。だから自信を持って。貴方には笑顔が1番似合っていますわ」
ブリトニーの言葉にステラは涙を拭い、笑顔で頷く。
その笑顔にブリトニーは安堵したように微笑んだ。
そんなステラへとゆっくりと手が差し伸べられた。
「リーリエント嬢。よければ私と踊ってはいただけませんか?」
青年は膝をつき、ステラへとダンスのお誘いをした。
婚約者がいる女性へのお誘い。
それは本来ならばマナーとしてはあるべき事では無い。
けれどそんなマナーがあるからこその変装なのだろう。
ステラは告げる。
「私の為に……本当にありがとうございます。……はい。喜んで」
そしてその手をとった。
オーケストラによって奏でられる美しい音楽に乗り、2人は踊り出す。
そうすれば一気に視線が2人へと集まった。
唖然としている者から小言を呟く者等…参加者の反応は様々だ。
しかし、誰もがその後に2人のダンスに魅入った。
「ちょっと!? これは一体どういう状況なの!?」
「一体誰だあの男は!? それにステラも何をやっているんだ!!」
そんな中、パーティ会場に遅れてやって来たステラの両親は会場で繰り広げられている光景に目を見張った。
珍しくステラがクラウスと共にパーティに出席すると聞き、2人は期待に胸を踊らせていた。
なにせ、長年ステラとクラウスが共にパーティに出席した事などなかった。
それによって頻繁に2人の仲を心配する声が両親の耳にまで届いていたのだ。
ステラとクラウスの仲など知ったことじゃないと他人事の両親ではあったが、陞爵を目指すリーリエント伯爵家からしてみれば今回のパーティの出席は周囲への印象付けとなる。
面倒事は御免だ。
だからこそ、今回のパーティで挽回できると思っていたのに…。
伯爵は拳を強く握りしめたあと、人集りの出来た会場を進んでいく。
そして
「ステラ! お前、一体何をやっているんだ!? それに貴様も! ステラには婚約者が居るんだぞ!? そしてその婚約者が出席予定だと言うのに、婚約者を差し置いて先にダンスを申し込むとは! マナーがなっていないにも程がある! 一体何処の恥知らずだっ!」
伯爵の怒鳴り声が会場に響渡れば、思わずオーケストラ達が手を止めた。
それに伴いステラ達も足を止めた。
「その仮面を取れ! そして正体を明かせ!」
伯爵の言葉にステラは青年へ恐る恐ると視線を向けた。
その瞳には不安の色が浮かんでいる。
そんなステラを安心させる様に、青年は微笑むとその仮面をゆっくりと外した。
そして……仮面の下から現れた素顔にステラの両親を含む会場に居た全ての人々が目を見張った。
ブリトニーは満足気に微笑み、ステラのクラスメイト達が黄色の歓声を上げる。
「これは大変失礼致しました、リーリエント伯爵」
「……!? ア、アレクシア殿下!? あ、いや先程の言葉はその…!」
「そう身構えなで下さい。仮面を着けて正体を隠していたのは俺ですから」
ニコリと微笑むアレクシアに伯爵は安堵する。
だが、ステラへと向けた視線は冷酷なものだった。
「ステラ。楽しんでいる所を邪魔してし申し訳なかった。まぁ、なんだ…。後で話がある。いいな?」
微笑んではいるものの、その笑顔は決して笑ってはいなかった。
ステラの背中に冷たいものが走る。
思わずアレクシアの服の袖をギュッと握り、ステラは身を震わせた。
「リーリエント伯爵。私も貴方には山程聞きたい話があるんです。お時間、頂けますよね?」
「や、山程? それは一体…」
「内容は……よーく考えてみてください。伯爵自身が1番よく分かっているはずですよ」
アレクシアの言葉に全てを悟った伯爵は顔を真っ青にした後、ステラをギロリと睨み付けた。
そしてその後、逃げる様にして「用事が出来たので失礼」と残し、夫人と共に会場を後にして行った。
「イバラ。直ぐに捕らえろ。勿論、騒ぎにはしないようにな」
「了解しました」
アレクシアの指示に会場の隅に待機していたイバラが動き出す。
「姉様!」
「ルイ!」
そしてステラの元にルイが駆け寄ってきた。
そんなルイをステラは抱き締めて迎え入れる。
「大丈夫!? 酷いことされなかった?」
「はい。私は大丈夫ですよ。アレクシア殿下が守ってくださったから」
ステラが微笑めばルイはホッと胸を撫で下ろす。
「にしても……ほんとうに一目散に帰って行っていったな。全部アレクシアの読み通りじゃねぇか」
「恐らく、家で待機していると思っているルイを人質にとってステラを脅そうと思っている魂胆でしょう。まぁ……ルイは此処にいる訳で、そんな事させないんですけどね」
アレクシアとルイがハイタッチを交わす。
「でも、予想外だったのは会場であそこまで騒ぎを起こしたことです。まさかあそこまでしてステラを縛りあげようもするとは…」
「まぁ、何にせよステラさんを親御さん達の手から救い出せたんだ。良かったじゃねぇか。それと…」
フレディはニッと白い歯を見せてアレクシアとステラを交互に見つめる。
ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら。
「邪魔者は消えたんだ。引き続きパーティを楽しみな~」
「アレクシア殿下! 耳を貸して頂けませんか?」
アレクシアは屈み、ルイへと耳を向ける。
「今日は姉様の為に本当にありがとうございます。あと…僕、アレクシア殿下のこと、応援してますから。だから……姉様のこと、よろしくお願いします」
そう言うと、ルイはニッコリと笑ってフレディを追いかけて行ってしまった。
「ルイは何と?」
「あー、いや。今は言えないかな」
アレクシアの返事にステラは「そうですか…」と答える。
そもそも、まだ『好き』という想いさえ伝えていない。
だからこそ、ルイの『姉様のこと、よろしくお願いします』という言葉が妙に引っ掛かってしまった。
アレクシアだって勿論、出来ることならばステラを幸せにしたい。
しかし、ステラは……。
悶々とアレクシアがあれこれと頭を悩ませていると、再びオーケストラが音楽を奏で始めた。
パーティは引き続き続行される様だ。
「ステラ。疲れてはいないか? 無理だけは…」
そうアレクシアが言葉を紡いでいると、ステラの白くて細い指が…そっとアレクシアの手に触れた。
「ステラ?」
「……お気遣い、大変嬉しいです。けど、私は大丈夫です。ですから……その続きをお願い出来ませんか?」
白い頬を赤く染め、潤んだ瞳に見上げられ…緊張した様子で紡がれたステラの言葉。
それは言わばダンスのお誘いだった。
「勿論、喜んで。踊ろう、ステラ!」
「っ……はい!!」
2人は再び手を取り合い、音楽に合わせてダンスを始めた。
_______
次回最終話です。
出来るだけ早く投稿できるよう頑張ります。
どうぞ最後までよろしくお願い致します。
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