余命一週間を言い渡された伯爵令嬢の最期~貴方は最期まで私を愛してはくれませんでした~

流雲青人

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2日目 ②

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生徒会室へとやって来た2人は、向かい合うようにして椅子に腰を下ろす。

生徒会室には2人以外の他の役員の姿は無い。


「すまないな。急に呼び出したりしてしまって…」

「構いませんよ。それに…正直、席を外したいと思っていたので」


そう言って苦笑を浮かべるステラ。

そんなステラに、アレクシアは心配そうに尋ねる。


「何かあったのか?」

「も、申し訳ございませんっ! 心配をおかけするつもりは無かったんです! ですが…お気遣いありがとうございます」

「そんな感謝を述べる必要は無いよ。俺とステラの仲だろう? 俺は困っている友人を見過ごせない。ただ力になりたいだけなんだ。だからステラ。もし困っている事があるなら力になりたい。勿論、無理に話す必要は無いけど」


アレクシアの心優しい気遣いに、ステラの胸がジーンと熱くなった。

ステラとアレクシアの出会いは第1王子主催のお茶会での事だった。
昔から面倒見の良い兄の様な存在だったが、その存在が何より心強く感じるようになったのは、ステラが4年間の療養を終えて、この王国に戻ってきた時だった。

学院生活に中々馴染めずにいたステラを気遣い、アレクシアは生徒会役員という役目を与え、そして学院に居場所を与えてくれたのだ。


そんなアレクシアだが……彼は、ステラの恩人であると共にとある秘密の共有者でもあった。


「……私が味覚障害を持っているのはご存知ですよね? それで食事をとるのが憂鬱なんです。けれど、クラスの方々と食事を共にすると、偽りの言葉を並べて美味しいと言い聞かせながら食事をしなければいけません。それがどうしても辛くて、苦しいのです…」


秘密の共有者。

それはアレクシアは数少ないステラの病について知る者なのだ。

アレクシアがステラの病について知ったのはたった3日ほど前ではあるものの、それ以来特にアレクシアの態度が今までと変わった訳では無い。
寧ろ、今まで通り接して欲しいとステラが頼んだからか、アレクシアはこれまで通りの彼のままステラと接してくれている。

その気遣いが有難かったし、何より1人で大きな不安を抱え込む事が苦しくて、辛くて仕方なかったステラにとって、アレクシアは安心安全で、且つ心穏やかになれる拠り所であった。


アレクシアはステラの話を聞いた後、優しい声色で言った。


「話してくれてありがとう、ステラ。君は友達思いな子だから友達に嘘を着くことにも心が苦しくなっているんだろう。そして精神的に苦しい中で、よく耐えたと思う。君は本当に強い人だね。ねぇ、ステラ。俺と居る時だけは無理せず、ありのままの君でいて欲しい。それに……何故だろう。何かあった? 今回の件とは別に」

「……どうやらアレクシア殿下には何でもお見通しみたいですね」


ステラは驚きつつも、それだけアレクシアが周囲に気を配っている結果気づけたことなのだろうと結論づけた。


「さすがアレクシア殿下です。周囲の人をよく見ている貴方だからこそ、私の変化にお気づきになられたんでしょうね」

「あ、そ、そうかもしれないな……」


歯切れの悪いアレクシアに、ステラは首を傾げる。

そんなステラの反応にアレクシアはほんのりと顔を赤く染めた後、コホンと1つ咳払いをした。


確かにアレクシアは周囲の人をよく見て、行動をとっている。
その気配りこそが、周囲の人間から大きな信頼を寄せられる理由である。


「アレクシア殿下? 大丈夫ですか? 顔がなんだか赤いような…」

「何だか熱いなっ! 窓を開けよう!」

「確かに熱い…かも? 窓を開けましょうか」


何とか誤魔化すことが出来、アレクシアは安堵する。

周囲の人をよく見て行動する気配り上手な人で優しい人。
ステラのアレクシアに対する評価は正にこれである。
だからこそ、自分の異変にいち早く気づいてくれたのだとステラは思っているに違いない。


(……けど、俺がステラの異変に気づいた理由は…)


窓を開けたことで生徒会室へと吹き込む爽やかな風。

その風がステラの美しい淡い紫色の髪をなびかせた。


「風で書類が飛ばないようにしないとですね」


振り向き、花が咲いた様な美しい笑みを浮かべるステラ。

アレクシアはその笑顔釣られ、微笑む。


「大切な書類ばかりだからな」



___ステラの違和感に気づいたのは、ステラ。君だからだよ


書類をまとめるステラを横目にアレクシアは思う。


ステラの姿を見かければ、つい目で追ってしまう。

何か困っている様子ならば助けたいと思うし、些細な事でも例え用事が無くても声を掛けてしまう。
どうしても声が聞きたくて。
笑顔が見たくて。


しかし、ステラにはクラウスという婚約者が居る。
婚約者がいる相手に恋愛感情を抱いてしまうなんて、あまりにも愚かな事な行為であるとアレクシア自身も理解している。

けれど、抱いてしまった好意はそう簡単には切り捨てられないのだ。


「アレクシア殿下」

「どうした?」


ふと名前を呼ばれ、アレクシアは振り返る。

そうすれば、ステラが書類をぎゅっと抱きしめ、微笑みながら言った。


「実は、お医者様に余命宣告を受けました。余命は1週間だそうです」

「余命宣告…? それも1週間?」


アレクシアは戸惑った。
思わず冷静さを失いそうにもなったが、余命宣告を受けて1番戸惑っているのはステラだ。
自分が冷静さを失い、ステラを更に追い詰めてしまうような行動をとっては意味が無い。


だからこそ、アレクシアがとった行動は1つだった。


「ステラ。話してくれてありがとう。不安だっただろう」

「……っ……はい」


その返事はとても弱々しく、震えている。
どうやら涙を堪えているらしい。


アレクシアはそっとステラの元へ寄り添い、そして優しくその頭を撫でた。
幼い頃、よくステラの頭を撫でていた時のように。少しでも安心させたくて。


「それで余命について他に知っている人は?」

「…侍女だけです。ルイにもまだ話せていません。勿論、話すつもりではいますけど…」

「勇気が出ない?」

「……はい」


ステラは頷く。
その瞳には涙が溜まっていて、今にも溢れだしてしまいそうだ。

それからステラはアレクシアに話をした。

医者に告げられた『悔いのない様に過ごすように』という言葉。
そして本来はクラウスと共にその1週間を過ごそうと思っていたこと。けれど、思いとどまったことを。

その話を聞き、アレクシアはステラへ尋ねた。


「なぁ、ステラ。君はこの1週間をどうしたい?」

「どう、したいですか?」

「あぁ」


アレクシアの問にステラは暫く頭を悩ませた後、意を決した様に言った。


「……私、やりたい事がまだまだ沢山あるんです。それを残りの1週間でやってみたいです」

「そうか。ならば、俺に出来ることがあれば手伝わせて欲しい」

「ですが、アレクシア殿下の貴重な時間を私なんかの為に使うなど…!」

「私なんかじゃないよ、ステラ。ステラだから、なんだ」


アレクシアはそう言うと、優しくステラに笑いかけた。




その後、帰宅したステラはやりたい事リストの作成に励んだ。

そしてそのリストの作成後、とある文字を何度も見返して暫く頭を悩ませた後、ステラはその文字を二重線で消した。


「さすがに……叶いませんよね。こんな願い」


ステラは苦笑を浮かべ、机に突っ伏した。


余命まであと5日。





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