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ifストーリー

2日目 ①

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「ステラ様。よ、よければ昼食を御一緒してもよろしいでしょうか!?」


昼休みになり、1人の女子生徒が緊張した様子でステラの元へとやって来た。
そしてほんのりと頬を赤く染めながら、ステラを昼食へと誘った。

そんな女子生徒に続くように、次々にステラの元へ生徒達が集まって来た。

どうやら皆、ステラと昼食を一緒にとりたいらしい。

本来ならば昼食のお誘い等嬉しいに決まっている。
しかし、ステラは違った。

決してクラスメイトと共に食事をしたくない訳じゃない。
ただどうしても……嫌だったのだ。
けれど


「だ、駄目…でしょうか?」

「……いいえ。そのお誘い、是非お受けさせて下さい」


ステラの言葉に女子生徒は瞳を輝かせ、大きく頷いた。
周りの女子生徒達も次々に「私も一緒によろしいでしょうか!」と参加の意を示してくる。
その言葉一つ一つにステラは頷きながら、気づけばクラスメイトの女子生徒全員で食堂へと足を運んでいた。


「ステラ様。今日のオススメメニューはふわふわオムライスだそうですよ」

「美味しそうですね」

「よければ注文してきましょうか?」

「せっかくですし、一緒に注文しに行きましょう。その方が待つ時間もお話出来て楽しいでしょう?」

「は、はい!」


おすすめメニューと書かれた小さな黒板。
そこには可愛らしいイラストと共に本日のおすすめメニューがズラリと記載されていた。


……食事の時間は本当に憂鬱で仕方ない。


ステラはオムライスを注文し、受け取った後、クラスメイトの待つ席へと向かった。

そして空いている席に腰を下ろせば、楽しい食事の時間が始まった。



「オムライス。大変美味しいですわ~」

「おすすめメニューってだけはありますわね。ねぇ、ステラ様」

「そうですね。とても美味しいです」


ステラは頷くと、スプーンでオムライスをすくう。そして口へと運ぶ。
その行動は一見普通そうに見えるが、僅かに躊躇いも伺えた。

口に含め、ステラはゆっくりと咀嚼する。
そしてゴクリと飲み込んだ。

その瞬間、込み上げてくる吐き気。

味の全くしない固形物を咀嚼し、飲み込む。
この行為がステラにとってあまりにも辛くて、苦しいものだった。


味覚障害。
それは、ステラが病を発するときに出た初期症状であった。
そしてその症状は現在でも続いている。


味覚障害によって、ステラの食に対する思いは激減した。
けれど、口から食べれるうちは食べた方がいい、という主治医の指示でステラは食事をとる。
けれど、どうして苦しくて……時には吐き気にも襲われる事が多々あった。


美味しい
また食べたい
この甘さがいい
香ばしさが味を更に際立てている


クラスメイト達が口々にする味に対する評価の数々。
そのどれも分からないけれど、ステラは頷き肯定するしか無かった。
ステラには味が一切分からないから。
ただ、美味しいと…味もしないオムライスを賞賛する。
そうしなければ怪しまれてしまうから。


クラスメイトとの食事は楽しい。
けれど同時に、苦しい思いもしなければならなくて……ステラの胸がギュッと苦しくなった。

嘘をつくという罪悪感。
そして何より、怪しまれないように自分を偽り、本当は食べたくもない食事をとらなけらばいけない事が。



「そう言えば、ステラ様。今回のパーティも欠席されるんですか?」

「実はまだ決まってなくて…」

「前々から思っていましたが、どうして欠席を? 他人である私が口を挟むようなことではないと分かってはいるのですが…」

「私もそれは考えておりました。だってステラ様。留学でこちらにはいらっしゃいませんでしたし、帰って来てからもまだ1度もクラウス様とパーティに出席されていませんよね?」

「……そうですね。参加はしたいと思っているのですが、お互い色々と忙しくて中々参加出来ない状況にあるんです」


ステラがそう返せば、もうそれ以上誰も深くは追求してくることは無かった。


本当は色々と忙しくて……なんてのは真っ赤な嘘だ。
なぜならステラはクラウスとパーティに参加したいと考えているし、一緒に踊りたいと何度思ってきたことか。

問題はクラウスなのである。
クラウスはステラという婚約者がいながら、平民の女性と浮気をしているのだ。

浮気相手が悲しむからもう近付くな。

そう言われた時、頭が真っ白になって家に帰って大泣きした。
けれど同時に思い知った。
もうクラウスの中に自分の存在は無いのだと。

けれど、それも仕方ないとステラは自分に言い聞かせた。
留学と言うなの療養生活の為に空いた4年間の空白。
それは、ステラとクラウスの関係を引き裂くのに十分すぎる時間だった。


食堂を後にしたステラ。

1人の生徒が放課後、家に寄っていかないかと提案した。
何でも採れたてのフルーツを使ったタルトをシェフが用意してくれるとの事で、是非食べに来て欲しい。との事だった。


ステラは困った。
ただのお話会ならまだいいのだ。
けれど、どうしても食事だけは…。

そう思った時だった。


「ステラ」


聞き慣れた優しい声が後ろから聞こえ、ステラは弾かれたように振り向く。

その声の主にクラスメイト達が黄色い歓声を上げる。


「会長。どうかなさいましたか?」


会長と呼ばれた淡い金色の髪と碧眼を持った整った顔立ちをした青年……アレクシア・クラリアール・ルドルフ。
彼は、このクラリアル王国の第2王子であり、王国立クラリアル学園高等部の生徒会長でもある。


「あ、すまない。話の途中に…。また後で」

「いえいえ! 生徒会のお仕事ですよね!? どうぞ! 私達のことは気にせずに行ってきてくださいましっ!」


鼻息を荒くし、どこか興奮した様子で言う女子生徒。そしてそんな彼女に賛同する様に、残りの生徒達も頷いた。

彼女たちがそう言うなら……とステラはアレクシアと共に生徒会室へと向かっていった。


そして……そんな2人の後ろ姿を見つめながら、残された女子生徒達は口々に思いのままに言葉を紡いだ。


「実は私、あのお2人、とっっってもお似合いだと思うんです」

「分かりますっ! そもそも、会長様のステラ様を見つめる瞳が優しすぎますっ! あれは間違いなく好意を抱いているに違いませんっ!」

「けれどステラ様にはクラウス様という婚約者が居ます! あぁー!! なんて切ない三角関係なんでしょう!!」



……その頃。そんな妄想が繰り広げられている事などアレクシアとステラは知る由もなく、生徒会室へと辿り着いていた。



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