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番外編
立ち止まったまま ①
しおりを挟むアレクシアのお話です
長くなりそうなので①と②に分けました。
___________
「さすがにお休みになってはいかがですか?」
イバラは困った様に。そして心配した様子でアレクシアに告げる。
机にアレクシアが向き合って早5時間。
仕事に熱心に取り組んで貰えるのは大変有難い事だが、さすがに休憩も入れてほしところ。
イバラはアレクシアの机に積み上げられた書類の山を見つめながら肩をすくめる。
「だが、明日には兄さんも帰ってくるんだ。早めに仕事を終わらせるに越したことはないだろう?」
「あ、その件ですけど…」
「アレクシア、居るかー!!」
突然勢いよく扉が開き、アレクシアはビクリと肩を揺らす。
そして扉を開けて部屋へと入ってきた人物に、アレクシアは目を見張った。
「兄さん!? 帰国は明日のはずでは…」
「そう細かい事は気にするなっ! それよりもまた部屋にこもって仕事ばかりしているのか! たまには外に出て気分転換もするだぞ!?」
そう言って豪快に笑う金色の髪を持ったアレクシアに良く似た男の名はゼノ・クラリアール・ルドルフ。このクラリアル王国の第1王子……所謂王太子であり、アレクシアの兄にあたる人物だ。
ゼノはアレクシアの肩へ腕を回す。
「せっかくだ! 食事に行こうじゃないか、アレクシア!」
「それは構いませんけど…俺はまだ仕事が……」
「よし、行くぞ!」
「ちょっと!?」
無理矢理ゼノによって部屋から連れ出されるアレクシア。
そのまま2人はお忍びで王都の飲食店へと足を運んだ。
「……王族が護衛もつけずに外食など…。父が知ったら卒倒しますよ」
「心配不要。それに……お前だって気づいてるだろ?」
「まぁ、はい……」
アレクシアは横目で周囲の様子を伺う。
さすがに王太子ち第2王子だけで外出なんて騎士たちが放って置くわけが無い。
変装をしているが、見慣れた顔の男たちが客に紛れて食事をしていた。
「王太子殿下、第2王子殿下。ようこそいらっしゃいました。さぁ、沢山召し上がって行ってください」
そしてまた、お忍び…なんて言いつつも2人の顔を王都で知らない者は居ない。
結局、2人の訪問に店側は大盤振る舞いを始め、国民達が人目2人を見ようと店へと押しかけてきた。
「せっかくだ! 皆、盛り上がろーぞ! わっはははははは!」
「兄さん、少しは静かにして下さい!」
ゼノの言葉に国民達は「ゼノ殿下ー!」と声を上げた。
そして気づけば王都はまるで一気に祭の様に賑やかになった。
「……兄さん。国王陛下が知ったらどうなるか分かりませんよ」
「国民と触れ合いの場を設けて何が悪いと言うのだ。それに、もう既に国王陛下に許可はとってあるぞ」
「ほんと、貴方って人はこういうのだけは仕事が早いんですから……」
「よせ、褒めるな! 褒めても何も出ないぞ!」
「別に褒めているわけではないんですけどね……」
相変わらずのポジティブ思考のゼノにアレクシアは苦笑を浮かべる。
容姿こそそっくりの2人だが、中身はまるで正反対だ。
底抜け明るく、考えるよりも先に身体が動いてしまうゼノ。
それに対して常に冷静沈着で、後先のことを考えて行動を起こすアレクシア。
そんな正反対の2人だが、
「そうだ。これ、渡そうと思ってたんだった」
「これは?」
ゼノがアレクシアへと封筒を差し出す。
それを受け取ると同時にアレクシアは嫌な予感を覚えた。
「隣国の王女との縁談の話だ」
「……前にも言いましたけど俺は」
「そんなにリーリエント嬢の事が忘れられないか?」
ゼノの言葉に思わずアレクシアは目を見開いた。
そんな反応に、ゼノは白い歯をニッと見せる。
まるで「やっぱり」とでも言うように。
「……ご存知だったんですね」
「まぁな。俺はお前の兄だぞ? 弟のことなんてすぐ分かるさ」
「そういう割には俺の苦手な魚を目の前で食べるんですね……」
「それはまた別だ!」
そう言って魚をもぐもぐと咀嚼し始めるゼノ。
アレクシアはどうしても魚の目が苦手だった。
何の光も宿さない……あの虚ろな瞳がどうしても苦手なのである。
にも関わらず、ゼノは目の前で魚料理を美味しそうに食している。
しかも、丸ごとの料理をである。
本当に全てを理解しているのならば、そこも気を使って欲しい所だ、とアレクシアは肩を竦めた。
「……俺の気持ちをご存知なら分かるでしょう? 俺は結婚する気はありません」
「一途なのはいいが、相手はもう故人だ。この先、何の未来も無いぞ」
「分かってます。兄さんが俺の事を思って仰ってくれているのも…。でも俺は…」
「俺は……なんですか? アレクシア殿下」
突然聞こえた声にアレクシアは目を見開く。
そして同時に、目の前にいたゼノをギロリと睨みつけた。
ゼノは「すまん!」とでも言うように手を合わせている。
アレクシアは声の主に悟られないよう、笑顔を作りあげる。
そして
「久しぶり。ティーネル嬢」
「ティーネル嬢だなんて…。学生時代の様にフローラとお呼びください。アレクシア先輩」
声の主……フローラは美しい淡い水色の髪と深い深海のような青い瞳を持つティーネル公爵家のご令嬢である。
そして、彼女はステラ亡き後にステラの代わりに空席となった生徒会役員となり、学院を引っ張った生徒であった。
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