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番外編

留学と再会

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ベルトルツ学園に留学が決まったルイ。
初めての留学に緊張と期待を胸に抱きながら、るいはベルトルツ学園の正門を潜った。


早速フレディと共に学園長室へ赴けば、ベルトルツ学園の学園長、エマは満面の笑みで2人を迎え入れた。


「久しぶりだな、フレディ。そしてルイ君もよく来てくれた。歓迎しよう」

「お久しぶりでーす。にしても…学園は相変わらずの様で安心したっすよ」


黒縁メガネを身に付けた白髪のショートヘアが似合うエマ。

彼女はフレディとルイを交互に見つめた後、微笑む。


「にしても、あのフレディが弟子をとるとは…。本当に、人間とは変わるものだな」

「え、それはどういう…」

「誰とも群れない。1匹狼のような男だったからね、フレディは。弟子なんて興味無いと思っていたんだ」

「俺っちだって興味ありませんでしたよ~? けど、未来を彩る種を育てるのも役目だって学園長が俺っちに教えたんじゃないすか」

「そう言えばそうだったな」


エマはそう言うと笑う。

そしてルイへと視線を向けた。

思わずルイの肩がビクリと揺れれば、エマは机を叩いて笑う。


「そう緊張しなくていいよ。フレディから話は聞いてる。とても優秀な子だとね。学院での成績も見せてもらったが…君のような優秀な子を留学生として受け入れる事が出来て私は嬉しくて仕方ないよ」

「この度はこの様な貴重な機会を与えて下さり、ありがとうございます。ご期待に応えられるよう、一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します」

「そんなに畏まらなくていいよ。それに言ったろ? 私自身、ルイ君を留学生として受け入れられてとても嬉しい、と。期待に答えてもくれるのも勿論嬉しいが、私は君にこの学園で更に沢山のことを学んでもらいたいだけなんだから」


エマは教育者としてこれまで数多くの生徒を送り出してきた。

学園でしか学ぶことの出来ない学びを経験して貰い、未来を切り開き、そして歩み続ける後押しをしたい。

ルイは医者になる為にフレディから医学を学んでいると聞いた時、是非ベルトルツ学園で医学について学んでみて欲しい、とエマは思った。
なにせ、ベルトルツ学園では最先端の医療技術を教える事が出来る。
教え子の弟子。その蕾を咲かせる為の手助けがしたい、とエマは思った。


コンコン


その時、扉を叩く音が学園長室に響いた。


「時間ピッタリだな。入っていいぞ」

「失礼します」


エマの返答に、チョコレートブラウンの扉がゆっくりと開かれる。


ルイは扉の先から姿を現した人物に……静かに目を見張った。


深い金色の髪。
ルビーのような赤い瞳。

それは昔と全く変わらなくて……変わったとすれば背丈と声ぐらいだろうか。


学園長室に入って来た生徒はフレディとルイに向き合う様に立つ。


「ようこそ、ベルトルツ学園へ。学園の案内をさせて頂きます、ヨウと申します。どうぞよろしくお願いします」


そう自己紹介をすると、ヨウは白い歯を見せてニッと笑った。


その笑顔は、6年前と全く変わらない太陽のように眩しい笑顔だった。


「久しぶり、ヨウ!」

「おう。久しぶりだな、ルイ」


2人は握手を交わす。


6年ぶりの再会。
2人の心の奥底で、ふつふつと沢山の感情が沸き上がる。

話したいことは山ほどお互いにあった。


「ルイくん。俺っちは学園長とまだ話があるから先に案内してもらいな~」

「分かりました」

「じゃあ、ヨウくん。ルイくんをよろしくな」

「はい」


早速ルイはヨウに連れられ、学園の案内をして貰うこととなった。

学園長室から出ていく2人を見送るフレディに、エマは驚いた様に言う。


「……フレディが気を遣う様になるなんてね。大人になったな、君も」

「なんの事だかわかりませーん」


フレディは恥ずかしいのかほんのりと頬を赤く染め、そっぽを向いた。
そんなフレディを見て相変わらず素直じゃないな、とエマは小さく微笑んだ。




▢◇▢◇◇◇◇◇





「にしてもほんと、久しぶりだな」

「うん。けど、驚いたよ。まさかヨウがベルトルツ学園の生徒になってるだなんて」

「ほんと、長い道のりだったんだぞ~。金も無いから必死に働いて稼いで、その隙間時間に勉強してさ」

「大変だったんだね…。そういえば、編入試験に合格したのはいつなの? と言うかなんで編入試験だったの?」

「んーと、中等部最後くらいかな。普通に入学出来たら…と思ってたんだけどさ。編入試験でトップの成績で編入出来たら学費生活費諸々無料になるって知って、それで編入試験を受けたんだ。その代わりに編入試験は入学試験とは桁違いの難易度だけどな。本当、トップで入学出来るかあの時は不安だったなー」


と…言う割には全くそうは見えない。
何なら、トップで合格して当然。ぐらいに見えてしまうのは、ルイが抱いているヨウのイメージ故だろう。

なんでもソツなくこなすヨウ。
勉強に関しては人一倍努力する。

そんなイメージだからこそ、不安なんてものとは程遠い存在であると思っていた。
なにせ、不安なんて掻き消す程の努力で、上書きする。そんなイメージをルイは持っているのだ。


「俺の話はおしまい。で、ルイは? 病気の方はもう大丈夫なのかよ」

「うん。薬を飲まなくても症状も出なくなってきたぐらいだよ。フレディ先生曰く、もうそろそろで完治出来るみたい」

「そっか……。いや、ほんとまじで良かった」


そうヨウは言うと、壁に背を預けてゆっくりとしゃがみ込む。
あまりにも突然の事に、ルイは驚く。


「ヨウ、どうしたの!? もしかして体調悪い!?」

「……いや。ただ、ずっとこの6年気になってたんだよ。病気のこと。色々調べて早期発見出来て治療が出来れば問題ないってことは分かってたんだけどさ。それでもやっぱり心配だったんだよ」


ステラの件もあり、ヨウはどうしても心配で堪らなかった。

もしルイが亡くなったら?

嫌でもそんな考えが浮かんで、この6年間気が気じゃなかった。

何度も手紙を出そうと考えた。

けれど、国外追放の刑を受けた罪人の血縁者というだけで手紙はルイの手元に届く前に処分される事など目に見えていた。

だからこの6年間、ヨウはただただルイの無事を祈り、過ごして来た。


「心配かけてごめん。でも、ありがとう」

「まぁ、うん。ほんと、元気そうで安心したよ。そう言えば、学園長に聞いたけど、医者目指してるんだって? 次期伯爵様」

「そうだけど、その次期伯爵様ってなんだよ……。まぁ、いいけどさ。僕、治療をしてもらう中でフレディさんに色んなことを教えてもらったんだ。例えば僕と同じ病に悩んでる人がまだ沢山居るってこと。そして中には、治療を受けれずに亡くなる子どもも居るってことも…」


ルイの拳に自然と力が篭もる。

同時にルイの頭の中には、自分を優しく抱き締め、笑いかけるステラの姿が浮かんだ。


「僕は、そんな人たちの命を1人でも多く救いたいって思ったんだ。大切な人達とこれからも歩めるように。たった1度きりの人生を、全うして貰えるように」

「……そっか。いい夢じゃん。絶対に叶えろよ。応援してっから」

「ありがとう。せっかくこんな貴重な機会を与えてもらったんだ。沢山学んで、絶対に叶えてみせるよ。……そう言うヨウは? 何かやりたい事、見つかった?」

「俺は……」



ヨウはルイをジーッと見つめる。

そしてニッと白い歯を見せて言う。



「まぁ……お前次第かなー」

「え、僕!? なんで!?」

「さぁな~?」

「どういうことなんだよ! 教えてよ、ヨウ!」


小走りで廊下を駆けていくヨウを慌ててルイは追っていく。

2人の賑やかな話し声と浮き足立った足音が廊下に響き渡った。




_________


次回はクラウスのその後のお話です。
どうぞよろしくお願い致します。
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