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十四蝮との対面と村木砦

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 逃げる恒興と手負いの桂月を、今川の兵は追わなかった。太原雪斎が「追うな。逃がしてやれ!」と、命じたのだ。
 その代わりに、信長の攻城に備えて、砦の各所に兵を割り当てた。
 半刻後、村木砦を脱出した恒興と桂月は信長の待つ緒川城へ入った。
「おお、恒興。無事に戻ったか、般若介はひどい傷だな」
 出迎えた信時が、般若介こと桂月を引き受けた。
「恒興、まずは殿へ報告だ」

 信長は、いつでも出陣できるように戦準備を整えていた。
「勝三郎、坊主は居ったか?」
「ハッ! 命の命数を数えるばかりの太原雪斎がおりました」
「なんだと、あの坊主の命数は尽きかけておるのか!」
 恒興は、コクリと頷いた。
「よし、ならば兵を挙げるぞ! 今川の軍師太原雪斎を破るなら今だ。皆の者、出陣だ。一気に、村木砦を落とすぞ‼」
 檄を飛ばした信長は、愛馬「ものかは」の背中に飛び乗り駆け出した。

 恒興は、それより桂月だ。信時の元へ走った。
 信時は、般若介こと桂月を手当して、素性も女だと了解したうえで、
「俺は、恒興、お前よりも戦は不調法だ。お前が俺の代わりに殿を追いかけてくれ」
「しかし、俺は、桂月の手当てをせねばならぬ」
「恒興、般若介。いや、この女を死なせたくないのだろう? ならば俺に預けよ。この戦に勝利しても、お前が塞ぎこむような事になっては、お善の為にも、お七の為にもよくないのでな」
「信時、わかった。恩にきる。桂月を頼む」
 そう言って恒興は、馬を借りて駆け出した。
 信時は、桂月に向き直って、
「よし、桂月とやら、私は多少医術の知識がある。傷を見せよ」
 信時は、桂月の胸に刺さった傷を診た。深い傷だ。スグに矢を抜いて、止血をしないと傷口が化膿してしまう。同じ危険度で、矢を抜けば大量の出血は避けられない。この先は賭けだ。
「信時様、手当はいい。ただ、矢を抜いて止血をしてくれ」
「手当もせずに矢を抜いてどうするのだ?」
「私は、勝三郎様を守らねばならない」
「守るも何も、手当もせずに戦場に出るつもりなのか。そんなことをすれば確実に死ぬぞ」
「それでいいのだ。私は、所詮、死んだ妹の身代わりでしかない。どの道、この傷では助からぬであろう。ならば、勝三郎様を守るために命を賭ける」
 桂月の覚悟を聞いた信時は、胸の矢を引き抜いた。ドス黒い血が噴き出した。
 信時は、焼きコテを桂月の傷口に押し当てた。肉が焼けた。
「桂月よ。これはあくまで応急処置だ。時が経てばまた出血する。もって、一刻いっとき。動けば死が早まる。後は、恒興のために生きよ」

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