叶い琴

幸甚

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蝉が、重なるように鳴いている。
風で竹林が囁く。夕陽に照らされた神社の鳥居が更に赤く染まる。
「おい、あの輝いてんの、星じゃねえか?」
「うんっ、星だよ」
横で笑う少女は、決して届くはずがない空に幼い手を伸ばした。
「綺麗だね」
「なぁ、夏美。どうして空ってこんなに透き通ってるんだ?」
上を向いたまま、適当に質問する。
「私が知ってるわけ無いでしょ。でも、私は、宇宙とつながるためだと思うなー」
「ほら、空が澄んでないと、星なんて見えるわけ無いじゃない」
いつの間にか、星が我々に向かって輝きを放ち、魅了される。当たり前の日々。
「だからさ、」
微妙な間があったので、
「だから?」
「星ってこんなに綺麗なんだね」
こっちを向き、何よりも澄んだ笑顔で、心を奪う。
夏美の目には、沢山の星が浮かんでいたかもしれない。
「なぁ、あの星、妙にでかくねぇか」
「ホントだ。大きいね」
「大丈夫そうか、あれ?」
「隕石だったとしても私は、良いけど」
「星があたしの命を奪ってくれるなら本望よ」
微塵も本気で思っていなかった少女は、それが現実になるなんて考えてもいなかっただろう。
「逃げるぞっっっっっ!!!!!」
俺は、当たりが昼間のように明るくなってから、叫んだ。もう遅いかもしれないが心を躍動させ彼女の手を無意識のうちに引き上げ、星を背に逃げた。
彼女は、これを
「きれい」
と呼んだ。





地球に隕石が迫っていることを知らずに、親元を離れてきた少女と少年は、最期まで、前と上を向いていた。


「バイバイ!!夕也っっ!!!!!!!!!」
「嫌だああああああァ!!!」







隕石が、二人の運命を変えた。







「ねぇ、オトナになったら、フウフになろう」
この言葉を先に言いだしたのは、夏美だったか。
「いいよ。フウフになろう」
オトナの意味もフウフ意味も潤覚えの時に綻びそうな甘い約束を交わした。

小さいときから、二人は一緒だった。元々孤児として施設に入っていた二人だったが、初老の男性が引き取った。はじめの頃は、警戒しかしていなかったが、今では、お小遣いをねだる程まで成長した。
二人の親になった男性は、口癖のように、
「星は、明るいなぁ」
と呟いていた。その影響もあってか、夜に星空を見ることがあった。
夜風は寒く、二人の体温が温かかった。


「ほら、流れ星」
「どこどこ?」
「ほらあそこ」
星が散っている空に、手を伸ばす。その手は、厚く、シワシワで力強い見た目をしていた。
「良いかい二人とも。星が光るのは、自分を見つけてほしいからなんだよ」
「たくさんの人がいて、食い違うこともあるかもしれなけど、辛そうだったら、迷わず、抱きしめてあげなさい」
「うんっ」
そう言って、僕達を抱きしめた。
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