叶い琴

幸甚

文字の大きさ
上 下
1 / 2

しおりを挟む
二階にある第二理科室から、大きなクレーン車が見えた。
ずっと眺めていないと、動いているのかが分からない。幸いな事に、一番後ろの席で、熱心に教えている先生視界に入らない。隣の水原はいつもどうりグッスリ爆睡しているで心置きなくクレーン車を見る。
雲一つ無い空に、伸び、静かに動いていく。
梅雨が明け、七月が始まってすぐだと言うのに、冷房を付けているので理科室は凍えるように寒い。
先生に今、話しかけられる人はいないだろう。
「良いですか、慣性の法則とは物体に力が働いていないか、いくつかの力が働いていても釣り合っているとき、制止している物体は制止し続け、運動している物体はそのままの速さで等速直線運動を続けるという法則ーーーー」
将来、絶対に使わないであろうワードを連発する。
どうしようも無い寒さに鳥肌をたてながら、クレーン車を見る。空と同化してしまいそうな、細い筋。




「おい、先生の指名は言ったぞ」
「教科書三十二ページ。合力とは何かって言う問題だよ」
「ありがとう、水原」
いつも寝ている水原に肩を叩かれ起こされた。これは、相当珍しいことだ。
「はい、じゃー暁星。答えろ」
「合力とは力の合成によって得られた力です」
「正解」
そう言って、黒板に図を書き、説明していく。
隣の水原を伺うともう寝始めている。ダルそうな寝顔に少し癒されながら、外を見る。
今日の天気は、一言雨。夜のように暗くなった景色に第二理科室の電灯が不規則に点滅する。こんな日に限って、一限目から理科の授業。
でも、良い時間だな。としみじみ思う。
雨の降りしきる理科室に消えそうな電灯。光のない雷鳴が山に反射し、不安そうに皆が窓を見る。
今日は、流石に冷房はつけていないので寝るのにも気温が丁度良く、水原と眠ってしまった。雨の音が睡魔を誘う。
小学生の頃、畳の上で旋扇風機をつけ、星を見ながら虫の音を聞き、幼なじみと過ごした夜よりは、と聞かれると分からないが、受験生である現実も忘れさせてくれそうだった。

勉強よりも大事なコトに頭を撫でられる。
理科の後の授業が国語で、また眠ってしまった。



僕、暁星夕也は、今施設で世話になっている。昔はある男性が引き取ってくださったが、年齢の関係もあり病気で亡くなった。
そして、大事な大事な幼なじみの春永夏美は、死んだ。交通事故で。
星が近づいて我々に降ってきた夜の翌日のことだった。






「星は明るいなぁ」
最期の言葉を残し、消えた。星になった。凛然と夜に散り、星になった。許せなかった。自分が見つかるように光を発さないといけないことに。彼女を知っている人なら誰よりも星よりも輝きを分かっているはずなのに。隣にいない彼女は明るくも温かくもない。これは確実な事実だ。








とある星では、人々が笑いあい、励まし合い、泣いているという。そんな綺麗な星がどこにあるか知りたいですか?。
そこは、蝉の音が重なるところ。夜に温かくなれる場所。











流れ星にお願いした。
『あの一等星がずっと輝いていられますように』
と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

処理中です...