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第一章 帰ってきた幼馴染
黄太郎と、キーマカレーと野菜ジュース(1)
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ダン、ダン、と荒々しい包丁の音が響く。
青司くんがいよいよ調理をはじめたのだ。
黒いエプロンをして野菜を切りはじめているが、その手つきはどことなく乱暴に見える。
「ど、どうしたの青司くん……なにか怒ってる?」
「何が?」
にっこりとわたしに微笑むが、なにか怖い。
黄太朗はフンと鼻で笑って、また挑発するようなことを言いはじめた。
「オイオイ、真白に当たるなよ」
「……は? 別に当たってないけど」
手を止めて、黄太朗をにらむ青司くん。
「当たってるだろ。そんなにオレと真白が親しげにしているのが気に入らないか?」
「……」
青司くんは黙ってにんじんをさいの目に切っている。
わたしは黄太郎に「どういうこと?」と訊いた。
「ああ、真白は知らないか。そうだよなあ、知らなかったからオレとああなったわけだし?」
「ああなった……」
それって、わたしたちが付き合ってたことを指しているの?
どうしよう。青司くんに……知られちゃう。
覚悟していたとはいえ、その話題が出そうになると恐怖で身がすくんだ。
わたしの様子に黄太郎も何か悟ったらしい。
「ふうん。真白、まだあのこと言ってないのか」
「え?」
「オレたちの……昔の関係だよ」
「……」
ビクッと青司くんがその言葉に反応する。
「昔の関係? なんのことだ?」
「せ、青司くん……それは」
「聞きたいか?」
「ああ」
そう言って、真剣な顔で向かい合う二人。
わたしはキリキリと胃が痛くなってきた。
「真白……話すぞ?」
そう黄太郎に確かめられても、すぐに返事はできなかった。
でも、わたしは勇気を出してゆっくりとうなづく。
「オレたちはな……昔付き合ってたんだ。高校のときに」
青司くんの顔が、見れない。
わたしはカウンターの上に出した手をきゅっと握りしめた。
青司くんは何も言わない。どうやら絶句しているようだ。
しばらくしてから、また包丁の音がしはじめた。
今度は怒りにまかせたものではなく、普通の音。
それが逆に恐ろしく感じた。
「青司。悔しいか?」
嘲るようにそう言う黄太郎。
やめて。もうこんなこと……!
「なあ、青司。自分の知らない間に……可愛い幼馴染が別のやつと付き合ってたって聞いて、どう思ったんだよ? なあ。答えろ、九露木青司!」
バン、と黄太郎はカウンターの天板に手をついて立ち上がった。
青司くんは、ちょうどにんじんを刻み終えたところだった。
わたしはまだ自分の手元しか見ることができない。
丁寧に包丁で寄せて、にんじんを大きめのお皿に移す青司くん。
続いてまた別の食材を切る音。
「俺は……」
ようやく、青司くんが話しだした。
「それについては、何も言えない。さっきも言ったけど、真白がその時決めたことだから。それについてはどうこう言う言えないよ。でも……たしかにちょっと悔しい、な……」
「青司くん……!」
わたしはその言葉にようやく顔を上げる。
でも、驚いた。青司くんはなんと、ぽろぽろ涙を流していたのだ。
「せ、青司くん!?」
「オイオイ、男のくせに……泣いたりすんなよ!」
黄太郎も呆気にとられながらツッコむ。
そんなに……傷つけてしまったんだろうか?
わたしが一度でも他の人と付き合ってしまったことが、そんなにショックだったんだろうか。
だとしたら、かなり胸が痛い。
「だって……。真白と付き合うのは、最初に付き合うのは俺だって思ってたから……そんなの、何年も連絡をとらなかった俺が言うのは……勝手だってわかってるけど……でも、真白の、初めての相手が俺じゃなかったっていうのは……やっぱりショックだよ」
「……!」
わたしはカッと顔が熱くなった。
初めての……相手?
それって、「初めて付き合った相手」って意味なだけだよね?
それだけ、だよね?
……。
違うよ!?
黄太郎とはなんにもない。ただ付き合ったことがある、ってだけだよ?
キスとかそれ以上……とか、なんにもないから!
そう。だって、キスは……青司くんがこの間してくれたのが初めてだったし。
だから「初めて」ってのをそんなに気にしなくても――。
「くっ。くくくっ」
突然、黄太郎がおかしそうに笑いはじめた。
な、なに? なんで急に笑いはじめたの?
ていうか、すぐに否定してほしいんだけど。わたしとは付き合ったけど結局何もありませんでした、って……。
え? まさか。わざとなの!?
わざと、青司くんを勘違いさせるようなことを――。
「……信じらんない」
こんないやがらせするなんて、どれだけ青司くんに恨みがあるんだ。
わたしも黄太郎の想いを完全に理解しているわけじゃないけど……なにもここまでやらなくたって。
いや……。
わたしも、人のことは言えない。
再会するまでは……わたしもたしかにこれくらい青司くんをギャフンと言わせたい気持ちがあった。
ちゃんと理由を聞いたら、許せるようになったけど……。
そっか。黄太郎はまだ、そうじゃないもんね。
「真白。悪い。でも、これくらいはやらせてくれ」
「……はあ。うん……」
席にもう一度座りながら言う黄太郎に、わたしはため息をつきながら頷いた。
青司くんには、相変わらず強い罪悪感を覚えたままである。
でも、これだけは仕方がない。
こうしたくなっても、今は仕方がないって思った。
黄太郎は軽く咳払いをして、いよいよきちんとした「説明」をしはじめる。
「勘違いすんなよ、青司。オレは真白のキスどころか処女も奪っちゃいねえ。だってオレら、一週間しか付き合ってないもんな」
「は?」
ネタバレされて、青司くんはすっとんきょうな声を上げた。
驚きながらもどこかあきれ返っているような表情だ。
「そうだ。だから……安心しろ、このバカ!」
「……」
黄太郎に言われて、青司くんが思わずわたしを見る。
「え、えっと……うん、今言ったことは本当……」
「そっ、そっか……。うん、そうか!」
そう言うと、青司くんはみるみる笑顔を取り戻して、またザクザクと食材を切りはじめた。
でもまだ涙が流れつづけている。
わたしはバッグから、この間借りた青司くんの水色のハンカチをあわてて取り出した。
「あ、あの、青司くん! これ。これで涙、拭いて!」
「はあ~? 今度はうれし泣きか? けっ」
黄太郎が毒づく横で、青司くんはわたしからハンカチを受け取る。
「ありがと、真白……。さっきから涙が止まらなくってさ。あ、黄太郎、これはうれし泣きとかじゃないから。玉ねぎが目にしみてるだけだよ」
「はっ?」
「え?」
黄太郎とわたしは急いで青司くんの手元を覗き込んだ。
そこには、まな板の上に切り刻まれた玉ねぎがあった。
二人とも唖然とする。一杯喰わされた。
「ま、まじか」
「うそ。玉ねぎのせいで泣いてたの?」
呆れていると、黄太郎がじっとわたしの顔を見てきた。
「オイ、今の……やっぱり本当に泣いてたんじゃねえのか? たまたまそこに玉ねぎがあったから体よくそれを言い訳に使っただけで……。はあ~。オレはこいつの、こういうところが、昔っから大嫌いなんだよ! ったく! そもそもオレは他のこともまだ納得いってねえんだ!」
青司くんはわめきちらす黄太郎にいつものほわっとした笑みを向けると、荒みじんにしていた玉ねぎをまた大きめの皿の中に入れた。
そして今度はしめじを包丁で切りはじめる。
どうやら食材は、それぞれできるだけ細かくする予定のようだ。
「玉ねぎで、涙が出たのはホントだよ。それに真白と黄太郎が付き合ってた、っていうのを聞いてショックを受けたのもホント。でも……たった一週間で別れたって、どうして? どうしてそうなったの?」
単純に疑問に思ったのか、青司くんはしれっとそんなことを訊いてきた。
「それも、言っていいのか? 真白」
「あー、うん。いいよ……」
わたしは深いため息を吐くと、カウンターの上に顔を伏せた。
「オレたちが付き合ったのはな――」
わたしたちが付き合ったのは、わたしが高校に上がってすぐのことだった。
わたしはキラキラの一年生。
黄太郎は一つ上の二年生だった。
中・高と同じ学校で、腐れ縁のようにずっと一緒に過ごしてきたわたしたちは、先輩後輩とか関係なく、いつも仲の良い友人でいた。
でも……あるとき黄太郎がわたしに告白してきたのだ。
もう前に進むために青司を忘れろって。そのために俺と付き合えって。
わたしは何事にもやる気が出ず、そのころも中途半端に生きつづけていた。
部活もやらず、毎日家と学校の往復だけ。
友達と遊ぶときぐらいしか気分が晴れることはなかった。
黄太郎や親友の紅里と、このまま何の変化もなく付き合っていくんだと思っていた。
でも、黄太郎に告白されて。
わたしは「お試し」でいいならと、誰にも言わずに付き合うことにした。
でも……いろんなところに出かけてデートみたいなことを繰り返して、一週間が経ったころ、やっぱり違うと思いはじめた。
そして――。
「それで、オレがついに我慢できなくなって、七日目の放課後だったか。いい雰囲気でキスしようとしたら……拒否られちまったんだよ。やっぱり青司を忘れられない、ってな……」
「そうだったんだ」
黄太郎の話を聞いていた青司くんが、ものすごく嬉しそうにわたしを見る。
うう……穴があったら入りたい。
「そんなわけで、オレはきっぱりと失恋をしたわけだ。正直今だって真白が好きだ。でも……真白の気持ちを尊重して、別れたんだ」
「黄太郎……ごめん」
「いいって。真白、謝んなって言ったろ?」
「うん……」
何度も何度も、それは言われたことだった。
最初から無理だってわかってた、でもダメ元でも付き合ってほしいって言って良かった、って言ってくれてた。
その言葉にどんなに救われたことか。
「だから……もう真白が不幸せな思いをするのは、我慢ならねえんだ。オレが諦めた分、真白にはちゃんと幸せになってほしい。そうじゃないんなら……真白がたとえお前を許したとしても、オレは許せねえ」
「黄太郎……」
わたしは黄太郎の熱い思いを感じ取りながら、自分と青司くんのことを考えていた。
青司くんがいよいよ調理をはじめたのだ。
黒いエプロンをして野菜を切りはじめているが、その手つきはどことなく乱暴に見える。
「ど、どうしたの青司くん……なにか怒ってる?」
「何が?」
にっこりとわたしに微笑むが、なにか怖い。
黄太朗はフンと鼻で笑って、また挑発するようなことを言いはじめた。
「オイオイ、真白に当たるなよ」
「……は? 別に当たってないけど」
手を止めて、黄太朗をにらむ青司くん。
「当たってるだろ。そんなにオレと真白が親しげにしているのが気に入らないか?」
「……」
青司くんは黙ってにんじんをさいの目に切っている。
わたしは黄太郎に「どういうこと?」と訊いた。
「ああ、真白は知らないか。そうだよなあ、知らなかったからオレとああなったわけだし?」
「ああなった……」
それって、わたしたちが付き合ってたことを指しているの?
どうしよう。青司くんに……知られちゃう。
覚悟していたとはいえ、その話題が出そうになると恐怖で身がすくんだ。
わたしの様子に黄太郎も何か悟ったらしい。
「ふうん。真白、まだあのこと言ってないのか」
「え?」
「オレたちの……昔の関係だよ」
「……」
ビクッと青司くんがその言葉に反応する。
「昔の関係? なんのことだ?」
「せ、青司くん……それは」
「聞きたいか?」
「ああ」
そう言って、真剣な顔で向かい合う二人。
わたしはキリキリと胃が痛くなってきた。
「真白……話すぞ?」
そう黄太郎に確かめられても、すぐに返事はできなかった。
でも、わたしは勇気を出してゆっくりとうなづく。
「オレたちはな……昔付き合ってたんだ。高校のときに」
青司くんの顔が、見れない。
わたしはカウンターの上に出した手をきゅっと握りしめた。
青司くんは何も言わない。どうやら絶句しているようだ。
しばらくしてから、また包丁の音がしはじめた。
今度は怒りにまかせたものではなく、普通の音。
それが逆に恐ろしく感じた。
「青司。悔しいか?」
嘲るようにそう言う黄太郎。
やめて。もうこんなこと……!
「なあ、青司。自分の知らない間に……可愛い幼馴染が別のやつと付き合ってたって聞いて、どう思ったんだよ? なあ。答えろ、九露木青司!」
バン、と黄太郎はカウンターの天板に手をついて立ち上がった。
青司くんは、ちょうどにんじんを刻み終えたところだった。
わたしはまだ自分の手元しか見ることができない。
丁寧に包丁で寄せて、にんじんを大きめのお皿に移す青司くん。
続いてまた別の食材を切る音。
「俺は……」
ようやく、青司くんが話しだした。
「それについては、何も言えない。さっきも言ったけど、真白がその時決めたことだから。それについてはどうこう言う言えないよ。でも……たしかにちょっと悔しい、な……」
「青司くん……!」
わたしはその言葉にようやく顔を上げる。
でも、驚いた。青司くんはなんと、ぽろぽろ涙を流していたのだ。
「せ、青司くん!?」
「オイオイ、男のくせに……泣いたりすんなよ!」
黄太郎も呆気にとられながらツッコむ。
そんなに……傷つけてしまったんだろうか?
わたしが一度でも他の人と付き合ってしまったことが、そんなにショックだったんだろうか。
だとしたら、かなり胸が痛い。
「だって……。真白と付き合うのは、最初に付き合うのは俺だって思ってたから……そんなの、何年も連絡をとらなかった俺が言うのは……勝手だってわかってるけど……でも、真白の、初めての相手が俺じゃなかったっていうのは……やっぱりショックだよ」
「……!」
わたしはカッと顔が熱くなった。
初めての……相手?
それって、「初めて付き合った相手」って意味なだけだよね?
それだけ、だよね?
……。
違うよ!?
黄太郎とはなんにもない。ただ付き合ったことがある、ってだけだよ?
キスとかそれ以上……とか、なんにもないから!
そう。だって、キスは……青司くんがこの間してくれたのが初めてだったし。
だから「初めて」ってのをそんなに気にしなくても――。
「くっ。くくくっ」
突然、黄太郎がおかしそうに笑いはじめた。
な、なに? なんで急に笑いはじめたの?
ていうか、すぐに否定してほしいんだけど。わたしとは付き合ったけど結局何もありませんでした、って……。
え? まさか。わざとなの!?
わざと、青司くんを勘違いさせるようなことを――。
「……信じらんない」
こんないやがらせするなんて、どれだけ青司くんに恨みがあるんだ。
わたしも黄太郎の想いを完全に理解しているわけじゃないけど……なにもここまでやらなくたって。
いや……。
わたしも、人のことは言えない。
再会するまでは……わたしもたしかにこれくらい青司くんをギャフンと言わせたい気持ちがあった。
ちゃんと理由を聞いたら、許せるようになったけど……。
そっか。黄太郎はまだ、そうじゃないもんね。
「真白。悪い。でも、これくらいはやらせてくれ」
「……はあ。うん……」
席にもう一度座りながら言う黄太郎に、わたしはため息をつきながら頷いた。
青司くんには、相変わらず強い罪悪感を覚えたままである。
でも、これだけは仕方がない。
こうしたくなっても、今は仕方がないって思った。
黄太郎は軽く咳払いをして、いよいよきちんとした「説明」をしはじめる。
「勘違いすんなよ、青司。オレは真白のキスどころか処女も奪っちゃいねえ。だってオレら、一週間しか付き合ってないもんな」
「は?」
ネタバレされて、青司くんはすっとんきょうな声を上げた。
驚きながらもどこかあきれ返っているような表情だ。
「そうだ。だから……安心しろ、このバカ!」
「……」
黄太郎に言われて、青司くんが思わずわたしを見る。
「え、えっと……うん、今言ったことは本当……」
「そっ、そっか……。うん、そうか!」
そう言うと、青司くんはみるみる笑顔を取り戻して、またザクザクと食材を切りはじめた。
でもまだ涙が流れつづけている。
わたしはバッグから、この間借りた青司くんの水色のハンカチをあわてて取り出した。
「あ、あの、青司くん! これ。これで涙、拭いて!」
「はあ~? 今度はうれし泣きか? けっ」
黄太郎が毒づく横で、青司くんはわたしからハンカチを受け取る。
「ありがと、真白……。さっきから涙が止まらなくってさ。あ、黄太郎、これはうれし泣きとかじゃないから。玉ねぎが目にしみてるだけだよ」
「はっ?」
「え?」
黄太郎とわたしは急いで青司くんの手元を覗き込んだ。
そこには、まな板の上に切り刻まれた玉ねぎがあった。
二人とも唖然とする。一杯喰わされた。
「ま、まじか」
「うそ。玉ねぎのせいで泣いてたの?」
呆れていると、黄太郎がじっとわたしの顔を見てきた。
「オイ、今の……やっぱり本当に泣いてたんじゃねえのか? たまたまそこに玉ねぎがあったから体よくそれを言い訳に使っただけで……。はあ~。オレはこいつの、こういうところが、昔っから大嫌いなんだよ! ったく! そもそもオレは他のこともまだ納得いってねえんだ!」
青司くんはわめきちらす黄太郎にいつものほわっとした笑みを向けると、荒みじんにしていた玉ねぎをまた大きめの皿の中に入れた。
そして今度はしめじを包丁で切りはじめる。
どうやら食材は、それぞれできるだけ細かくする予定のようだ。
「玉ねぎで、涙が出たのはホントだよ。それに真白と黄太郎が付き合ってた、っていうのを聞いてショックを受けたのもホント。でも……たった一週間で別れたって、どうして? どうしてそうなったの?」
単純に疑問に思ったのか、青司くんはしれっとそんなことを訊いてきた。
「それも、言っていいのか? 真白」
「あー、うん。いいよ……」
わたしは深いため息を吐くと、カウンターの上に顔を伏せた。
「オレたちが付き合ったのはな――」
わたしたちが付き合ったのは、わたしが高校に上がってすぐのことだった。
わたしはキラキラの一年生。
黄太郎は一つ上の二年生だった。
中・高と同じ学校で、腐れ縁のようにずっと一緒に過ごしてきたわたしたちは、先輩後輩とか関係なく、いつも仲の良い友人でいた。
でも……あるとき黄太郎がわたしに告白してきたのだ。
もう前に進むために青司を忘れろって。そのために俺と付き合えって。
わたしは何事にもやる気が出ず、そのころも中途半端に生きつづけていた。
部活もやらず、毎日家と学校の往復だけ。
友達と遊ぶときぐらいしか気分が晴れることはなかった。
黄太郎や親友の紅里と、このまま何の変化もなく付き合っていくんだと思っていた。
でも、黄太郎に告白されて。
わたしは「お試し」でいいならと、誰にも言わずに付き合うことにした。
でも……いろんなところに出かけてデートみたいなことを繰り返して、一週間が経ったころ、やっぱり違うと思いはじめた。
そして――。
「それで、オレがついに我慢できなくなって、七日目の放課後だったか。いい雰囲気でキスしようとしたら……拒否られちまったんだよ。やっぱり青司を忘れられない、ってな……」
「そうだったんだ」
黄太郎の話を聞いていた青司くんが、ものすごく嬉しそうにわたしを見る。
うう……穴があったら入りたい。
「そんなわけで、オレはきっぱりと失恋をしたわけだ。正直今だって真白が好きだ。でも……真白の気持ちを尊重して、別れたんだ」
「黄太郎……ごめん」
「いいって。真白、謝んなって言ったろ?」
「うん……」
何度も何度も、それは言われたことだった。
最初から無理だってわかってた、でもダメ元でも付き合ってほしいって言って良かった、って言ってくれてた。
その言葉にどんなに救われたことか。
「だから……もう真白が不幸せな思いをするのは、我慢ならねえんだ。オレが諦めた分、真白にはちゃんと幸せになってほしい。そうじゃないんなら……真白がたとえお前を許したとしても、オレは許せねえ」
「黄太郎……」
わたしは黄太郎の熱い思いを感じ取りながら、自分と青司くんのことを考えていた。
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