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第四章 海開き
32、境雲神社へ潜入
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0723/18:00/成神さん・宮内あやめ・園田/境雲神社
結局、登山と下山合わせて二時間もかかってしまった。
もうヘトヘトだ。
僕は隣町へ自転車で行くだけで息があがってしまうので、この弾丸ハイキングはかなりのキツさだった。
昔の人はよく、こんな山道を毎日登ったり下りたりできたものだと思う。さらに坑内での掘削作業もプラスされていたというのだから本当にすごい。
境雲神社の社殿が見える。
成神さんは、今度はあそこを調べると言っていた。でも……いったい何を探るつもりだろう。
僕は前を歩く成神さんの背中を見やった。
「矢吹君。君の……幼馴染のお姉さん、ジュンさんがいるところは知っているかい?」
「え? ジュン姉のいるところ、ですか?」
成神さんは真剣な表情をしていた。
僕は首を振る。
「えっと……わからないです」
「俺らは今、いわゆる『透明人間』になれているんだ。このチャンスを活かさない手はないよ」
「そう、ですけど……でもどこかわからないのに探るのは危険では?」
「心配するのはわかる。でも、俺の『不感知の術』は強力だから……安心してほしい。それにこれはコワガミサマを消滅させるために必要な『調査』も兼ねているんだよ」
「コワガミサマを消滅……」
成神さんは、やはりそこまでしようとしているのか。
祓う、とは言っていたけど、それは消滅を意味しているようだ。
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
「成神、さん。僕はあの神社の全てを、知っているわけじゃありません。だから施設内を案内するとかはその……できないです。それに今、僕はコワガミサマからジュン姉の姿を見えなくされるという『天罰』を受けています。そんな僕がジュン姉を探せるかどうか……」
モゴモゴと僕が煮え切らない返事をしていると、成神さんは軽くため息をついた。
「まあ、俺はその天罰ってのをまだ受けてないからね。俺だけは探せると思うよ。まあ……君が気乗りしないなら俺だけでも行くけど」
「えっ? あっ、ま、待ってください! やっぱり、僕も行きます!」
「……そうこなくちゃ」
成神さんはニッと笑うと、こちらのことなどお構いなしにすたすたと歩いていく。
「そ、そうだ。ビビッている場合じゃない……しっかりしなきゃ」
そう、なんとしてでも彼についていかなければ。
事態が変わるとしても、僕はそれを見届ける義務があった。なにしろ彼をこの村に呼んだのだのは僕なのだ。
それに、ジュン姉のことがどうしても気にかかる。
僕は急いで後を追った。
「じゃあまずはこの辺から、行ってみようか」
「…………」
成神さんは建物同士を結ぶ渡り廊下のあたりに見当をつけると、そこへ上がるための階段をタンタンと上っていった。
僕も成神さんに倣い、靴を脱いでついていく。
幸いあたりには誰もいなかった。
まあ、いたとしても僕らの姿は見えないし、気づかれないはずなんだけど……僕はずっと緊張しっぱなしだった。いまにも見つかるんじゃないかと思って。
成神さんは廊下を堂々と進むと、いきなり突きあたりの部屋をからっと開けた。
どこも障子戸だが、幸い中に人はいない。がらんとした和室だけが広がっていた。
成神さんは口の前で人差し指を当てると、つぶやくように言う。
「いいかい、矢吹君。俺たちの姿は見えないけれど、こうして戸を開けたり物を動かすと、それは認識されてしまう。だから極力しないことだ。あと声。これも小声ならいいけれど、びっくりした時とかの大声は気づかれてしまうから注意だ。俺たちは幽霊、みたいなもの、気付かれたらこの術は簡単に解けてしまうんだ。今後はそれらを意識しながらついてきてくれ」
「は、はい……」
幽霊みたいなもの。
たしかに、この状態はとても変な感じだ。
成神さん自身も言っていたけれど、僕らは今、透明人間とも言える「誰にも姿が見えない」状態だ。
村の中を歩いていた時も思ったけど、誰からも認識されないというのは、妙な寂しさを覚える。でも、同時に万能感もあって……つまりは本当に「妙な気分」にさせられていたのだった。
成神さんは戸を元のように閉めると、今度は明確な意志をもって進みはじめる。
「すごく禍々しい気が……奥から流れてきているな。たぶん、あっちだ」
彼の言うままについていくと、向こうから急に誰かがやってきた。
あれは……宮内あやめだ。
宮内あやめと、その運転手である園田だ。彼らは何事かを話しながらこちらに近づいてくる。
「まずい、ちょっと脇に隠れよう」
成神さんは廊下の手すりをまたぐと、中庭の砂利の上に下りた。
僕も同様にして渡り廊下の下に着地する。
「園田」
「はい、なんでしょうかお嬢様」
ふたりは、間の悪いことに僕らのすぐ上で立ち止まってしまった。すぐ近くなので声がダイレクトに聞こえてくる。
宮内あやめは、一呼吸置くととても深刻そうに語り出した。
「あれ、大丈夫なの……?」
「何がでございますか」
「コワガミサマのお嫁さんよ。あの人かなり、精神が壊れてきてない?」
「そう……でございますね」
精神が、壊れてきている?
ジュン姉の身にいったい何が……。
「もともと純粋な女性だったようですから。そこがコワガミサマの気に入るところでもあったようですが……身に余る願いをしたために、コワガミサマからの侵蝕が進んでいるのでしょう」
侵蝕……?
は?
「依り代にとってそれは避けられないことではあるけれど……あれは進み過ぎね。前のシゲさんは無欲の人だったからあれだけ長引かせることができた。でも、あの人は……」
「そうですね。心配でいらっしゃいますか?」
「心配? わたしが?」
ハッとあざけるように笑うと、宮内あやめは愉快そうに答えた。
「そうね。あの人がダメになったらすぐに次のお嫁さんを……探さなきゃいけないから、気がかりと言えば気がかりね。でもこの村に年頃の娘は他にそういないわ。ねえ、もしわたしが次のお嫁さんに選ばれたらどうする?」
「あやめお嬢様が、ですか?」
「そう。宮内の人間が過去に選ばれたこともあるそうよ」
「…………」
園田は一瞬黙り込むと、さっとあやめを抱き寄せて……口づけをした。
僕らは目の前でいきなりキスシーンが展開されて、目をむく。
この二人……って、こんな関係だったのか?
だって、親子ほどの年の差だぞ。
あり得ない光景を前に、僕と成神さんは息を殺すのに必死だった。
一方僕らに気付かないあやめたちは、静かに体を離した。
「何、園田。なんで今、キスしたわけ?」
「申し訳ございません。そのようなことは起こってほしくない、と思いましたので」
「……そう。まあ、その可能性はとても低いわ。だからそんなに心配しないで」
「はい、お嬢様」
園田はうやうやしくお辞儀をすると、もう一度あやめに近付いた。そして丁重にキスをして、それからまた穴の開くようにあやめを見つめる。
「もう、何よ。さっきから……」
あやめはそんな園田の行動を、不可解ながらも照れたように見つめた。
他の者が通りかからないからか、ずっと濃密な二人の時間が流れていく。
僕らはいったい何を見せつけられてるのだろうか。
あやめのこんな姿を目にするのは初めてだった。でも、別に特別見たいわけではない。早く通り過ぎてくれないかな、などと思っていると、あやめが意外なことを話しはじめた。
「あなたも、そういえばずいぶんと変わったわね。村の外の人間だったのに。いつのまにこんな……わたしについて、しかも親密な関係になったのかしら」
「……それはひとえに、私を拾ってくださった本家の大旦那様のおかげです。職はもとより、このように……素敵な主を私に与えてくださったのですから。感謝してもしきれません」
「いつ、わたしはあなたの物になったのかしら?」
「おや。賜ったと心得ておりましたが。違いましたか?」
「わたしは『物』じゃないわ。コワガミサマのお嫁さんじゃあるまいし……失礼なこと言わないで」
やはりあやめは、ジュン姉のことを「物」として扱っていたようだった。
聞けば聞くほどイライラする内容だ。いちゃついているのもあるけど……それ以上にジュン姉の扱いがひどくて吐き気がする。
ジュン姉だって、そんなふうに思われたいわけじゃないと思う。だから、いくらあやめによくしてもらったといっても、心を許してはいけないんだ。
「…………」
僕は、ここで彼らの会話を聞いてしまったことをものすごく後悔していた。でも、ひとつだけ収穫もあった。
彼女もコワガミサマのお嫁さんになる可能性があったということ。そしてそれを避けたがっているということ。
彼女も、できれば神様の元へ嫁ぐことなく恋人と結ばれたいと願っているのだ。
それはこの「神様のお嫁さん」というシステムに破たんがあることを意味していた。頭地区の人ですら、そういう認識なのだ。それはやはりメリットだけではないということである。
誰だって、犠牲者にはなりたくない。
村のためだとは言っても、自分だけはその哀れなひとりになりたくないのだ。それが普通の人間の感情だ。
やはり、こんな村の因習は滅びるべきだ。僕は改めてそう思った。
「ふふ。まあ、わたしのことはいいとして……今のお嫁さんにはもう少し頑張ってほしいわね。そうじゃないと、あの元付き人も……あの役についていた甲斐がないもの。あいつはすごく失礼なやつだったけど、お嫁さん以上に悲惨な運命を辿るんだし。せめて自分のおかげでお嫁さんが延命したと知っててほしいわ」
「また会う機会があれば、そのように伝えましょう。しかし……本当にお嬢様はお優しい方ですね」
「お世辞は止して頂戴。それとも皮肉? まあいいわ……もう、そろそろ行きましょう」
ふたりはそうして、また別の建物へと去っていったのだった。
延命……だって?
ジュン姉の命を、ってことか? それって、いったいどういうことなんだ。それが、僕のおかげ……?
「どうもまずいことになってるみたいだな」
気付くと、成神さんがいつのまにか、そう小さな声でつぶやいていたのだった。
結局、登山と下山合わせて二時間もかかってしまった。
もうヘトヘトだ。
僕は隣町へ自転車で行くだけで息があがってしまうので、この弾丸ハイキングはかなりのキツさだった。
昔の人はよく、こんな山道を毎日登ったり下りたりできたものだと思う。さらに坑内での掘削作業もプラスされていたというのだから本当にすごい。
境雲神社の社殿が見える。
成神さんは、今度はあそこを調べると言っていた。でも……いったい何を探るつもりだろう。
僕は前を歩く成神さんの背中を見やった。
「矢吹君。君の……幼馴染のお姉さん、ジュンさんがいるところは知っているかい?」
「え? ジュン姉のいるところ、ですか?」
成神さんは真剣な表情をしていた。
僕は首を振る。
「えっと……わからないです」
「俺らは今、いわゆる『透明人間』になれているんだ。このチャンスを活かさない手はないよ」
「そう、ですけど……でもどこかわからないのに探るのは危険では?」
「心配するのはわかる。でも、俺の『不感知の術』は強力だから……安心してほしい。それにこれはコワガミサマを消滅させるために必要な『調査』も兼ねているんだよ」
「コワガミサマを消滅……」
成神さんは、やはりそこまでしようとしているのか。
祓う、とは言っていたけど、それは消滅を意味しているようだ。
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
「成神、さん。僕はあの神社の全てを、知っているわけじゃありません。だから施設内を案内するとかはその……できないです。それに今、僕はコワガミサマからジュン姉の姿を見えなくされるという『天罰』を受けています。そんな僕がジュン姉を探せるかどうか……」
モゴモゴと僕が煮え切らない返事をしていると、成神さんは軽くため息をついた。
「まあ、俺はその天罰ってのをまだ受けてないからね。俺だけは探せると思うよ。まあ……君が気乗りしないなら俺だけでも行くけど」
「えっ? あっ、ま、待ってください! やっぱり、僕も行きます!」
「……そうこなくちゃ」
成神さんはニッと笑うと、こちらのことなどお構いなしにすたすたと歩いていく。
「そ、そうだ。ビビッている場合じゃない……しっかりしなきゃ」
そう、なんとしてでも彼についていかなければ。
事態が変わるとしても、僕はそれを見届ける義務があった。なにしろ彼をこの村に呼んだのだのは僕なのだ。
それに、ジュン姉のことがどうしても気にかかる。
僕は急いで後を追った。
「じゃあまずはこの辺から、行ってみようか」
「…………」
成神さんは建物同士を結ぶ渡り廊下のあたりに見当をつけると、そこへ上がるための階段をタンタンと上っていった。
僕も成神さんに倣い、靴を脱いでついていく。
幸いあたりには誰もいなかった。
まあ、いたとしても僕らの姿は見えないし、気づかれないはずなんだけど……僕はずっと緊張しっぱなしだった。いまにも見つかるんじゃないかと思って。
成神さんは廊下を堂々と進むと、いきなり突きあたりの部屋をからっと開けた。
どこも障子戸だが、幸い中に人はいない。がらんとした和室だけが広がっていた。
成神さんは口の前で人差し指を当てると、つぶやくように言う。
「いいかい、矢吹君。俺たちの姿は見えないけれど、こうして戸を開けたり物を動かすと、それは認識されてしまう。だから極力しないことだ。あと声。これも小声ならいいけれど、びっくりした時とかの大声は気づかれてしまうから注意だ。俺たちは幽霊、みたいなもの、気付かれたらこの術は簡単に解けてしまうんだ。今後はそれらを意識しながらついてきてくれ」
「は、はい……」
幽霊みたいなもの。
たしかに、この状態はとても変な感じだ。
成神さん自身も言っていたけれど、僕らは今、透明人間とも言える「誰にも姿が見えない」状態だ。
村の中を歩いていた時も思ったけど、誰からも認識されないというのは、妙な寂しさを覚える。でも、同時に万能感もあって……つまりは本当に「妙な気分」にさせられていたのだった。
成神さんは戸を元のように閉めると、今度は明確な意志をもって進みはじめる。
「すごく禍々しい気が……奥から流れてきているな。たぶん、あっちだ」
彼の言うままについていくと、向こうから急に誰かがやってきた。
あれは……宮内あやめだ。
宮内あやめと、その運転手である園田だ。彼らは何事かを話しながらこちらに近づいてくる。
「まずい、ちょっと脇に隠れよう」
成神さんは廊下の手すりをまたぐと、中庭の砂利の上に下りた。
僕も同様にして渡り廊下の下に着地する。
「園田」
「はい、なんでしょうかお嬢様」
ふたりは、間の悪いことに僕らのすぐ上で立ち止まってしまった。すぐ近くなので声がダイレクトに聞こえてくる。
宮内あやめは、一呼吸置くととても深刻そうに語り出した。
「あれ、大丈夫なの……?」
「何がでございますか」
「コワガミサマのお嫁さんよ。あの人かなり、精神が壊れてきてない?」
「そう……でございますね」
精神が、壊れてきている?
ジュン姉の身にいったい何が……。
「もともと純粋な女性だったようですから。そこがコワガミサマの気に入るところでもあったようですが……身に余る願いをしたために、コワガミサマからの侵蝕が進んでいるのでしょう」
侵蝕……?
は?
「依り代にとってそれは避けられないことではあるけれど……あれは進み過ぎね。前のシゲさんは無欲の人だったからあれだけ長引かせることができた。でも、あの人は……」
「そうですね。心配でいらっしゃいますか?」
「心配? わたしが?」
ハッとあざけるように笑うと、宮内あやめは愉快そうに答えた。
「そうね。あの人がダメになったらすぐに次のお嫁さんを……探さなきゃいけないから、気がかりと言えば気がかりね。でもこの村に年頃の娘は他にそういないわ。ねえ、もしわたしが次のお嫁さんに選ばれたらどうする?」
「あやめお嬢様が、ですか?」
「そう。宮内の人間が過去に選ばれたこともあるそうよ」
「…………」
園田は一瞬黙り込むと、さっとあやめを抱き寄せて……口づけをした。
僕らは目の前でいきなりキスシーンが展開されて、目をむく。
この二人……って、こんな関係だったのか?
だって、親子ほどの年の差だぞ。
あり得ない光景を前に、僕と成神さんは息を殺すのに必死だった。
一方僕らに気付かないあやめたちは、静かに体を離した。
「何、園田。なんで今、キスしたわけ?」
「申し訳ございません。そのようなことは起こってほしくない、と思いましたので」
「……そう。まあ、その可能性はとても低いわ。だからそんなに心配しないで」
「はい、お嬢様」
園田はうやうやしくお辞儀をすると、もう一度あやめに近付いた。そして丁重にキスをして、それからまた穴の開くようにあやめを見つめる。
「もう、何よ。さっきから……」
あやめはそんな園田の行動を、不可解ながらも照れたように見つめた。
他の者が通りかからないからか、ずっと濃密な二人の時間が流れていく。
僕らはいったい何を見せつけられてるのだろうか。
あやめのこんな姿を目にするのは初めてだった。でも、別に特別見たいわけではない。早く通り過ぎてくれないかな、などと思っていると、あやめが意外なことを話しはじめた。
「あなたも、そういえばずいぶんと変わったわね。村の外の人間だったのに。いつのまにこんな……わたしについて、しかも親密な関係になったのかしら」
「……それはひとえに、私を拾ってくださった本家の大旦那様のおかげです。職はもとより、このように……素敵な主を私に与えてくださったのですから。感謝してもしきれません」
「いつ、わたしはあなたの物になったのかしら?」
「おや。賜ったと心得ておりましたが。違いましたか?」
「わたしは『物』じゃないわ。コワガミサマのお嫁さんじゃあるまいし……失礼なこと言わないで」
やはりあやめは、ジュン姉のことを「物」として扱っていたようだった。
聞けば聞くほどイライラする内容だ。いちゃついているのもあるけど……それ以上にジュン姉の扱いがひどくて吐き気がする。
ジュン姉だって、そんなふうに思われたいわけじゃないと思う。だから、いくらあやめによくしてもらったといっても、心を許してはいけないんだ。
「…………」
僕は、ここで彼らの会話を聞いてしまったことをものすごく後悔していた。でも、ひとつだけ収穫もあった。
彼女もコワガミサマのお嫁さんになる可能性があったということ。そしてそれを避けたがっているということ。
彼女も、できれば神様の元へ嫁ぐことなく恋人と結ばれたいと願っているのだ。
それはこの「神様のお嫁さん」というシステムに破たんがあることを意味していた。頭地区の人ですら、そういう認識なのだ。それはやはりメリットだけではないということである。
誰だって、犠牲者にはなりたくない。
村のためだとは言っても、自分だけはその哀れなひとりになりたくないのだ。それが普通の人間の感情だ。
やはり、こんな村の因習は滅びるべきだ。僕は改めてそう思った。
「ふふ。まあ、わたしのことはいいとして……今のお嫁さんにはもう少し頑張ってほしいわね。そうじゃないと、あの元付き人も……あの役についていた甲斐がないもの。あいつはすごく失礼なやつだったけど、お嫁さん以上に悲惨な運命を辿るんだし。せめて自分のおかげでお嫁さんが延命したと知っててほしいわ」
「また会う機会があれば、そのように伝えましょう。しかし……本当にお嬢様はお優しい方ですね」
「お世辞は止して頂戴。それとも皮肉? まあいいわ……もう、そろそろ行きましょう」
ふたりはそうして、また別の建物へと去っていったのだった。
延命……だって?
ジュン姉の命を、ってことか? それって、いったいどういうことなんだ。それが、僕のおかげ……?
「どうもまずいことになってるみたいだな」
気付くと、成神さんがいつのまにか、そう小さな声でつぶやいていたのだった。
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