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プロローグ 何気ない日々の終わり
3、ジュン姉と自宅でご飯
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0401/11:50/ジュン姉/矢吹家
しばらく行くと、青い屋根の二階建ての家が見えてくる。
そこが僕の自宅だ。
ちなみに、茶の木の低い生垣を隔てて、すぐ隣にある平屋がジュン姉の家である。
僕は自転車を庭先に停めると、「矢吹」と上に表札がかかった玄関の引き戸を開けた。
「ただいまー」
返事はない。
父さんとじいちゃんはすでに仏様になっているし、ばあちゃんも両親が結婚するとうの昔に亡くなっていた。
唯一生きている母さんは、仕事で毎日夕方まで帰ってこない。
靴を脱いで上がると、ジュン姉はいまだ玄関前で立ち止まっていた。
「あれ、ジュン姉どうしたの? お昼ご飯まだでしょ、一回家に戻って食べてくる?」
普段は僕は午後に帰ってくる。
だからいつも、昼食を食べ終わったあとのジュン姉とTVゲームをしていた。
休みの日とか、午前中から遊ぶ場合は、ジュン姉は一回自宅でお昼ご飯を食べてくる。今日はその日の動きに近かった。
ジュン姉は首を振ると、玄関を閉めて靴を脱ぎはじめる。
「ううん。戻らない」
「え? お腹すいてないの?」
「すいてる」
「え、じゃあ食べてくればいいじゃん」
「今は……帰りたくない」
「え?」
ジュン姉が靴をそろえながら言う。
「帰りたくない」
もう一度言った。
僕はその言葉に妙にドキリとしながら、
「あ、そう……」
としか言えなかった。
よくわからないけど親と喧嘩でもしたのだろうか。
ジュン姉の家はちゃんと両親がそろっている。たしかお父さんは薬剤師で、お母さんは専業主婦だ。
いつでも家にお母さんがいるというのはうらやましい。家事も掃除もしてくれて、手の込んだ料理もいつでも出してくれる。本当にうらやましい。
ジュン姉の家に一度お邪魔した時に食べた、あの煮込みハンバーグは特に絶品だった……。
とかなんとか思い出しつつ台所に移動すると、テーブルの上にメモがあった。
『適当に冷凍庫の中の物を食べてね。足りなければカップラーメンでも作って』
これである。
働いているからといって、うちの母さんは少々家事を手抜きし過ぎではないだろうか。
僕はメモをジュン姉に見せながら言った。
「こういう状況だからさ、たいしたものはないけど……良かったらジュン姉も一緒に食べる?」
「……うん」
ぐうう~~と、途端にジュン姉のお腹が鳴る。
ジュン姉は恥ずかしそうにつぶやいた。
「ご、ごめん……」
「あはは。すぐに作るから、そこに座ってて!」
「うん。リュー君、ありがと」
僕はさっそく、冷蔵庫の側面にかけられたエプロンを身につけ、流しで手を洗うと食事の準備を開始した。
ジュン姉は食卓について、僕をじっと眺めている……。見なくても、音とかでそれがなんとなくわかってしまう。
なんか、妙に緊張してきた。いつもなら一人で作って食べるだけだけど、誰かがいるとちゃんとしなきゃって気になる。
冷凍庫から、ラップで小分けされたご飯とギョーザを取り出す。
ご飯の塊を電子レンジにかけている間に、フライパンを準備する。ついでにちらっとジュン姉を振り返ると、やっぱりこっちを見ていた。
「え? あの……ちょっと……そんな見られると恥ずかしいんだけど」
「あ、ごめん」
ジュン姉はあわててそっぽを向き、持っていた砂金をじっくり観察しはじめた。
僕はそれを見て、ようやくコンロの火をつける。
そして数分後――。
「さ、できたよー」
僕は食卓の上にアツアツの餃子が載った大皿と、ご飯をよそった茶碗を並べた。それぞれの茶碗の前には小さな小皿とお箸を置くのも忘れない。
「じゃあ、さっそく食べようか」
「うん。ありがとリュー君! 美味しそー。じゃあ……いただきまーす!」
「いただきます」
テーブルの上にはすでに醤油さしとラー油が置いてあった。それを小皿に注ぎ、ぷりっとした餃子を浸して食べる。
……うーん、美味い!
見るとジュン姉も同じように幸せそうな顔をしていた。
「はー、とっても美味しー。幸せ……」
その顔を見ていると、つい僕の口からもぽろっと本音が漏れる。
「ああ、本当に。ずっと……こうしてたいな」
すると、ジュン姉がきょとんとして、こっちを見てきた。
「リュー君?」
「あ、いや。お、美味しいからずっとこれ食べてたいなーって、そ、そういう意味だよ。あははは……」
焦ったー。
僕のジュン姉に対する気持ちが、にじみ出てしまったんじゃないかと思った。
でも、きっとまだ、バレてはいないはず。だからどうか、忘れてください。今のことは……何もなかった、そう思ってください。
そう、ひそかに祈っていると、ジュン姉は少し影のある笑顔を浮かべて言った。
「……うん。そう、だね」
あれ、どうしたんだろう。
そう思っていたら、何事もなかったようにジュン姉は元の笑顔に戻った。
「ほんと、ギョーザすっごく美味しいもんねー。いくらでも食べられちゃう! リュー君、本当にお料理上手だねっ!」
どうやら気づかれなかったようだ。
あー、ヒヤッとした。僕は唾を飲み込むと、謙遜して言った。
「そ、そんな……。僕、全然料理上手なんかじゃないよ。ただ冷凍のやつを焼いただけだし……」
するとジュン姉は身を乗り出して、さらに褒めてきた。
「ううん。そんなことない! だってこんなにこんがり焼けてるし! なのに皮も破れてないし! すごいよ! うん、やっぱリュー君はいいお嫁さんになれるねっ!」
「え、お嫁さん? ……って、それをいうなら『お婿さん』だろ! てか、ジュン姉はどうなのさ」
「え?」
「ジュン姉は料理の腕、とかってどうなの?」
「あ、そっち? あー、えーと……。まず、やったことがない……かな?」
そう言って、てへっと舌を出す。
「はあ。そうだった……たしかにそんなことしてるの僕一回も見たことない。バレンタインだって、たいていジュン姉のお母さんの手作りで……」
「そうそう。ちなみに洗濯とか掃除もぜーんぶお母さんだよ!」
「それは、自慢するとこじゃないよ。てか……うーん、ジュン姉がお嫁さんになったら、それだと困るんじゃない?」
そう言うと、ジュン姉は急に真顔になった。
「え……こ、困る? かな……?」
「うーん。その……相手にもよるけどね。まあ、僕は母さんが普段いないせいで、洗濯とか掃除もできるようになったけどさ。そうじゃない人もいるし。だから、その……ジュン姉は、僕みたいな旦那さんだったらいいんじゃないかな? うん。それなら安心だよ。ジュン姉はそのままで……大丈夫! ね!」
妙なことを口走ってしまった気がする。
言ってる途中で後悔していたが、勢いで最後まで言ってしまった。おそるおそるジュン姉を見ると、僕の言ったことに疑問を示すどころか大人しく聞き入り……というか、むしろ思いもよらない反応を返してきた。
「たしかに、そうだね。リュー君がわたしのお婿さんだったら……。ううん、わたしがリュー君のお嫁さんだったら、良かったのにね」
「え?」
今、なんて言ったのだろう。
嬉しすぎる言葉を聞いたような気がするけど。
「ジュン……姉?」
「ふふっ。なんか、こうして一緒にご飯食べてると、まるで新婚さんみたいだよね~!」
そう言って、さらにジュン姉はギョーザを口に運んでいく。
「…………」
ゆ、夢じゃないだろうか。
そんなのまるで、ジュン姉も僕のこと……好き、みたいな……。
僕は顔がどんどん熱くなっていくのがわかった。
やばい。ジュン姉の顔をもうまともに見られない。
僕は黙々と昼食を平らげると、ジュン姉の食器も一緒に下げて、すぐに流しで洗いはじめた。
食事の後片付けが終わると、僕らはリビングに移動してテレビゲームをしはじめる。ゲームをしている間はお互いを見ることもないし、余計な会話もしなくていい。
プレイしたのは、色つきの生首が上から落ちてきて、四つ同じのがくっつくと消える「落ち武者」というゲームだった。見た目は少々キモいが、連鎖で消える時のエフェクトがすごいので、つい爽快になって続けてしまう。
「よしっ、十五連鎖いったー!」
「あーっ、ひどいリュー君!」
十連鎖以上行くと、ずっと「おのれえええ!」しか言わなくなるのだが、その声をずっと聴いていたくなるのもまた、このゲームの醍醐味だった。
ジュン姉のプレイ画面にはすでに大量の人魂が降ってきている。あれは一緒に消さないといつまでも残る「邪魔魂」だ。
あっというまに夕方になり、ジュン姉は「そろそろ帰るねー」と腰をあげた。
台所のテーブルの上に置きっぱなしだった砂金を手に取り、つぶやく。
「あ、ねえねえ、リュー君」
「ん?」
「これさ、明日の朝までに身に着けられるような形に、してもらえないかな?」
「え?」
「常に持っておきたいなって思って。ね、出来ない? リュー君」
「身に着けるって……うーんと? ネックレスとかにする、ってこと?」
「うん、そういう感じ。どんな形でも……いいから。ね、お願いできないかな?」
突然の頼みごとに、僕は頭を抱えた。
そういう手芸的なことは全くやったことがなかったのだ。かといって、そういう高度なことをジュン姉が自分でできるとも思えない。僕はしぶしぶうなづいた。
「うーん……わかった。明日の朝ってずいぶん急だけど……なんとかやってみるよ」
「本当!」
「うん、すてきなアクセサリーにできるよう、頑張ってみる」
「うわー、やったあ! ありがとうリュー君!」
そう言いながら、がばりと抱きつかれる。
おおっと、やばい。胸が! ジュン姉ほんと胸でっかくなったよなあ……ここ数年ですくすくと……。
「じゃあ、よろしくね! バイバイ!」
至福の時はあっという間に過ぎ、ジュン姉はさっさと離れて帰っていってしまった。
あとに残されたのは、あのでかい砂金のみ……。
「さて、どうしようかな」
とりあえず使えそうなものがないか、僕は母さんの部屋を物色しにいくことにした。
しばらく行くと、青い屋根の二階建ての家が見えてくる。
そこが僕の自宅だ。
ちなみに、茶の木の低い生垣を隔てて、すぐ隣にある平屋がジュン姉の家である。
僕は自転車を庭先に停めると、「矢吹」と上に表札がかかった玄関の引き戸を開けた。
「ただいまー」
返事はない。
父さんとじいちゃんはすでに仏様になっているし、ばあちゃんも両親が結婚するとうの昔に亡くなっていた。
唯一生きている母さんは、仕事で毎日夕方まで帰ってこない。
靴を脱いで上がると、ジュン姉はいまだ玄関前で立ち止まっていた。
「あれ、ジュン姉どうしたの? お昼ご飯まだでしょ、一回家に戻って食べてくる?」
普段は僕は午後に帰ってくる。
だからいつも、昼食を食べ終わったあとのジュン姉とTVゲームをしていた。
休みの日とか、午前中から遊ぶ場合は、ジュン姉は一回自宅でお昼ご飯を食べてくる。今日はその日の動きに近かった。
ジュン姉は首を振ると、玄関を閉めて靴を脱ぎはじめる。
「ううん。戻らない」
「え? お腹すいてないの?」
「すいてる」
「え、じゃあ食べてくればいいじゃん」
「今は……帰りたくない」
「え?」
ジュン姉が靴をそろえながら言う。
「帰りたくない」
もう一度言った。
僕はその言葉に妙にドキリとしながら、
「あ、そう……」
としか言えなかった。
よくわからないけど親と喧嘩でもしたのだろうか。
ジュン姉の家はちゃんと両親がそろっている。たしかお父さんは薬剤師で、お母さんは専業主婦だ。
いつでも家にお母さんがいるというのはうらやましい。家事も掃除もしてくれて、手の込んだ料理もいつでも出してくれる。本当にうらやましい。
ジュン姉の家に一度お邪魔した時に食べた、あの煮込みハンバーグは特に絶品だった……。
とかなんとか思い出しつつ台所に移動すると、テーブルの上にメモがあった。
『適当に冷凍庫の中の物を食べてね。足りなければカップラーメンでも作って』
これである。
働いているからといって、うちの母さんは少々家事を手抜きし過ぎではないだろうか。
僕はメモをジュン姉に見せながら言った。
「こういう状況だからさ、たいしたものはないけど……良かったらジュン姉も一緒に食べる?」
「……うん」
ぐうう~~と、途端にジュン姉のお腹が鳴る。
ジュン姉は恥ずかしそうにつぶやいた。
「ご、ごめん……」
「あはは。すぐに作るから、そこに座ってて!」
「うん。リュー君、ありがと」
僕はさっそく、冷蔵庫の側面にかけられたエプロンを身につけ、流しで手を洗うと食事の準備を開始した。
ジュン姉は食卓について、僕をじっと眺めている……。見なくても、音とかでそれがなんとなくわかってしまう。
なんか、妙に緊張してきた。いつもなら一人で作って食べるだけだけど、誰かがいるとちゃんとしなきゃって気になる。
冷凍庫から、ラップで小分けされたご飯とギョーザを取り出す。
ご飯の塊を電子レンジにかけている間に、フライパンを準備する。ついでにちらっとジュン姉を振り返ると、やっぱりこっちを見ていた。
「え? あの……ちょっと……そんな見られると恥ずかしいんだけど」
「あ、ごめん」
ジュン姉はあわててそっぽを向き、持っていた砂金をじっくり観察しはじめた。
僕はそれを見て、ようやくコンロの火をつける。
そして数分後――。
「さ、できたよー」
僕は食卓の上にアツアツの餃子が載った大皿と、ご飯をよそった茶碗を並べた。それぞれの茶碗の前には小さな小皿とお箸を置くのも忘れない。
「じゃあ、さっそく食べようか」
「うん。ありがとリュー君! 美味しそー。じゃあ……いただきまーす!」
「いただきます」
テーブルの上にはすでに醤油さしとラー油が置いてあった。それを小皿に注ぎ、ぷりっとした餃子を浸して食べる。
……うーん、美味い!
見るとジュン姉も同じように幸せそうな顔をしていた。
「はー、とっても美味しー。幸せ……」
その顔を見ていると、つい僕の口からもぽろっと本音が漏れる。
「ああ、本当に。ずっと……こうしてたいな」
すると、ジュン姉がきょとんとして、こっちを見てきた。
「リュー君?」
「あ、いや。お、美味しいからずっとこれ食べてたいなーって、そ、そういう意味だよ。あははは……」
焦ったー。
僕のジュン姉に対する気持ちが、にじみ出てしまったんじゃないかと思った。
でも、きっとまだ、バレてはいないはず。だからどうか、忘れてください。今のことは……何もなかった、そう思ってください。
そう、ひそかに祈っていると、ジュン姉は少し影のある笑顔を浮かべて言った。
「……うん。そう、だね」
あれ、どうしたんだろう。
そう思っていたら、何事もなかったようにジュン姉は元の笑顔に戻った。
「ほんと、ギョーザすっごく美味しいもんねー。いくらでも食べられちゃう! リュー君、本当にお料理上手だねっ!」
どうやら気づかれなかったようだ。
あー、ヒヤッとした。僕は唾を飲み込むと、謙遜して言った。
「そ、そんな……。僕、全然料理上手なんかじゃないよ。ただ冷凍のやつを焼いただけだし……」
するとジュン姉は身を乗り出して、さらに褒めてきた。
「ううん。そんなことない! だってこんなにこんがり焼けてるし! なのに皮も破れてないし! すごいよ! うん、やっぱリュー君はいいお嫁さんになれるねっ!」
「え、お嫁さん? ……って、それをいうなら『お婿さん』だろ! てか、ジュン姉はどうなのさ」
「え?」
「ジュン姉は料理の腕、とかってどうなの?」
「あ、そっち? あー、えーと……。まず、やったことがない……かな?」
そう言って、てへっと舌を出す。
「はあ。そうだった……たしかにそんなことしてるの僕一回も見たことない。バレンタインだって、たいていジュン姉のお母さんの手作りで……」
「そうそう。ちなみに洗濯とか掃除もぜーんぶお母さんだよ!」
「それは、自慢するとこじゃないよ。てか……うーん、ジュン姉がお嫁さんになったら、それだと困るんじゃない?」
そう言うと、ジュン姉は急に真顔になった。
「え……こ、困る? かな……?」
「うーん。その……相手にもよるけどね。まあ、僕は母さんが普段いないせいで、洗濯とか掃除もできるようになったけどさ。そうじゃない人もいるし。だから、その……ジュン姉は、僕みたいな旦那さんだったらいいんじゃないかな? うん。それなら安心だよ。ジュン姉はそのままで……大丈夫! ね!」
妙なことを口走ってしまった気がする。
言ってる途中で後悔していたが、勢いで最後まで言ってしまった。おそるおそるジュン姉を見ると、僕の言ったことに疑問を示すどころか大人しく聞き入り……というか、むしろ思いもよらない反応を返してきた。
「たしかに、そうだね。リュー君がわたしのお婿さんだったら……。ううん、わたしがリュー君のお嫁さんだったら、良かったのにね」
「え?」
今、なんて言ったのだろう。
嬉しすぎる言葉を聞いたような気がするけど。
「ジュン……姉?」
「ふふっ。なんか、こうして一緒にご飯食べてると、まるで新婚さんみたいだよね~!」
そう言って、さらにジュン姉はギョーザを口に運んでいく。
「…………」
ゆ、夢じゃないだろうか。
そんなのまるで、ジュン姉も僕のこと……好き、みたいな……。
僕は顔がどんどん熱くなっていくのがわかった。
やばい。ジュン姉の顔をもうまともに見られない。
僕は黙々と昼食を平らげると、ジュン姉の食器も一緒に下げて、すぐに流しで洗いはじめた。
食事の後片付けが終わると、僕らはリビングに移動してテレビゲームをしはじめる。ゲームをしている間はお互いを見ることもないし、余計な会話もしなくていい。
プレイしたのは、色つきの生首が上から落ちてきて、四つ同じのがくっつくと消える「落ち武者」というゲームだった。見た目は少々キモいが、連鎖で消える時のエフェクトがすごいので、つい爽快になって続けてしまう。
「よしっ、十五連鎖いったー!」
「あーっ、ひどいリュー君!」
十連鎖以上行くと、ずっと「おのれえええ!」しか言わなくなるのだが、その声をずっと聴いていたくなるのもまた、このゲームの醍醐味だった。
ジュン姉のプレイ画面にはすでに大量の人魂が降ってきている。あれは一緒に消さないといつまでも残る「邪魔魂」だ。
あっというまに夕方になり、ジュン姉は「そろそろ帰るねー」と腰をあげた。
台所のテーブルの上に置きっぱなしだった砂金を手に取り、つぶやく。
「あ、ねえねえ、リュー君」
「ん?」
「これさ、明日の朝までに身に着けられるような形に、してもらえないかな?」
「え?」
「常に持っておきたいなって思って。ね、出来ない? リュー君」
「身に着けるって……うーんと? ネックレスとかにする、ってこと?」
「うん、そういう感じ。どんな形でも……いいから。ね、お願いできないかな?」
突然の頼みごとに、僕は頭を抱えた。
そういう手芸的なことは全くやったことがなかったのだ。かといって、そういう高度なことをジュン姉が自分でできるとも思えない。僕はしぶしぶうなづいた。
「うーん……わかった。明日の朝ってずいぶん急だけど……なんとかやってみるよ」
「本当!」
「うん、すてきなアクセサリーにできるよう、頑張ってみる」
「うわー、やったあ! ありがとうリュー君!」
そう言いながら、がばりと抱きつかれる。
おおっと、やばい。胸が! ジュン姉ほんと胸でっかくなったよなあ……ここ数年ですくすくと……。
「じゃあ、よろしくね! バイバイ!」
至福の時はあっという間に過ぎ、ジュン姉はさっさと離れて帰っていってしまった。
あとに残されたのは、あのでかい砂金のみ……。
「さて、どうしようかな」
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