僕らの村のコワガミサマ

津月あおい

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プロローグ 何気ない日々の終わり

2、ジュン姉と村を歩く

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 0401/11:40/ジュン姉/商店通り・住宅地


 足下ヶ浜沿いの道をまっすぐ北に行き、最初の角を右に曲がると「商店通り」に入る。
 なぜ「通り」なのかというと、もう商店「街」と呼べるほど店数がないからだ。

 実際には、スナック「山姥」、定食・居酒屋「海女」、村営の食料品店兼土産物屋「境雲マート」。
 この三軒だけしかない。
 あとはシャッターの下りた店舗が数軒ほど。

「ねえリュー君、お腹すかない?」

 境雲マートの前あたりまで来ると、ジュン姉が突然そんなことを言い出した。

「え? あ、そうだね。そろそろお昼だし……」
「ねえねえ、これでなんか美味しい物買ってってあげよーか?」

 これ、とは左手の中のでかい砂金のことだ。
 ジュン姉は得意そうに、それをこれでもかと見せつけてくる。

「い、いやいや、いくらなんでも現金の代わりに砂金って、それはないでしょ。須藤さんだって困るだろうし……」

 須藤さんというのは、境雲マートで毎日働いているレジのおばさんのことである。
 ちらと店内を覗くと、当の須藤さんは客らしき人と何か話をしているようだった。ジュン姉は不満げに言う。

「えー、でもこれ金なんでしょ? だったらお金みたいなもんじゃん」
「んんー」

 説明が面倒くさい。
 僕はジュン姉の手をとると、さっさとそこから離れることにした。
 商店通りを北に曲がり、住宅地に入る。

「急にどうしたの、リュー君」

 気が付くと、ジュン姉にそう問いかけられていた。

「あ、いや、どうしたっていうか……。あの、いい? それはお金の代わりにはならないよ。だからジュン姉が大切にとっておいて。ね?」

 そう言うと、ジュン姉はぷくーっと頬をふくらませた。

「んー、もうっ! せっかくリュー君にいいものごちそうしてあげようと思ったのにっ! もうもうっ!」

 肩を震わせて、涙目になってきている。
 ……やばい。
 僕はとっさにフォローを入れた。

「あ、あー、いや! ほら、使ったら、すぐなくなっちゃうじゃん? せっかくのレアアイテムなんだしさ、だからもう少し考えてからでも……いいんじゃないかな。ね?」

 しかし、ジュン姉の機嫌は直らず、さらに悲しそうな顔をされてしまった。

「か、考えたよ……」
「え?」
「考えたよ? レアだし、金だから。それでリュー君のために使えたらって思ったんだよ。でも、リュー君は……ううう……ぐすっ」

 僕のために。
 なんのためらいもなく。
 ジュン姉はこれを使いたいと言ってくれた。

 そのことに、僕は激しく感動していた。
 どうしてこう、ジュン姉はこんなにもまっすぐなんだろう。純粋すぎて、いつもまぶしすぎる。そんなジュン姉のことが、僕は……。

「ごめん、ジュン姉。でもその気持ちだけで充分、嬉しかったよ」
「本当?」
「うん。だから、それはぜひジュン姉の宝物にしていて。てか、そうしてほしい」
「わかった……。リュー君がそう言うなら、うん。これ、宝物にする!」

 そう言って、ジュン姉はまた無邪気な笑顔を見せてくれた。
 僕はそこでようやくホッとする。

 途中――。
 血まみれの男の死体が道端に転がっていた。

 でも、僕らはそれを気にせず通過した。きっとすぐにまた現れ、そして消えるだろうから。


 僕らは、自宅までの坂道をゆっくりと上っていった。
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