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その8
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「えっ? 何それ? 聞いてない」
彼女の意外な言葉に思わず戸惑う僕。
「だって言ってないもん♪」
驚いた顔をしている僕の方を彼女はそう言いながら振り向くと、歯を見せて笑った。
(なんなんだこれは?)
だから僕はこの状況を理解するのに数秒を要して、そして出た結論から若干不安気な表情で彼女に尋ねた。
急にこの小旅行の行く末が心配になって来たからだ。
「最初からそれが目的だったの? 誰かと待ち合わせでもしていた?」
「誰かって?」
僕は運転手に聞こえない様に配慮して小さな声で尋ねたのだけれど、どうにもめぐるさんはこういう所の神経が図太いというのか、正々堂々としているというのか、普通の声の大きさで僕の質問に質問で返して来る。
「誰かって…男とか…」
みみっちい男のみみっちい質問であるという事は自分でも良く分かっている。しかしそれでも彼女が予め行きたい場所を調べていて、それが僕がいない葬式の間に行く場所であるともなると、どうしても間男の影がチラホラリと浮かんでしまうのは、僕と彼女が釣り合っていないという事を僕自身が良く理解しているという事で、つまりはこんな事でも不安になってしまうのだ。
そして不安だからこそ彼女を試す様にこういう事を口にして尋ねる僕。彼女の口でその不安を払拭して貰いたいと願っているのだ。
「んー、どうだろうね。男性か女性かは分からないけれど、誰かはいるかもね。だって私が行きたいのは神社だから。面白でしょ。太郎君がお葬式に行っている間私は神社で待つの♪ 葬儀場の近くにいい神社があるの見つけちゃったんだ~」
「神社!?」
彼女の話に驚き思わず大きな声を出した僕は、タクシーの運転手とルームミラー越しで目が合った。
「そうだけど。どうしたの?」
僕が想像していた様な事など、全く何も考えてもいなかったかの様な顔でそう尋ねる彼女。
つまりは僕が考え過ぎなのか。
今の話からすると、彼女が僕に内緒で誰かと待ち合わせているという事はないらしい。なまじ付き合う人が必要以上に美人だと、変な妄想ばかりが湧き立っていけない。
僕は心の中で手を合わせると、彼女を疑った事を内心反省して謝罪した。
「どうしたのって、めぐるさん神社とか好きだったっけ?」
しかしそんな僕の心とは別に、僕の口は何事もなかったかの様に平静な口を利く。
「あはははは♪」
それに対して突然のめぐるさんの大きな笑い声。
驚いた運転手が今度はルームミラー越しにめぐるさんの方を見ているのに気付くと、僕は少し恥ずかしい気持ちになった。
「全然興味なんてないんだけれどね。何故だろ? 太郎君がお葬式で実家に帰るって私に初めて言った時、何故か頭に神社が浮かんだの」
「神社?」
一体何の話だろう。僕には彼女の話が皆目理解出来なかった。何故ならば例え頭に急に『神社』の二文字が浮かんだとしても、僕ならばそれでおしまいの話だからだ。そんな頭に何かが浮かぶなんて事は結構日常茶飯事で、いちいち気にする方が珍しい。
「そう。それでね、家に帰って来てから調べて見たんだ。太郎君が言っていた実家のある町の葬儀場の周辺。そしたらね、あるじゃない神社。しかもその神社『巡雪神社』って言うんだよ。私と同じめぐるが名前に入っているの♪」
「へー」
これは驚いた。僕はその神社を知らなかった。
「そうしたら俄然興味が湧くじゃない。どんな神社なんだろうって。それに元々太郎君の生まれ育った町にも興味はあったし。だからね、付いて行く事に決めたの」
「あ、あはははは。そうなんだ」
先程のめぐるさんの豪快な笑い声とは対照的に僕は少し儚げに笑った。
確かに珍しい事なのかも知れないけれど、それは僕的には『なーんだ、そんな事か』といった展開だった。
そしてタクシーはこんな他愛もない話をしている間にも、僕の実家の側まで来ていた。
僕は慌てて近くのコンビニでタクシーを停めて貰う。此処から実家までなら駆け足で三分程だろうか。
僕らはお金を払うとタクシーを降りた。
それから彼女には「直ぐ戻るからコンビニの中ででも待っていて」と言い、僕は走り出す。
あまりめぐるさんを待たせない様に、早く戻って来ようと思ったからだ。
つづく
彼女の意外な言葉に思わず戸惑う僕。
「だって言ってないもん♪」
驚いた顔をしている僕の方を彼女はそう言いながら振り向くと、歯を見せて笑った。
(なんなんだこれは?)
だから僕はこの状況を理解するのに数秒を要して、そして出た結論から若干不安気な表情で彼女に尋ねた。
急にこの小旅行の行く末が心配になって来たからだ。
「最初からそれが目的だったの? 誰かと待ち合わせでもしていた?」
「誰かって?」
僕は運転手に聞こえない様に配慮して小さな声で尋ねたのだけれど、どうにもめぐるさんはこういう所の神経が図太いというのか、正々堂々としているというのか、普通の声の大きさで僕の質問に質問で返して来る。
「誰かって…男とか…」
みみっちい男のみみっちい質問であるという事は自分でも良く分かっている。しかしそれでも彼女が予め行きたい場所を調べていて、それが僕がいない葬式の間に行く場所であるともなると、どうしても間男の影がチラホラリと浮かんでしまうのは、僕と彼女が釣り合っていないという事を僕自身が良く理解しているという事で、つまりはこんな事でも不安になってしまうのだ。
そして不安だからこそ彼女を試す様にこういう事を口にして尋ねる僕。彼女の口でその不安を払拭して貰いたいと願っているのだ。
「んー、どうだろうね。男性か女性かは分からないけれど、誰かはいるかもね。だって私が行きたいのは神社だから。面白でしょ。太郎君がお葬式に行っている間私は神社で待つの♪ 葬儀場の近くにいい神社があるの見つけちゃったんだ~」
「神社!?」
彼女の話に驚き思わず大きな声を出した僕は、タクシーの運転手とルームミラー越しで目が合った。
「そうだけど。どうしたの?」
僕が想像していた様な事など、全く何も考えてもいなかったかの様な顔でそう尋ねる彼女。
つまりは僕が考え過ぎなのか。
今の話からすると、彼女が僕に内緒で誰かと待ち合わせているという事はないらしい。なまじ付き合う人が必要以上に美人だと、変な妄想ばかりが湧き立っていけない。
僕は心の中で手を合わせると、彼女を疑った事を内心反省して謝罪した。
「どうしたのって、めぐるさん神社とか好きだったっけ?」
しかしそんな僕の心とは別に、僕の口は何事もなかったかの様に平静な口を利く。
「あはははは♪」
それに対して突然のめぐるさんの大きな笑い声。
驚いた運転手が今度はルームミラー越しにめぐるさんの方を見ているのに気付くと、僕は少し恥ずかしい気持ちになった。
「全然興味なんてないんだけれどね。何故だろ? 太郎君がお葬式で実家に帰るって私に初めて言った時、何故か頭に神社が浮かんだの」
「神社?」
一体何の話だろう。僕には彼女の話が皆目理解出来なかった。何故ならば例え頭に急に『神社』の二文字が浮かんだとしても、僕ならばそれでおしまいの話だからだ。そんな頭に何かが浮かぶなんて事は結構日常茶飯事で、いちいち気にする方が珍しい。
「そう。それでね、家に帰って来てから調べて見たんだ。太郎君が言っていた実家のある町の葬儀場の周辺。そしたらね、あるじゃない神社。しかもその神社『巡雪神社』って言うんだよ。私と同じめぐるが名前に入っているの♪」
「へー」
これは驚いた。僕はその神社を知らなかった。
「そうしたら俄然興味が湧くじゃない。どんな神社なんだろうって。それに元々太郎君の生まれ育った町にも興味はあったし。だからね、付いて行く事に決めたの」
「あ、あはははは。そうなんだ」
先程のめぐるさんの豪快な笑い声とは対照的に僕は少し儚げに笑った。
確かに珍しい事なのかも知れないけれど、それは僕的には『なーんだ、そんな事か』といった展開だった。
そしてタクシーはこんな他愛もない話をしている間にも、僕の実家の側まで来ていた。
僕は慌てて近くのコンビニでタクシーを停めて貰う。此処から実家までなら駆け足で三分程だろうか。
僕らはお金を払うとタクシーを降りた。
それから彼女には「直ぐ戻るからコンビニの中ででも待っていて」と言い、僕は走り出す。
あまりめぐるさんを待たせない様に、早く戻って来ようと思ったからだ。
つづく
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