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その7
しおりを挟むそんな訳でめぐるさんより先に改札を抜けた僕は、これまた見慣れた正面の、如何にも田舎の小さなロータリーの前に立った。見る限りタクシーは何処にも止まっていない。
「お家に行くんでしょ」
遅れて来た彼女の声が僕の直ぐ横、耳元から聞こえて来る。
「うん、喪服に着替えなくちゃいけないからね」
僕は喪服を持っていなかったので、実家で父親のを借りるつもりでいたのだ。
「じゃあ太郎くん家ちが見れるね~楽しみ楽しみ♪」
「見るのはいいけど。中に入ったり、ウチの親に会うのはなしね」
「え~、なんで~」
全く、こういう時の女性心理というものは良く分からない。
まだ付き合い始めて一ヶ月ちょっと、日が浅い訳だからお互いの事も良く分かっていない関係で、結婚するかどうかも分からないのに、相手の親に会いたいとか普通思うものだろうか?
めぐるさんは唇を尖がらせて、悲し気な表情で僕の方を見ているが、こればかりはそんな態度にも負ける訳にはいかない。間違いなく今日家にいるはずの母親に、僕もめぐるさんも好奇な目で見られるなんて事は、死んでも嫌なくらい恥ずかしい事なのだ。
「めぐるさんが母親に会うと、きっと色々聞かれて面倒臭いだろ。だから家の近くの何処か外で待っていてよ。直ぐ迎えに行くからさ」
「えー、大丈夫だよ。私は面倒臭くないよ。寧ろ太郎君のお母さんに会ってみたいし」
「なっ!?」
だから何故そうなるか。
普通に考えたら付き合っている相手の親に会うなんて事は絶対に嫌だろ? 僕は嫌だ。
大体僕は自分の母親とめぐるさんが話しているのを想像するだけでもなんか凄く嫌なのに。
これは僕が重く考えすぎなのか。それともめぐるさんが軽く考えすぎなのか。
兎に角僕はこの件を、丁寧にお願いしながら、丁重にお断りしたのだった。
「えー、何で~、折角太郎君の実家まで来たのに…」
それでもまだ納得が行かない様子の彼女は、残念そうに少し拗ねて見せる。それはちょっと可愛くて、その姿にタクシーを待つ僕は思わず彼女に余計な事を口走ってしまった。
「ごめんね。帰ったら、何か買ってあげるよ。洋服か何か」
「やった~♪」
その瞬間俄然元気になった彼女の声。
僕はもしかして嵌められたのか? という疑問が思わず脳裏を掠める。
そしてそんな風に今後のスケジュール等を話している間に、平日だったからだろうか、なかなか姿を見せなかったタクシーもようやく駅前のロータリーに入って来て、僕らの前で止まった。
僕の実家までは此処から車で十五分程。
葬儀場はその僕の実家のある住宅街の外れの方にあるので、こちらは歩いて十五分ほどだろうか。
めぐるさんと話しながら歩いて向かうには丁度良い位いの時間だ。
そんな事を考えながら僕はタクシーの開いたドアに、レディファーストでめぐるさんを乗せながらフッとある事に気が付いた。
彼女の服装だ。
めぐるさんは良く見ると晩夏とはいえまだ暑いこの季節に、比較的地味な濃い紺色のワンピースに黒のパンプスという装いだった。
何故今まで気付かなかったのか。
僕はタクシーに乗り込むと行き先を告げ、動き出すのを確認してから、運転手には聞こえない様に小さな声で彼女に尋ねた。
「もしかして、葬式にも出るつもりだった?」
「だとしたらどうする?」
今頃気付いたのかと言わんばかりにニヤニヤしながら話す彼女。
「いや、それは別に構わないけれど。めぐるさんを昔の友達とかに会わせる事自体はそれ程抵抗ないし。それにめぐるさん美人だから、ちょっと自慢な気分もあるかな」
彼女の質問にここは僕も少しニヤニヤしながら、正直に話した。
するとその答えには案の定嬉しそうな顔をする彼女。
しかしその笑顔の表情から発せられた次の言葉は、僕には意外なものだった。
「ありがとう。でもごめんね。太郎君がお葬式に行っている間に、私も行きたい所があるの。調べて来たんだぁ」
つづく
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