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その6
しおりを挟むめぐるさんは最初から確かに変った人だった。
サークルの最初の顔合わせでも、彼女は自分から率先して僕に自己紹介して来たし、その後の飲み会でも「私ここ~♪」等と言って僕の隣の席に座って来た。お陰でその日は数人の男の先輩には何やら白い目で見られた事を覚えている。
「何処かで前に会いましたっけ?」
だからそんな感じで彼女があまりにも僕の側にいる事が多かったので、ある夏の日、僕は偶然校舎の外で一人きりの彼女を見かけた時、そう尋ねてみたのだ。
まーその頃には、もしかすると彼女は僕の事を好きなのかも知れないな~等という思わず顔がニヤけてしまう様な想像も相当脳裏に浮かんでいた訳で、実は以前何処かで会っていて、その時から僕の事を好きだったのではとか、そんな勝手な空想なんかもしたりしていた。但し、だとしたら僕にそんな記憶が全くないというのも変な話ではあるのだけれど。
そして彼女の答えは次の様なものだった。
「会った事はないよ。多分この大学に入ってから初めて会ったんだと思う。でもね太郎君。私は君をずっと待っていたのかも知れない。どーする? 私と付き合いたい?」
それは何とも意味不明な台詞だが、はっきりと分かるのは彼女が僕に逆告白をして来たという事だ。
逆上せ上がった僕は暫くその場で放心状態。彼女の前に立ち尽くす一本の棒の様だったと思う。
そんな僕を彼女の美しい顔がキョトンとした表情で見つめている。
正直その時の僕は、歳の差(とは言ってもたかが一歳差)やサークルの男子の先輩の事とかは一切障害とは感じなかった。ただ頭にはあったのはこんな美人と自分が付き合えるのか! っといった喜びだけだった。
だから僕は正気を取り戻すと、その時は彼女の言葉の不可解さや何故僕なのか? といった疑問等一切考えずに、ただチャンスとばかりに口を開いたのだ。
「そりゃあ、付き合えるものなら…」
こうして僕らは付き合う事になった。
話は戻って駅の階段。
満面の笑みで「私意地悪なんだよ」と言った彼女に、僕は「ふーん」と返すと、立ち止まっている彼女の前を横切って、改札へと向かって更に階段を下りて行く。
そんな僕の薄い反応に慌てて彼女も僕の側へと向かい階段をまた下り始めた。
「あーん、待ってよ~! 折角格好良く決めたのに~」
その声を聞いて、僕はちょっとばかり鼻で笑った。
全く、彼女の話は何処まで意味があるのか分からない。
全てにはちゃんと意味があるのかも知れないし、またその逆に、全て気分で何ともなく言っているのかも知れない。
ま、確かに、そういう意味でも意地悪な彼女だ。
実は僕を翻弄させて遊んでいるだけなのかも知れない。
そんな事を考えながらも階段を下り終え、改札を彼女より先に抜ける僕の顔は頬が緩み笑顔になっている。そんなものなのだ。そしてこういうのが恋愛かも知れないなぁ等と単純に思ってしまうのだ。
僕は改札を抜けると微笑んだ顔で振り返り、後から来る彼女の方を眺めた。
先に改札をゴールした僕の微笑がさぞ悔しいのか、彼女は真紅の口紅が目立つ唇を尖がらせ、僕の事を睨みながら改札を通過している所だった。
つづく
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