めぐるゆき

孤独堂

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その5

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「本当にただの幼馴染だから。それにそんなに話した事ないし」

「そうなの?」

 ホームから改札へと向かう為、僕らは階段を上り線路の上を通る通路へと向かっていた。

「ああ、小六に一度同じ班になったけれど、その後はまともに話した事もないんじゃないかなぁ」

「へー、そうなんだ」

「何? もしかして心配でもしてたの?」

 彼女の声のトーンが軽くなった様な気がしたので、僕も少し微笑みながら茶化す。

「へへ、心配っていうかね。気になった」

 そのちょっと恥ずかしそうな声に、僕は一段遅れて階段を上る彼女を振り返り眺めた。
 僕の視線に気付き、恥ずかしそうに目を逸らす彼女。

(うおー! なんだよ! リア充じゃないか! むっちゃくちゃ可愛いじゃないかー!)

 その表情に僕の方が心臓が高鳴り、更に顔も熱くなって来たので慌てて前を向き直しす。

「だ、大丈夫だよ。大体もうその子、死んじゃっているんだから」

 やばい。まだドキドキしていて思わずどもってしまう。

「お葬式だもんね。でも死んじゃったその子の気持ちはどうだったんだろう。その子は太郎君の事をどう思っていたんだろう」

「えっ?」

 それは丁度階段から通路へと足を掛けた時だった。
 思わぬ言葉に立ち止まり、再び振り返る僕の横を、今はもうすまし顔のめぐるさんが通り過ぎて行った。

「それは…それは僕に分から訳ないよ」

「そうだね」

 僕の前を歩く彼女に慌てて追いつきながら僕はそう言って彼女の横に並ぶ。
 彼女は何やら満足そうな顔をしている。
 だから僕はそんな彼女の顔を覗き込みながら「何?」と尋ねた。

「何って。さっきも言ったけれど、気になったの。たいして親しくなかったのならば、遠く東京の大学に行っている太郎君までそんな連絡は来ないでしょ。それに小学校の同級生だったというだけで、今時お葬式なんて行くかなぁ」

「それは呼ばれたからで」

 言い訳しているつもりはないし、正々堂々としているつもりなのだが、何故か彼女の疑問に妙に胸が騒ぐ僕。

「呼ばれたって言うか、知らせが入ったんでしょ。だったら無理して行く必要はない訳で。それにわざわざ連絡してくれた友達は、その子の死を太郎君に伝えなきゃって思っていた訳でしょう。それもなんか引っ掛かるんだよね」

「それはもしかしたら、かつての同級生全員に連絡をしたのかも知れないよ。僕は溝口ゆきちゃんが死んだという事と、告別式の日程だけそいつから電話で教わっただけだから。それに僕が行くのは、同い年の同級生って事はまだまだ若かった訳だろ。それが死んじゃったってのは何か可哀想じゃないか。だからなるべく葬式には多くの人が参列してあげた方が、彼女も喜ぶんじゃないかっていう思いからで」

「ふーん、太郎君優しいね。でも私はまだ何か引っ掛かるのよね。だから付いて来たというのもあるんだけれど」

 そう言うめぐるさんの目は、どうにも僕を疑っている様な目付きで、僕の胸のザワザワはまだ消えなかった。

「なにそれ、めぐるさん焼き餅。大丈夫だよ。本当に何も関係はなかったし、それに死んだ人の事じゃないか」

「そうだけど。太郎君にその気がなくて、死んだ人かも知れないけれど。でも、彼女の、そのゆきちゃんの気持ちはどうだったんだろうって、そのことについて考えると何か気になるの」

 いつの間にか僕らは話に夢中になっていて、フッと気付くと通路を渡り終わり、改札口へと向かう階段を下りて行く途中だった。
 気になるのと言った彼女は小走りに階段を下り始め、またも僕の前へと出る。

「そんな事考えたってしょうがないよ。人が何を考えていたかなんて分からない上に、既に死んでるんだよ。焼き餅ならちょっと嬉しいけれど、でもちょっと意地悪だな~そんな死んだ子の気持ちを考えろだなんて」

 僕がそう言った時だった。
 前を歩き出しためぐるさんが突然立ち止まり振り返る。
 だから慌てた僕は、両手にデイパックとトートバッグを持っていたので、一瞬バランスを崩しそうになりながらも立ち止まった。

「あれ? 太郎君知らなかった。そうなの、私意地悪なんだよ」

 お互いに階段の高低差の中で立ち止まり、そして僕らの視線が合った瞬間、彼女は満面の笑みでそう言った。





            つづく
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