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その2
しおりを挟む暫くは僕をからかったり、じゃれついたりして過ごしていた彼女も、あまりにも呑気な田舎の空気を吸い過ぎたのだろうか、いつの間にか眠り込む。
ローカル線の電車の車窓がいつまで経っても田んぼばかりなのも、見飽きてしまって退屈だったのだろう。
確かに車内を埋め尽くす飽和状態ののどかな空気は、僕にも軽い欠伸を起こさせた。
夏の終わり、秋へと向かう季節。
空気は暑くも冷たくもない。
僕の左肩に先程から当たる彼女の右肩も暑苦しさを感じさせず、寧ろ程良く隣に人がいるという安心感を僕に与えていた。
だからだろうか、僕までもがウトウトとし始める。
重くなっていく瞼。薄目で最後に見た彼女の寝顔は、普段の美人顔からは想像もつかない様な、愛らしい可愛い寝顔だった。
ガタンッ ゴトンッ
ガタンッ ゴトンッ
そして走り続ける電車の音と、お尻の方から伝わって来るゆりかごの様な振動の中、僕は当たり前の様にこれから会いに行く幼き日の女友達、溝口ゆきとの思い出を、目を瞑り思い返していた。
彼女とは小学校五・六年の時が一緒のクラスだった。
しかしそれだけでは思い出に残る様な親しげな関係にはならない。
だから実際に彼女との思い出があるのは六年の三学期、最後の席替えで同じ班になってからの三ヶ月程の事だ。
僕らの班は頭一つ飛び出した様な人もいなく、どちらかというと穏やかな平和主義者の集まりの様な班だったので、男子も女子もお互いに優しくし合い、性別関係なしで遊んだりも出来る楽しい班だった。
この頃の年齢だと大概が男子と女子に分かれていて、あまりお互いに仲の良くない班が多かった気がするので、今思うとこれは結構珍しいケースだったのかも知れない。
そんな訳で僕らは週末の朝ともなると、良くこの班のグループで駅前に集合しては、三つほど先にある大きな街へと電車で出かけて行った。
ボーリングに映画、それからゲームセンター。
お昼はファーストフードでハンバーガーをパクつく。
今思い返すとそれらは多分、男子だけだったならばそれ程楽しくもなかったのかも知れない。
やはり女子がいる事で華やかな気持ちにもなれていたのだろう。
アーケードの商店街を彼女達と手を繋ぎ颯爽と駆け抜ける。
その中で男子の短パンやジーパンではなくスカートが風に乗ってたなびくのだ。
今思い返しても胸弾む思い出だ。いや、あの頃はそうは思っていなかった。今だからこそ綺羅星の如く輝く思い出なのか。
そしてその中にとりわけ活発で良く喋る女の子、溝口ゆきはいたのだ。
当時の彼女の顔は今でも思い出せる。
トレードマークの様なおさげの髪、大きな瞳。
なんといったって僕は、これ以上ないくらいの至近距離で彼女の顔を見たのだから。
あれは彼女の家のベッドの上。
みんなで映画を観に行って来た日の帰り、班の他の連中は何かの理由でみんな、彼女の部屋から下の階へと下りて行った時の事だ。
だからほんの僅かな時間。
「ねえ太郎君、キスしてみようか?」
その日観に行った映画には確かにキスシーンがあったのだから、その影響からなのかもしれないのだけれど、彼女は、ゆきちゃんはそう僕に言い終わらないうちに、もう既に僕の口の側にまで自分の唇を持って来ていた。
そして、した。
それは不思議な感触だった。柔らかい果実の様でもあるのだけれど、味も余韻も僕には残らなかった。
あれが僕にとってのファーストキスで、そして今思い返せば多分、ゆきちゃんにとっても初めてのキスだったのだろう…
つづく
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