57 / 60
第五十七話 本当は…
しおりを挟む
コトッ
緊張した舞が、少し音を立てながら渡辺と光男の前にお茶を置いた。
「ありがとう」
渡辺は舞の方は見ずに、光男の目を見たままそう言った。
リビングの真ん中にあるテーブルに、渡辺と光男は向かい合わせに座っていた。
警備員は外に待たせていた。
お茶を置いた舞の戻った先、カウンター奥の台所の所に美冬と安藤もいた。
三人はそこで聞き耳を立てていた。
「今の娘は?」
光男が尋ねた。
「娘さんの、美冬ちゃんの友達です。心配して来てくれている」
「そうか」
光男は渡辺の言葉に頷いて言い、美冬達のいる方を少し眺めた。
「それで」
「ん?」
渡辺の言葉に光男は再び渡辺の方に視線を戻した。
「それで、奥さんとは離婚する事にしたんですか?」
渡辺は単刀直入に尋ねた。
「ふん、あなたらしい。ズバッと聞いてくる。私はね、渡辺さん。このままあの家で暮らせばいずれ娘は死ぬ。自殺すると言われ、色々考えた。確かに妻は私と二人だけの生活を望んでいる。娘に嫉妬している。普通じゃない。しかし好きで結婚した女だ。美冬の母親だ。やはり私は愛している。別れないよ」
渡辺は無表情のまま光男の話を聞き、そして口を開いた。
「では、娘さんを渡せない」
「マンションを借りた」
渡辺の言葉に光男は即座に反応した。
「家の側のマンションに部屋を借りた。手続きも済ませた。美冬はそこから学校に通う。今高二だ。あと一年とちょっともすれば卒業だ。そうなれば好きにすればいい。娘の自由だ。進学しようが就職しようが、好きにすればいい。これなら、ここで暮らす事と変わらない。問題ないだろ」
「なるほど」
渡辺は光男の話に少し感心した様にそう言った。
「渡辺さん。私はあなたを知っているつもりだ。あなた、崩壊寸前のウチを助けるつもりでこんな事をしたんだろ。ありがとう。でももうこれでいいだろう。マンションの一人暮らしだ。君たちも遊びに来てくれていいんだよ」
光男は話しの途中から、舞と安藤の方を見て声をかけた。
「ありが、とう…ですか」
光男の話を聞いた渡辺は、途中から下を向き笑いながらそう言った。
「何がおかしい」
それに気付いた光男は再び渡辺の方を見て言う。
「ア、ハハ、ハ、それはおかしいですよ。瀬川さん、あなたは勘違いをしている」
「勘違い?」
「私はこの前、嘘を付きました。本当はもう何年も前からあの家を見に行っていました」
「家を? 偶然じゃないのか?」
光男の顔が驚きの表情へと変わった。
「あの家の所為でウチは離婚。俺の人生は狂っちまった。あの家がどれ程憎いか。分りますか?」
「憎い?」
「そう、その憎い家をあんたが買って、住み始めた。奥さんと娘と。ウチと同じ家族構成だ。かたや離婚して辛い思いをしているのに。あんた達は俺には順風満帆な幸せそうな家族に見えた。どれ程憎たらしいか分りますか? 俺はこの家庭も、俺と同じ様にバラバラに崩壊してしまえばいいと思っていた。そういう気持ちであの家を何度となく見に行っていたんですよ」
「そんな…」
光男は唖然とした。
美冬と舞、それから安藤にとってもそれは、衝撃的な話だった。
「そんな時、娘さんが灯油を家にかけているのを見かけた。そしてあんた達と関わりを持った。笑っちゃったよ。既にこの家庭は壊れてた。ちっ、もう少しで離婚させて同じ思いをさせられたんだがな…もういいよ。連れて帰っていいよ! 遊びは終わりだ!」
つづく
緊張した舞が、少し音を立てながら渡辺と光男の前にお茶を置いた。
「ありがとう」
渡辺は舞の方は見ずに、光男の目を見たままそう言った。
リビングの真ん中にあるテーブルに、渡辺と光男は向かい合わせに座っていた。
警備員は外に待たせていた。
お茶を置いた舞の戻った先、カウンター奥の台所の所に美冬と安藤もいた。
三人はそこで聞き耳を立てていた。
「今の娘は?」
光男が尋ねた。
「娘さんの、美冬ちゃんの友達です。心配して来てくれている」
「そうか」
光男は渡辺の言葉に頷いて言い、美冬達のいる方を少し眺めた。
「それで」
「ん?」
渡辺の言葉に光男は再び渡辺の方に視線を戻した。
「それで、奥さんとは離婚する事にしたんですか?」
渡辺は単刀直入に尋ねた。
「ふん、あなたらしい。ズバッと聞いてくる。私はね、渡辺さん。このままあの家で暮らせばいずれ娘は死ぬ。自殺すると言われ、色々考えた。確かに妻は私と二人だけの生活を望んでいる。娘に嫉妬している。普通じゃない。しかし好きで結婚した女だ。美冬の母親だ。やはり私は愛している。別れないよ」
渡辺は無表情のまま光男の話を聞き、そして口を開いた。
「では、娘さんを渡せない」
「マンションを借りた」
渡辺の言葉に光男は即座に反応した。
「家の側のマンションに部屋を借りた。手続きも済ませた。美冬はそこから学校に通う。今高二だ。あと一年とちょっともすれば卒業だ。そうなれば好きにすればいい。娘の自由だ。進学しようが就職しようが、好きにすればいい。これなら、ここで暮らす事と変わらない。問題ないだろ」
「なるほど」
渡辺は光男の話に少し感心した様にそう言った。
「渡辺さん。私はあなたを知っているつもりだ。あなた、崩壊寸前のウチを助けるつもりでこんな事をしたんだろ。ありがとう。でももうこれでいいだろう。マンションの一人暮らしだ。君たちも遊びに来てくれていいんだよ」
光男は話しの途中から、舞と安藤の方を見て声をかけた。
「ありが、とう…ですか」
光男の話を聞いた渡辺は、途中から下を向き笑いながらそう言った。
「何がおかしい」
それに気付いた光男は再び渡辺の方を見て言う。
「ア、ハハ、ハ、それはおかしいですよ。瀬川さん、あなたは勘違いをしている」
「勘違い?」
「私はこの前、嘘を付きました。本当はもう何年も前からあの家を見に行っていました」
「家を? 偶然じゃないのか?」
光男の顔が驚きの表情へと変わった。
「あの家の所為でウチは離婚。俺の人生は狂っちまった。あの家がどれ程憎いか。分りますか?」
「憎い?」
「そう、その憎い家をあんたが買って、住み始めた。奥さんと娘と。ウチと同じ家族構成だ。かたや離婚して辛い思いをしているのに。あんた達は俺には順風満帆な幸せそうな家族に見えた。どれ程憎たらしいか分りますか? 俺はこの家庭も、俺と同じ様にバラバラに崩壊してしまえばいいと思っていた。そういう気持ちであの家を何度となく見に行っていたんですよ」
「そんな…」
光男は唖然とした。
美冬と舞、それから安藤にとってもそれは、衝撃的な話だった。
「そんな時、娘さんが灯油を家にかけているのを見かけた。そしてあんた達と関わりを持った。笑っちゃったよ。既にこの家庭は壊れてた。ちっ、もう少しで離婚させて同じ思いをさせられたんだがな…もういいよ。連れて帰っていいよ! 遊びは終わりだ!」
つづく
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します
との
恋愛
「記憶がない?」
「ああ、君が誰なのか分からないんだ」
そんな大ボラを吹いて目を逸らした夫は、領地を持っていない男爵家の嫡男。教師をしているが生活できるほどの給料が稼げず、王宮勤めの父親の稼ぎで暮らしていた。
平民としてはかなり裕福な家の一人娘メリッサに結婚を申し込んできたのはもちろんお金が目当てだが、メリッサにもこの結婚を受け入れる目的が⋯⋯。
メリッサにだけはとことんヘタレになるケニスと父親の全面協力の元、ろくでなしの夫の秘密を暴いて離婚します。
「マーサおばさまが睨むって、ケニスったら何かしでかしたの?」
「しでかさなかったから怒ってる」
「へ?」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結確約。
R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる