何処へいこう

孤独堂

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第五十二話 夜の公園

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「助けたかっただけだ。あの娘を、あの家から少しでも早く引き離したかった」

 渡辺は言った。

「それは分るけど」

 そう言いながら安藤はそれだけでは納得がいかないといった顔で、渡辺を見ていた。

「まあいい。直ぐ側に公園がある。時間もある。まず、コンビニで買い物をしよう。俺はタバコと、コーヒーが飲みたい。安藤君は? コーヒーでいいかい?」

 渡辺はそう言いながら安藤を手招きすると、コンビニの扉に手を掛けた。


 十分後、二人は近くの公園のベンチにいた。
 渡辺は左手に缶コーヒーを持ち、右手ではタバコを吸っていた。

「来週の水曜から仕事なんだ。前いたハウスメーカーの営業辞めて、今度は基礎屋で働く」

「そうですか」

 安藤は渡辺に買って貰った缶コーヒーに口を付けながら言った。

「丁度、美冬ちゃんのゲームのタイムリミットの日だ」

「あー、そう言えば」

「俺にも美冬ちゃんにも、時間がないと思った」

「はい」

「これ以上長く彼女をあの家には置けないと、彼女の父親に会って思った。今すぐにでも助け出してあげたいと、本気で思った」

「わかるけど…」

「それだけじゃないと思うんだろ?」

 そう言うと少し微笑みながら渡辺は安藤の方を見た。
 吸っていたタバコは地面に落として足で揉み消す。

「思い出が欲しかった」

 揉み消したタバコを拾い上げ、手に持ちながら渡辺は言う。

「思い出?」

 安藤は繰り返した。

「そうだ。仕事が始まると、君達共そうそう会えなくなる。時間がなかった」

 安藤はコーヒーを飲むのを止め、黙って聞いていた。

「彼女を、美冬ちゃんを救い出し、仕事が始まる前に思い出を作りたいと思った。それに丁度明日は土曜だ」

「あっ」 

 安藤が突然小さく声を上げた。

「わかった?」

 渡辺が尋ねる。

「そういう事ですか」

 安藤の言葉を聞いて渡辺は微笑みながら話出す。

「佐々木さんは、今日明日と泊まる。君も明日また来るといい。まだ彼女達には言っていないが、明日はドライブに連れて行こうと思ってる。君も行くだろ」

「思い出づくり」

「そうだ」

「でも仕事が始まったからといって、丸っきり会えない訳じゃないですよね」

 少し心配そうな顔で安藤が尋ねた。

「会えなくはないが。時間が合わなくなるだろう。思い通りには会えないかも知れない。そのうち疎遠になっていくかも知れない。そもそも君達には同い年の子達と過ごす時間もある。俺なんかの事は直ぐ忘れてしまうかも知れない」

「そんな、会いに行きますよ。みんなで」

「ありがとう。でも君達は高校生だ。高校の付き合いが第一だ。こんな社会人の中年親父の事は、やはり後回しでいい。そうやってみんな、元の生活に戻って行った方がいいんだ」

 そう言うと渡辺はベンチから立ち上がり、安藤の方を振り返った。

「明日は那須に行こう。きっと楽しい一日になる」

 笑顔でそう言う渡辺を見ていた安藤の顔は、どこか寂し気だった。





つづく


 
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