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第四十四話 生きていてもいいですか?
しおりを挟む「それは、どういう事ですか?」
舞は渡辺の言葉を遮るように尋ねた。
「ああ、まぁみんなもお腹が空いただろう。食べながら話そうじゃないか。これ、紙コップで悪いんだけど」
しかし渡辺はそう言うと自分の側に置いてあった紙コップと紙のお皿を立ち上がり、みんなに配り始めた。
そして、ペットボトルのジュースを隣の美冬の紙コップへと注ぐ。
「おじさん、あとは私やるから」
その様子に意に介したのか美冬は渡辺の手からペットボトルを奪い取ると、渡辺のコップ、隣の舞のコップ、最後には安藤のコップへとジュースを注いだ。
舞はその様子をキョトンとした顔で見ていたが、美冬がペットボトルを取る時に、軽く渡辺の手に触れたのは見逃していなかった。
「悪いね。それじゃあみんな、遠慮しないで食べて。残すと捨てる様になってしまうから。それは勿体無い」
全体をグルッと見回すと、そう笑顔で話す渡辺。
「じゃあ遠慮なく、頂きます」
安藤はそう言うと最初に箸を取った。
それからは各々好きな物を、紙の皿に取っては食べ始める。
渡辺は暫くは満足気にその様子を眺めていた。そしてそれから静かに話し始めた。
「実は八月生まれなのに、何故美冬ちゃんなのかという謎が解明したんだ」
「えっ、ホントですか?」
安藤が思わずお寿司を食べながら声を出す。
「ああ、だからもう美冬ちゃんは自殺する必要はない。助けられる。『死にたがりクラブ』も解散出来る」
「何だったんですか?」
渡辺の話に舞が尋ねた。
だから渡辺は横で目を大きくして呆然としている美冬の方を向いて話し始めた。
「美冬ちゃん、君のお父さんに会った。全て分かった」
美冬はゆっくりと渡辺の方を向いた。その顔はいつもより更に白かった。
「君はずっと一人で耐えてきたんだな。どんな酷い事をされても、言われても。大人にはそれくらいと思う事でも、君らには死にたくなるくらい辛い事もあったのだろう。それでも死にたいと考えちゃいけないとは、俺ももう言わない。死にたいと思ってもいい。でも死なないでくれ。どんなに辛くても、一人でも君の事を気にかけてる人がいるうちは、どうか死なないで下さい」
その言葉に渡辺の方を見ていた顔面蒼白になった美冬の瞳からは、ポツポツと涙が溢れ出て来る。
舞と安藤は何の事か意味の分からないままその様子を黙って眺めていた。
すると今度は渡辺は、そんな二人の方を向いて説明を始めた。
「美冬ちゃんは、本当は生まれて来る筈の子じゃなかったんだ。偶然出来た子なんだ。お母さんは、お父さんと二人だけで一生暮らすつもりでいたらしい。だから美冬ちゃんの存在は望まれていなかった。お父さんはそんな美冬ちゃんが偶然生まれて、最初、夏に生まれた美しい子供という意味で美夏と名前を付けたらしい。しかし出生届けの段階で、お母さんが…」
渡辺はそこまで言うと言葉を詰まらせて、美冬の方を向いた。
美冬は涙で潤んだ瞳で、渡辺の方を向いたまま、小さく頷く。
その美冬の様子を見ると渡辺は、再度二人の方を向き直して話を始めた。
「出生届の段階でお母さんが、意地悪をしたんだ。『お前なんかに夏は勿体無い。寒くて凍えそうな冬で十分だ』と」
「ひどい」
舞が思わず声を漏らす。
「ん、ん、そおんなぁ」
安藤はまたも寿司を頬張りながら何かを言った。
「だから美冬ちゃんは、一度死んでると言ったんだ。死人が生きてちゃいけないと言ったんだ。きっと今まで苦しめられても我慢していた防波堤が、それを知った時決壊したんだろう。でもね、美冬ちゃん、君を必要としない人もいるかも知れないが、君を必要としている人もこれだけいるんだ。君は死ななくていい。死ぬ必要なんかない。生きる事を考えればいい」
「いいの?私、生きる事を考えてもいいの? そんな事、考えた事もなかった。いつも生きてるのが申し訳なかった。早く死ななきゃいけないのに、死ねないで生きているのが、辛かった。本当にいいの? 生きる事を考えてもいいの?」
渡辺の言葉に美冬が口を開いた。
つづく
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