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第四十三話 夢に見た日
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「さあ、上がって上がって」
渡辺は玄関先の美冬、舞、そして安藤へと声をかけた。
「俺一人だから、ホントに何もないんだ」
渡辺はそう言いながらどんどん中に入って行く。
「お邪魔します」
「失礼します」
「へー、マンションに一人暮らしか」
口々に挨拶しながら、三人はマンションの渡辺の部屋に入って行く。
「たいした事ないよ。ちょっと前に借りた。賃貸だ。ちょっと良いアパートと同じぐらいの家賃だ。俺はちょっと前まで住宅販売の仕事をしていたから」
そう言いながら渡辺は、奥のリビングの電気を付けた。
「ホントに何もないから。だから用意はしといた」
三人も廊下を通り奥のリビングへと出た。
「わー、凄い!」
「ホント」
美冬と舞が声を出す。
「たいした物は用意出来なかったが、近くのスーパーで惣菜とか、お寿司とか、後オードブルと飲み物を買って来た。本当はみんなに外食でもご馳走した方が良いのかも知れないが」
「いいえ」
「ホント、全然十分です」
渡辺の言葉に、美冬と舞が答える。
二LDKの渡辺の部屋は、玄関から廊下沿い両側に一部屋とトイレ、バス、脱衣場があり、奥には十畳程のリビングキッチンがあった。
みんなが中央のテーブルの周りに集まっている時、安藤は一人入って直ぐ右手のキッチンの方へと入っていた。
「渡辺さん。全然料理してないでしょ? このシステムキッチン綺麗だもん」
対面式のカウンターの所から顔を出して安藤が言う。
「ああ、一人だとどうしてもね。外食かコンビニ弁当になっちまう」
「ほら、冷蔵庫も空っぽだ」
安藤は渡辺の話も聞かずに勝手に冷蔵庫の側まで行くと、開けて中を覗いては更に言った。
「安藤君!」
だから美冬が少し怒った様な声で安藤を呼ぶ。
「あー、はいはい」
呼ばれてみんなの側へと向かう安藤。
「悪いね。じゃあ、立っているのもなんだから、みんな好きな所に座って貰ってもいいかな」
渡辺の言葉に四角いテーブル沿いに各々は椅子に座った。
席順は右回りに、渡辺、安藤、舞、美冬だった。
みんな畏まった様な顔をして、何かを待つかの様に数秒の沈黙が流れる。
「おじさん」
暫くして美冬が隣の渡辺の事を肩で少し小突きながら小声で言った。
主催者である渡辺が何か言うべきだと思ったからだ。
舞はその様子を少し不機嫌そうに眺めている。
「ああ、そうだな」
そして察した渡辺が声を出した。
「今日はみなさん、突然連れて来て申し訳ない」
そう言って渡辺はみんなの方に向けて頭を下げた。
「そうですよ。校門の前で待っていて、まるで誘拐だ」
「そうだね。本当に申し訳ない」
安藤の言葉に渡辺はもう一度頭を下げた。
「いいえ、そんな事ないです」
だから美冬は慌ててそう言う。
「安藤君」
それを見て舞も隣の安藤を嗜める。
「ごめん。ちょっとふざけ過ぎた」
「ははは、いいさ。この部屋にね。こんなに人が来たのは初めてなんだ。と言うより、今まで俺以外誰も入っていない。前にも言ったが、俺は五年間一人ぼっちだった。こんな風に大勢で食事をする事が出来たらいいなぁ、なんて夢見たいな事を考えていた。それが今なら出来るかも知れないと、この前少し思った。ちょっとした夢を叶えられるかも知れないと。だからちょっと無理をして、君たちを今日連れて来た。勿論、そんな事だけじゃない。重要な話も幾つかある。そのうちの一つは、『死にたがりクラブ』は今日で解散だという事だ。美冬ちゃんを助ける方法が分かった」
渡辺の言葉に三人は一瞬、息を呑んだ。
つづく
渡辺は玄関先の美冬、舞、そして安藤へと声をかけた。
「俺一人だから、ホントに何もないんだ」
渡辺はそう言いながらどんどん中に入って行く。
「お邪魔します」
「失礼します」
「へー、マンションに一人暮らしか」
口々に挨拶しながら、三人はマンションの渡辺の部屋に入って行く。
「たいした事ないよ。ちょっと前に借りた。賃貸だ。ちょっと良いアパートと同じぐらいの家賃だ。俺はちょっと前まで住宅販売の仕事をしていたから」
そう言いながら渡辺は、奥のリビングの電気を付けた。
「ホントに何もないから。だから用意はしといた」
三人も廊下を通り奥のリビングへと出た。
「わー、凄い!」
「ホント」
美冬と舞が声を出す。
「たいした物は用意出来なかったが、近くのスーパーで惣菜とか、お寿司とか、後オードブルと飲み物を買って来た。本当はみんなに外食でもご馳走した方が良いのかも知れないが」
「いいえ」
「ホント、全然十分です」
渡辺の言葉に、美冬と舞が答える。
二LDKの渡辺の部屋は、玄関から廊下沿い両側に一部屋とトイレ、バス、脱衣場があり、奥には十畳程のリビングキッチンがあった。
みんなが中央のテーブルの周りに集まっている時、安藤は一人入って直ぐ右手のキッチンの方へと入っていた。
「渡辺さん。全然料理してないでしょ? このシステムキッチン綺麗だもん」
対面式のカウンターの所から顔を出して安藤が言う。
「ああ、一人だとどうしてもね。外食かコンビニ弁当になっちまう」
「ほら、冷蔵庫も空っぽだ」
安藤は渡辺の話も聞かずに勝手に冷蔵庫の側まで行くと、開けて中を覗いては更に言った。
「安藤君!」
だから美冬が少し怒った様な声で安藤を呼ぶ。
「あー、はいはい」
呼ばれてみんなの側へと向かう安藤。
「悪いね。じゃあ、立っているのもなんだから、みんな好きな所に座って貰ってもいいかな」
渡辺の言葉に四角いテーブル沿いに各々は椅子に座った。
席順は右回りに、渡辺、安藤、舞、美冬だった。
みんな畏まった様な顔をして、何かを待つかの様に数秒の沈黙が流れる。
「おじさん」
暫くして美冬が隣の渡辺の事を肩で少し小突きながら小声で言った。
主催者である渡辺が何か言うべきだと思ったからだ。
舞はその様子を少し不機嫌そうに眺めている。
「ああ、そうだな」
そして察した渡辺が声を出した。
「今日はみなさん、突然連れて来て申し訳ない」
そう言って渡辺はみんなの方に向けて頭を下げた。
「そうですよ。校門の前で待っていて、まるで誘拐だ」
「そうだね。本当に申し訳ない」
安藤の言葉に渡辺はもう一度頭を下げた。
「いいえ、そんな事ないです」
だから美冬は慌ててそう言う。
「安藤君」
それを見て舞も隣の安藤を嗜める。
「ごめん。ちょっとふざけ過ぎた」
「ははは、いいさ。この部屋にね。こんなに人が来たのは初めてなんだ。と言うより、今まで俺以外誰も入っていない。前にも言ったが、俺は五年間一人ぼっちだった。こんな風に大勢で食事をする事が出来たらいいなぁ、なんて夢見たいな事を考えていた。それが今なら出来るかも知れないと、この前少し思った。ちょっとした夢を叶えられるかも知れないと。だからちょっと無理をして、君たちを今日連れて来た。勿論、そんな事だけじゃない。重要な話も幾つかある。そのうちの一つは、『死にたがりクラブ』は今日で解散だという事だ。美冬ちゃんを助ける方法が分かった」
渡辺の言葉に三人は一瞬、息を呑んだ。
つづく
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