何処へいこう

孤独堂

文字の大きさ
上 下
43 / 60

第四十三話 夢に見た日

しおりを挟む
「さあ、上がって上がって」

 渡辺は玄関先の美冬、舞、そして安藤へと声をかけた。

「俺一人だから、ホントに何もないんだ」

 渡辺はそう言いながらどんどん中に入って行く。

「お邪魔します」

「失礼します」

「へー、マンションに一人暮らしか」

 口々に挨拶しながら、三人はマンションの渡辺の部屋に入って行く。

「たいした事ないよ。ちょっと前に借りた。賃貸だ。ちょっと良いアパートと同じぐらいの家賃だ。俺はちょっと前まで住宅販売の仕事をしていたから」

 そう言いながら渡辺は、奥のリビングの電気を付けた。

「ホントに何もないから。だから用意はしといた」

 三人も廊下を通り奥のリビングへと出た。

「わー、凄い!」

「ホント」

 美冬と舞が声を出す。

「たいした物は用意出来なかったが、近くのスーパーで惣菜とか、お寿司とか、後オードブルと飲み物を買って来た。本当はみんなに外食でもご馳走した方が良いのかも知れないが」

「いいえ」

「ホント、全然十分です」

 渡辺の言葉に、美冬と舞が答える。
 二LDKの渡辺の部屋は、玄関から廊下沿い両側に一部屋とトイレ、バス、脱衣場があり、奥には十畳程のリビングキッチンがあった。
 みんなが中央のテーブルの周りに集まっている時、安藤は一人入って直ぐ右手のキッチンの方へと入っていた。

「渡辺さん。全然料理してないでしょ? このシステムキッチン綺麗だもん」

 対面式のカウンターの所から顔を出して安藤が言う。

「ああ、一人だとどうしてもね。外食かコンビニ弁当になっちまう」

「ほら、冷蔵庫も空っぽだ」

 安藤は渡辺の話も聞かずに勝手に冷蔵庫の側まで行くと、開けて中を覗いては更に言った。

「安藤君!」

 だから美冬が少し怒った様な声で安藤を呼ぶ。

「あー、はいはい」

 呼ばれてみんなの側へと向かう安藤。

「悪いね。じゃあ、立っているのもなんだから、みんな好きな所に座って貰ってもいいかな」

 渡辺の言葉に四角いテーブル沿いに各々は椅子に座った。
 席順は右回りに、渡辺、安藤、舞、美冬だった。
 みんな畏まった様な顔をして、何かを待つかの様に数秒の沈黙が流れる。

「おじさん」

 暫くして美冬が隣の渡辺の事を肩で少し小突きながら小声で言った。
 主催者である渡辺が何か言うべきだと思ったからだ。
 舞はその様子を少し不機嫌そうに眺めている。

「ああ、そうだな」

 そして察した渡辺が声を出した。

「今日はみなさん、突然連れて来て申し訳ない」

 そう言って渡辺はみんなの方に向けて頭を下げた。

「そうですよ。校門の前で待っていて、まるで誘拐だ」

「そうだね。本当に申し訳ない」

 安藤の言葉に渡辺はもう一度頭を下げた。

「いいえ、そんな事ないです」

 だから美冬は慌ててそう言う。

「安藤君」

 それを見て舞も隣の安藤を嗜める。

「ごめん。ちょっとふざけ過ぎた」

「ははは、いいさ。この部屋にね。こんなに人が来たのは初めてなんだ。と言うより、今まで俺以外誰も入っていない。前にも言ったが、俺は五年間一人ぼっちだった。こんな風に大勢で食事をする事が出来たらいいなぁ、なんて夢見たいな事を考えていた。それが今なら出来るかも知れないと、この前少し思った。ちょっとした夢を叶えられるかも知れないと。だからちょっと無理をして、君たちを今日連れて来た。勿論、そんな事だけじゃない。重要な話も幾つかある。そのうちの一つは、『死にたがりクラブ』は今日で解散だという事だ。美冬ちゃんを助ける方法が分かった」

 渡辺の言葉に三人は一瞬、息を呑んだ。





つづく

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

『私たち、JKロレスラーズ3 ~マチルダ女王様覚醒!C-MARTを壊滅せよ編~』

あらお☆ひろ
現代文学
「あらお☆ひろ」です! 「私たち、JKプロレスラーズ」シリーズの3作目です! 今回も、私がペンを入れてまーす! みなさん、嫌じゃないですよね(不安)。 「余命半年~④」の元ネタですねー! 今度は「幼児・児童売買組織CーMART《チャイルド・マーケット》」と対決ですよー! マリブ幼稚園の「ナンシーちゃん行方不明事件」と「ロス市警監察医デビッドのそっくりさん暴行事件」の2つの事件が複雑に絡まった「謎」が、アグネスとマチルダの前に立ちはだかります。 この話も「LAレスラー物語」のインディーズおっさんレスラーの「セシル」、「デビッド」、「ユジン」の3人もレギュラーとして参加しています! 4作ある「アグ&マチ」シリーズで「唯一」の「エロ」が描かれる「マチルダ女王様」のシーンが過去の掲載では大人気でした(笑)。 やっぱり「エロ」って強いね(笑)。 まあ、話自体は真面目な「推理&アクション」もの(笑)ですのでゆるーく読んでやってくださーい! (。-人-。) もちろん、この作品も「こども食堂応援企画」参加作品です! 投稿インセンティブは「こども食堂」に寄付されますので、応援していただける方は「エール」も協力していただけると嬉しいです! 「赤井翼」先生の「余命半年~」シリーズの原点ともいえる作品ですので「アグ&マチ」コンビも応援お願いしまーす! ✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【今日も新作の予告!】『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。 今回のお題は「闇スポーツ賭博」! この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか? 日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。 その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。 今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。 毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。 今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。 もちろん主役は「稀世ちゃん」です。 このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います! もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます! リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー! 皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす! では、10月9日本編スタートです! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

NTR(エヌ・ティー・アール)

かめのこたろう
現代文学
……。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...