何処へいこう

孤独堂

文字の大きさ
上 下
37 / 60

第三十七話 ディスカッション【discussion】その⑧ 美夏?美冬?

しおりを挟む
 
 美冬は笑っていた。
 そして言った。

「それも、答えられません」

 それで一同は一瞬静まり返った。が、直ぐに声は出た。

「それはない! それはちゃんと言うべきだ」

 それは半ば叫ぶ様な安藤の声だった。

「待って、隠すとすればいるからじゃない。もう一人」

「そうか、そうも考えられる」

 舞の言葉に渡辺が乗っかった。

「ん? そうか? 答えられないという事はそういう事か」

 安藤も舞の考えに納得したかの様に呟く。

「そうなると、さっき渡辺さんが言っていた『一度死んでいるから』の意味が繋がりますね。瀬川さんには美夏と言う双子の姉か妹がいて、その子が流産か、生まれて直ぐ死んだ。そしてその子の想いを背負って瀬川美冬は生きて来たが、しかし母親の虐待によって瀬川さんも段々洗脳されてしまい死にたい気持ちになって来たと」

「そういう事なのか」

 安藤の説明に渡辺は簡単に納得した様子を見せる。

「そうなの?」

 しかし舞は何か釈然としない様だった。

「佐々木さん、さっき自分で言ったくせに。じゃあ他にどう考える。後考えられるのは、此処に居るのは実は美夏さんの方で、死んだのが美冬さん。それなら一度死んでいるは、より鮮明になる」

「おお」

 安藤の説明に渡辺は思わず声をあげた。

「ちょっと」

 その流れに思わず美冬が声を出す。
 しかしみんなは聞こえない振りで、美冬双子説で盛り上がるのを止めようとはしなかった。

「確かにそれなら辻褄が合う。いや、寧ろそれしかない」

 渡辺は興奮した様に言った。

「でも何かが引っかかる。美冬にお姉さんがいたなんて」

「お姉さんとは限らない。妹さんかも知れない。大体此処にいるのは美夏の方かも」

 そんな舞の言葉に安藤は更に自論を展開する。

「なるほどなるほど」

 渡辺が相槌を打つ。
 そんな感じでいつの間にか三人はテーブルの上で顔を近づけて、美冬を蚊帳の外にして話を始めていた。

「ちょっと!」

 その様子に思わず美冬は少し大きな声を出す。
 だから三人は一斉に美冬の方を向いた。
 ただしそれが美冬か美夏かの判断が付かず、少し胡散臭そうな目で。

「なーに?」

 その言葉に安藤が尋ねる。

「何って? あなたたちこそ何やってんのよ。人の話も聞かないで」

「だって、聞いたって教えてくれないじゃん。俺達今、謎を解きつつあるんだ」

 美冬の言葉に安藤が答えた。

「だから謎解きをしたいなら私の話を聞きなさいよ。何で無視するの」

「無視した?」

 舞が安藤の方を見て言った。

「いや」

 安藤は渡辺の方を向いて言った。

「俺も、無視なんてしていない」

 渡辺はそう美冬の方を向いて言った。

「そう、あ、そう。じゃあいいわ。いい? 今からさっきの質問の答えをやっぱり言います」

 美冬がそう言うと、三人は次の一声を固唾を呑んで見守った。

「私には姉も妹も、双子もいません。一人っ子です」

「やっぱり…」

 美冬の話に舞が呟く。
 安藤と渡辺はその言葉に固まって、声も出なかった。

「それだけ。質問には答えたからね。あーもうこんな時間、そんなくだらない事に時間を使うから。私そろそろ帰る。おじさん、送って」

 美冬はスマホの時計を見ながらそう言った。

 時間は夜七時をとうに過ぎていた。
 だからこの美冬の言葉を最後に、この討論会はお開きとなった。





つづく
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ありがとうまぁ兄…また逢おうね

REN
青春
2022年2月27日 わたしの最愛の人がガンで命を落としました。 これはわたし達家族の物語です。 わたし達家族は血の繋がりはありません。 幼い頃に児童養護施設で出会い、育った4人が家族として血の繋がりよりも強い絆で共に生きてきました。 さまざまな人たちとの出会い、出来事、事件を経て、成長していきます。 やがてそれが恋に変わり、愛へと発展していきました。 他界した愛するひとに向けて、またガンなどの病気と闘っておられる方にも是非読んで頂きたいと思っております。 ※この物語はノンフィクション小説です。 ※更新は不定期となります。

【完】我が町、ゴダン 〜黒猫ほのぼの短編集〜

丹斗大巴
現代文学
我が町には〚ゴダン』がいる。名前の由来はゴマ団子だとか、ゴーギャンだとか。 なにをするわけでもないけど、ゴダンがいるだけで、この町は今日も少しだけ優しい。 猫のいる心温まるいい暮らし話し。 どこからでも読み始められる1話完結型ほっこり物語。

鬼母(おにばば)日記

歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。 そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?) 鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。

病窓の桜

喜島 塔
現代文学
 花曇りの空の下、薄桃色の桜の花が色付く季節になると、私は、千代子(ちよこ)さんと一緒に病室の窓越しに見た桜の花を思い出す。千代子さんは、もう、此岸には存在しない人だ。私が、潰瘍性大腸炎という難病で入退院を繰り返していた頃、ほんの数週間、同じ病室の隣のベッドに入院していた患者同士というだけで、特段、親しい間柄というわけではない。それでも、あの日、千代子さんが病室の窓越しの桜を眺めながら「綺麗ねえ」と紡いだ凡庸な言葉を忘れることができない。  私は、ベッドのカーテン越しに聞き知った情報を元に、退院後、千代子さんが所属している『ウグイス合唱団』の定期演奏会へと足を運んだ。だが、そこに、千代子さんの姿はなかった。  一年ほどの時が過ぎ、私は、アルバイトを始めた。忙しい日々の中、千代子さんと見た病窓の桜の記憶が薄れていった頃、私は、千代子さんの訃報を知ることになる。

大人への門

相良武有
現代文学
 思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。 が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。  

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

処理中です...