何処へいこう

孤独堂

文字の大きさ
上 下
25 / 60

第二十五話 インターミッション

しおりを挟む
   
 車は美冬の家の方へと向かっていた。

「これでいいの?」

 助手席に座る美冬が前を向いたまま尋ねる。

「良いもクソも、しょうがない。これが現実だ」

 渡辺もまた、前を向いたまま答えた。

「クソって。下品」

 美冬が少し機嫌の悪い声で言う。

「あ、そうか。ごめんごめん、女の子だもんなぁ」

 渡辺は少し笑って、そう言った。

「おじさん、高卒でしょ? 教養ないから下品な言葉使うんだよ」

 渡辺の笑っている様な声につられて、美冬も笑いながら半分冗談の様に言う。

「あー! お前だってまだ高校生じゃないか」

 だから渡辺は更に笑いながら、横を向いて美冬の方を見ながら言った。

「おじさん! 前! 前!」

 それに慌てた美冬が前を見る様にと叫ぶ。
 渡辺はニヤニヤしたまま前を向いた。

「大丈夫だよ。ちょっとくらい」

 しかし美冬はもう、笑ってはいなかった。

「だからおじさん。だから遥さん、大学に行かせたかったの?」

 その言葉に渡辺の笑顔も途切れる。

「あー、それもあるかな。大学に行けばまた、違う選択肢もあるし」

「でも、高卒で就職したって、その人次第で幾らでも人生は変わるでしょ」

「まあな。運が良ければ、選択肢さえ間違わなければ、きっと安定した幸せな暮らしが送れるだろうな」

「選択肢?」

「ああ、生まれた時からずっと仕掛けられた選択肢。普通に生きてるだけでチョコチョコ選ぶ場面に出合うだろ? どっちが正解なのか分からない、進んで見なきゃ分からない選択肢。おじさんは、借金の事を妻に言うか言わないかの選択肢でミスっちまった。それでこのザマだ。人生なんて運命だよ。でも、大学とか行くと、運命の確率も上げられるんじゃないかなってな」

「そんなの関係ないよ。何処でどう生きようが、本人次第だよ」

 美冬は渡辺の話にポツリと呟いた。

「ハハハ、美冬ちゃんは厳しいな」

 渡辺は軽く笑ってそう言った後、直ぐに真面目な顔に戻った。

「美冬ちゃん、ありがとな。お陰で娘とはいつでも会えるよ」

「まだだよ」

 渡辺の言葉に美冬は前を向いたまま、真面目な顔で答えた。

「え?」

「おじさん、私が遥さんにペットを飼っているか聞いたのを覚えてる?」

「ああ、帰り際。それが何かあるのか?」

「内緒」

「あー、また内緒か。内緒が好きだね全く」

 渡辺は少し拗ねた様な声を出した。

「フフ、頑張って謎を解いて。そうしたら私は死ななくても良くなるから。最初に言ったでしょ。これはゲームなんだって」

 言いながら美冬は少し微笑む。

「ゲームねぇ」

「奇跡も魔法もあるんだよ。おじさん」

「え?」

「アニメの台詞」

「なんだい、そりゃ」

「フフフ」

 美冬は更に微笑んだ。


 暫く走ると道は二股に分かれていた。

「おじさん、選択肢」

 すかさず美冬が言う。

「選択肢も何も、君んちに向かうんだ。右だよ右」

 渡辺はそう言いながらウインカーを右に倒し、ハンドルを右に切った。

「もし、左に行ってたら?」

 渡辺の言葉と行動を見て、美冬は更に尋ねる。

「君んちから遠ざかって行くよ。帰れなくなる」

「そうしたらどうなるの?」

「どうなるかなぁ。途方に暮れるか、何処へ行こうって、感じかなぁ」



 夜七時。
 美冬の家のある街の駅前。
 安藤と舞が、この前と同じコーヒーショップにいた。

「今日は美冬、追っかけ回して来なかったね。帰りも早く帰っちゃうし」

「ああ」

 舞の言葉に安藤は静かに答えた。

「何か、寂しそう」

「え、誰が? 俺が? そんな事ないよ。お陰で今日は二人でゆっくり作戦会議が出来たちゃん」

「フーン。でも何故か噛みましたよ」

 舞は冷静な顔で安藤にそう告げた。





つづく

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

【今日も新作の予告!】『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。 今回のお題は「闇スポーツ賭博」! この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか? 日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。 その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。 今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。 毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。 今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。 もちろん主役は「稀世ちゃん」です。 このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います! もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます! リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー! 皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす! では、10月9日本編スタートです! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...