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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第68話
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昼休みも終わり、幸一や太一達は校庭から教室へと戻り始めた。
美紗子も悠那達とのお喋りを終えて自分の席へと戻る。
紙夜里もみっちゃんと手を繋ぎながら階段を降りて来て、自分達のクラスへと向かった。
午後の授業が始まろうとしていた。
結局女子にどう話しかければ良いのか悩んでいた太一は、この授業中に一つの名案があった。
それは自分の前の席が、今回の噂を広めているキーマン、根本であるという事だった。
前に後ろの女子から回って来た紙を渡した様に、今度は自分が質問を書いて渡してみようという事だった。それならば話す訳ではないので、冷静に考えて質問も出来るし、逆に何か尋ねられても慌てて答えなくても良いので、女子と話すのが苦手な自分には好都合だと太一には思えた。
早速書いてみる。
『今朝の黒板の相合傘、知ってる? あれ書いたのお前ら?』
ノートを横十センチ、縦十五センチ程に定規を上手く使い、破いた紙に小さな文字でそう書くと、太一はこんなものだろうと眺めて、それから四つ折にして、前の根本の背を軽く人差し指でコツコツと突いた。
最初の質問は自分が相合傘を書いているのを見た人がいたかどうかの確認だった。
先生の目を盗む様に小さく頭だけを動かして、根本が、なあに? っと言った顔で振り返った。
(これ)
口には出さないが、そういう感じで四つ折にした紙を、振り向いた根本の顔の下、右肩の辺りに見える様に差し出した。
即座に興味を示した根本は、右脇の下の間から左腕を出して、その紙を受け取った。
太一はそれから数分間、緊張した面持ちで待っていた。
誰にも見られていない自信はあったが、万が一にも見られていて、それが噂になって流れ出したら不味い。特に幸一や美紗子に知られる様な事があったら。
そんな事を考えながら待つ一~ニ分は長かった。
太一は思わず教室前、黒板の右斜め上に掛けられた時計の秒針を眺めていた。
三分を過ぎた頃だろうか。
スッ
と、後ろ手に紙が太一の机の上に置かれた。
直ぐに紙を広げる。
『今朝の黒板の相合傘、知ってる? あれ書いたのお前ら?』
『違うよ。皆んな知らないって。今アレ書くのって、よっぽど倉橋さんに恨みがある人じゃないの? って皆んなで噂してる。山崎君の事好きな子とか?(笑) 遠野君何か知ってるの?』
太一の書いた文章の下に書かれた根本の文章を読んで、太一はホッとした。
根本の情報網で分らないのなら、ほぼ確実に目撃者はいない事になる。しかし何故、あの黒板に大きく書かれた相合傘を見て、誰も騒いで冷やかしたりしなかったのだろうか?
直ぐにその疑問が太一の頭の中を占めた。
『俺が来た時には既に書かれていたから知らない。でも何で今回は誰も冷やかさなかったんだ? お前ら大好きだろ? あーゆーの。俺はてっきりお前らが書いたんだと思ってた』
急ぎ根本の文章の下にそう書くと、太一はまた人差し指でコツコツと、根本の背中を突いた。
振り向いた根本も既に分っていた様に直ぐに掌を向けて出し、紙を受け取ると急いで前を向き直った。
それからまた数分の間を置いて、太一の机の上に紙が置かれた。
またも直ぐに広げて読み始める太一。
『皆んな誰が書いたか知らないって言って、ちょっと気味悪いね。って話になったんだ。さっきも書いたけど、今、倉橋さんの噂が女子の間で結構盛り上がっていて、このタイミングでしょ。何かを知っている人が書いたのかも知れないけど。ちょっとアレで冷やかしとか、冗談にならないでしょ。(笑) なんかマジっぽいんだもん』
詰まるところは、遣り過ぎたのか。
太一は根本の文章に、自分が本気の企みがあって書いたものが、その本気さが伝わって引かれた事に気付いた。
その後もこの授業の間中、二人の間の手紙の遣り取りは続いた。
女子の間で、現在どの様な美紗子の噂が流れているのか。
既に美紗子を無視している女子が何人いるのか。
キーマンである根本が、それをどの程度遊びとして楽しんでいるのか。
太一は、幾つかの事を知る事が出来た。
つづく
美紗子も悠那達とのお喋りを終えて自分の席へと戻る。
紙夜里もみっちゃんと手を繋ぎながら階段を降りて来て、自分達のクラスへと向かった。
午後の授業が始まろうとしていた。
結局女子にどう話しかければ良いのか悩んでいた太一は、この授業中に一つの名案があった。
それは自分の前の席が、今回の噂を広めているキーマン、根本であるという事だった。
前に後ろの女子から回って来た紙を渡した様に、今度は自分が質問を書いて渡してみようという事だった。それならば話す訳ではないので、冷静に考えて質問も出来るし、逆に何か尋ねられても慌てて答えなくても良いので、女子と話すのが苦手な自分には好都合だと太一には思えた。
早速書いてみる。
『今朝の黒板の相合傘、知ってる? あれ書いたのお前ら?』
ノートを横十センチ、縦十五センチ程に定規を上手く使い、破いた紙に小さな文字でそう書くと、太一はこんなものだろうと眺めて、それから四つ折にして、前の根本の背を軽く人差し指でコツコツと突いた。
最初の質問は自分が相合傘を書いているのを見た人がいたかどうかの確認だった。
先生の目を盗む様に小さく頭だけを動かして、根本が、なあに? っと言った顔で振り返った。
(これ)
口には出さないが、そういう感じで四つ折にした紙を、振り向いた根本の顔の下、右肩の辺りに見える様に差し出した。
即座に興味を示した根本は、右脇の下の間から左腕を出して、その紙を受け取った。
太一はそれから数分間、緊張した面持ちで待っていた。
誰にも見られていない自信はあったが、万が一にも見られていて、それが噂になって流れ出したら不味い。特に幸一や美紗子に知られる様な事があったら。
そんな事を考えながら待つ一~ニ分は長かった。
太一は思わず教室前、黒板の右斜め上に掛けられた時計の秒針を眺めていた。
三分を過ぎた頃だろうか。
スッ
と、後ろ手に紙が太一の机の上に置かれた。
直ぐに紙を広げる。
『今朝の黒板の相合傘、知ってる? あれ書いたのお前ら?』
『違うよ。皆んな知らないって。今アレ書くのって、よっぽど倉橋さんに恨みがある人じゃないの? って皆んなで噂してる。山崎君の事好きな子とか?(笑) 遠野君何か知ってるの?』
太一の書いた文章の下に書かれた根本の文章を読んで、太一はホッとした。
根本の情報網で分らないのなら、ほぼ確実に目撃者はいない事になる。しかし何故、あの黒板に大きく書かれた相合傘を見て、誰も騒いで冷やかしたりしなかったのだろうか?
直ぐにその疑問が太一の頭の中を占めた。
『俺が来た時には既に書かれていたから知らない。でも何で今回は誰も冷やかさなかったんだ? お前ら大好きだろ? あーゆーの。俺はてっきりお前らが書いたんだと思ってた』
急ぎ根本の文章の下にそう書くと、太一はまた人差し指でコツコツと、根本の背中を突いた。
振り向いた根本も既に分っていた様に直ぐに掌を向けて出し、紙を受け取ると急いで前を向き直った。
それからまた数分の間を置いて、太一の机の上に紙が置かれた。
またも直ぐに広げて読み始める太一。
『皆んな誰が書いたか知らないって言って、ちょっと気味悪いね。って話になったんだ。さっきも書いたけど、今、倉橋さんの噂が女子の間で結構盛り上がっていて、このタイミングでしょ。何かを知っている人が書いたのかも知れないけど。ちょっとアレで冷やかしとか、冗談にならないでしょ。(笑) なんかマジっぽいんだもん』
詰まるところは、遣り過ぎたのか。
太一は根本の文章に、自分が本気の企みがあって書いたものが、その本気さが伝わって引かれた事に気付いた。
その後もこの授業の間中、二人の間の手紙の遣り取りは続いた。
女子の間で、現在どの様な美紗子の噂が流れているのか。
既に美紗子を無視している女子が何人いるのか。
キーマンである根本が、それをどの程度遊びとして楽しんでいるのか。
太一は、幾つかの事を知る事が出来た。
つづく
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