43 / 83
第一部 未成熟な想い (小学生編)
第40話
しおりを挟む
五年の男子トイレに入ると、幸一は直ぐに周りを確認した。
小便器の列の真ん中に男子が一人いた。
それを見て幸一は、少し恥ずかしかったが大の方の個室へと向かい入った。
三つあるうちの一番端の窓側だ。
ドアを閉めて、握っていた手を開く。
掌の上では、クシャクシャになった二つ折りの紙が、圧力から開放されて少しだけ広がる様に動いた。
ガサガサ
紙の擦れる音を少しだけ響かせ、幸一は紙を開いた。
-今日の放課後、図書室の奥のテーブルで待っていますー
橋本 紙夜里
紙に書かれていたのはそれだけだった。
しかし幸一はその一文から重要な事を知る事が出来た。
(待ち合わせ場所が奥くのテーブルって事は、美紗ちゃんがあの子にあの場所の事を話したに違いない。だとしたらこれは、美紗ちゃん本人から頼まれた事なのか?)
幸一は最近の美紗子の不穏な態度に疑問を感じていたし、昼休みの太一の事も。
(全ての疑問が解ける…)
幸一は紙夜里の指定通りに従おうと思った。
全ての授業が終わり、放課後になると、美紗子は相変わらず幸一の方を見る事もなく、そそくさと帰り支度をして、教室を後にした。
幸一はゆっくりと帰り支度をして、美紗子が帰るのを待っていた。
そして美紗子が教室から出て行くのを見ると、急いでランドセルを背負い、手提げバッグを持つと立ち上がり、同じく教室から出て行き、図書室を目指した。
図書室へと向かう道すがら幸一は、もしかしたらそこに美紗子もいるかも知れない。さっきの子は二人をこっそり会わせる為に先程の紙をよこしたのかも知れない。等と考えては、直ぐにその考えを打ち捨てた。
もし同じ所へ向かっているのであれば見える筈である美紗子の後姿が、幾ら廊下を歩いても、決して遥か先を見渡しても、見えなかったからだ。
(やはりあの子だけなのかな?)
ほとんど知らない女の子とこれから図書室で二人きりで会う。
より現実味のあるこちらのパターンを考えた時、幸一は少し緊張を覚えた。
美紗子とは実際良く話をしていたが、他の女子とはそれ程深く話をしてはいなかったからだ。
そもそも本来は男子とドッヂボールやサッカーをしている方が、今の幸一にはまだ楽しかったのだ。女子を見て可愛いと思う気持ちはあっても、例えば美紗子との場合、話していてとにかく楽しくて、見ていて確かに可愛かったけれど、恋愛感情というものが湧く事はまだなかった。ただ、仲の良い友達として優しくしてあげたかっただけだった。
だから馴れていない他の女子とこれからわざわざ会って話すというのは、考えると相当面倒で、緊張する事だった。
そんな事を考えながら歩いていると、幸一は図書室の前に着いた。
図書室の入り口の引き戸の前には、紙夜里に頼まれたのか、みっちゃんが壁にもたれながら立っていた。
「君は、入らないの?」
先程紙夜里と一緒にいた子だと直ぐに気付いた幸一は、話しかけた。
「此処で待っていてと言われた」
如何にも不満そうに仏頂面をして、みっちゃんは答えた。
「そう」
何と言えば良いのか分らず幸一はそれだけを言う。
「いいから。紙夜里が待ってる。早く入って」
みっちゃんのその言葉に幸一は今度は無言で頷き、そして図書室の引き戸を引いた。
つづく
小便器の列の真ん中に男子が一人いた。
それを見て幸一は、少し恥ずかしかったが大の方の個室へと向かい入った。
三つあるうちの一番端の窓側だ。
ドアを閉めて、握っていた手を開く。
掌の上では、クシャクシャになった二つ折りの紙が、圧力から開放されて少しだけ広がる様に動いた。
ガサガサ
紙の擦れる音を少しだけ響かせ、幸一は紙を開いた。
-今日の放課後、図書室の奥のテーブルで待っていますー
橋本 紙夜里
紙に書かれていたのはそれだけだった。
しかし幸一はその一文から重要な事を知る事が出来た。
(待ち合わせ場所が奥くのテーブルって事は、美紗ちゃんがあの子にあの場所の事を話したに違いない。だとしたらこれは、美紗ちゃん本人から頼まれた事なのか?)
幸一は最近の美紗子の不穏な態度に疑問を感じていたし、昼休みの太一の事も。
(全ての疑問が解ける…)
幸一は紙夜里の指定通りに従おうと思った。
全ての授業が終わり、放課後になると、美紗子は相変わらず幸一の方を見る事もなく、そそくさと帰り支度をして、教室を後にした。
幸一はゆっくりと帰り支度をして、美紗子が帰るのを待っていた。
そして美紗子が教室から出て行くのを見ると、急いでランドセルを背負い、手提げバッグを持つと立ち上がり、同じく教室から出て行き、図書室を目指した。
図書室へと向かう道すがら幸一は、もしかしたらそこに美紗子もいるかも知れない。さっきの子は二人をこっそり会わせる為に先程の紙をよこしたのかも知れない。等と考えては、直ぐにその考えを打ち捨てた。
もし同じ所へ向かっているのであれば見える筈である美紗子の後姿が、幾ら廊下を歩いても、決して遥か先を見渡しても、見えなかったからだ。
(やはりあの子だけなのかな?)
ほとんど知らない女の子とこれから図書室で二人きりで会う。
より現実味のあるこちらのパターンを考えた時、幸一は少し緊張を覚えた。
美紗子とは実際良く話をしていたが、他の女子とはそれ程深く話をしてはいなかったからだ。
そもそも本来は男子とドッヂボールやサッカーをしている方が、今の幸一にはまだ楽しかったのだ。女子を見て可愛いと思う気持ちはあっても、例えば美紗子との場合、話していてとにかく楽しくて、見ていて確かに可愛かったけれど、恋愛感情というものが湧く事はまだなかった。ただ、仲の良い友達として優しくしてあげたかっただけだった。
だから馴れていない他の女子とこれからわざわざ会って話すというのは、考えると相当面倒で、緊張する事だった。
そんな事を考えながら歩いていると、幸一は図書室の前に着いた。
図書室の入り口の引き戸の前には、紙夜里に頼まれたのか、みっちゃんが壁にもたれながら立っていた。
「君は、入らないの?」
先程紙夜里と一緒にいた子だと直ぐに気付いた幸一は、話しかけた。
「此処で待っていてと言われた」
如何にも不満そうに仏頂面をして、みっちゃんは答えた。
「そう」
何と言えば良いのか分らず幸一はそれだけを言う。
「いいから。紙夜里が待ってる。早く入って」
みっちゃんのその言葉に幸一は今度は無言で頷き、そして図書室の引き戸を引いた。
つづく
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説




アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる