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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第30話
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紙夜里の行動に少し驚いた後、美紗子は少し心が落ち着いたのか、穏やかな口調で話し始めた。
「ううん。やっぱり私が悪いんだよ。最初に誤魔化さないで、ちゃんと言えばこんな風に怒られたりもしなかったし、変に疑われて、不安な気持ちになる事もなかった。あのね紙夜里ちゃん、私あの日、紙夜里ちゃんに教科書返すの忘れて、ずっと図書室に居たの」
「図書室?」
思わず紙夜里は美紗子の胸に埋めていた顔を起こすとそう呟いた。
「そう」
顔を上げた紙夜里の顔をちゃんと見ながら、美紗子は穏やかに答えた。
「でも、四組の人が図書室も探しに行ったって言ってたよ。それで居なかったって」
言いながら紙夜里は不思議そうな顔で美紗子を見た。
その紙夜里のあどけない表情に美紗子は思わず顔を綻ばせながら、続きを話した。
「図書室に入って来ても、奥くまで行かないと見えないテーブルがあるの。本棚の陰になっていて、私そこに居たの。きっと私を探しに来たのは斉藤さんで。私からはそれも見えてた。見えて、暫くして、忘れていた事がある事に気付いたの。それから慌てて教室に戻って、教科書を返しに、紙夜里ちゃんに…ごめんね」
「そんな~、そんな事なら言えば良かったのに。全然問題ないじゃない。いっそその斉藤さんが探しに来た時に顔でも出して、見つかっていれば」
「駄目なの。隠れていたの」
「えっ?」
紙夜里の言葉を慌てて制して美紗子が言った言葉は、紙夜里を驚かせた。
「何で?」
直ぐに質問する。
「男子と一緒だったの。同じクラスの山崎幸一君。本とか映画とか詳しくて。教室で話していると冷やかされるから、図書室でこっそり会って一緒に本を読んだり、話しをしたりしていたの。だからそれを言うとまた冷やかされると思って」
美紗子の話を聞く紙夜里の表情は少し曇っていた。
「知ってるその人。美紗ちゃんと噂になってる人だよね。ウチのクラスでも聞いたことある」
「そう」
紙夜里の話に美紗子も表情が曇り始めた。
やはり噂として広まっているという事は、男子と二人で仲良くしているのは、傍目にはあまり良くない事なのか。と、美紗子は思った。
「でも、私は美紗ちゃんが男子といても全然問題ないと思う。隠す事ないと思う。別に悪い事をしている訳じゃないじゃない。寧ろそういう風に冷やかす人達って、妬みとか嫉妬があるんじゃない?美紗ちゃんの事を好きな男子とか。その幸一君の事を好きな女子とか。そういう人達なんじゃないの? それで邪魔をしようとして。ねー、きっとそうだよ」
「紙夜里ちゃん」
美紗子の体に抱きついたまま、必死にそう言う紙夜里の姿に感情を揺さぶられたのか、美紗子はジーンと腕に鳥肌が立ち、何とも言えない不思議な温かな気持ちになって、思わずそう呟いた。
「ありがとう、紙夜里ちゃん。そういう風に言って貰えたのは、はじめてだよ」
その言葉に嬉しそうに紙夜里は微笑んだ。
「じゃあさー、皆んなに正直に言っちゃおうよ。冷やかされても最初のうちだけだよ。どうせもう、水口さんには怒られたんだし。美紗ちゃんが言えないなら、私が言ってあげようか?」
「駄目!」
紙夜里の言葉に突然美紗子は、抱き付いていた紙夜里を突き放し、そう叫んだ。
「それは駄目。やっぱりこの事は内緒にして」
美紗子は幸一の事を考えていた。
自分だけなら冷やかされてもそれ程苦にはならないが、幸一は非常に嫌がっていた。
そんな幸一を美紗子は、苦しめたくないと思っていたのだ。
突き放された紙夜里は目を白黒させながらも、美紗子の表情を追った。
(また悲しそうな表情に戻ってしまった)
そう思うと紙夜里も悲しい気持ちになって来た。
だから、
「どうして貰いたい? 教えて。美紗ちゃんの為なら何でもするから」
と、紙夜里は言った。
つづく
「ううん。やっぱり私が悪いんだよ。最初に誤魔化さないで、ちゃんと言えばこんな風に怒られたりもしなかったし、変に疑われて、不安な気持ちになる事もなかった。あのね紙夜里ちゃん、私あの日、紙夜里ちゃんに教科書返すの忘れて、ずっと図書室に居たの」
「図書室?」
思わず紙夜里は美紗子の胸に埋めていた顔を起こすとそう呟いた。
「そう」
顔を上げた紙夜里の顔をちゃんと見ながら、美紗子は穏やかに答えた。
「でも、四組の人が図書室も探しに行ったって言ってたよ。それで居なかったって」
言いながら紙夜里は不思議そうな顔で美紗子を見た。
その紙夜里のあどけない表情に美紗子は思わず顔を綻ばせながら、続きを話した。
「図書室に入って来ても、奥くまで行かないと見えないテーブルがあるの。本棚の陰になっていて、私そこに居たの。きっと私を探しに来たのは斉藤さんで。私からはそれも見えてた。見えて、暫くして、忘れていた事がある事に気付いたの。それから慌てて教室に戻って、教科書を返しに、紙夜里ちゃんに…ごめんね」
「そんな~、そんな事なら言えば良かったのに。全然問題ないじゃない。いっそその斉藤さんが探しに来た時に顔でも出して、見つかっていれば」
「駄目なの。隠れていたの」
「えっ?」
紙夜里の言葉を慌てて制して美紗子が言った言葉は、紙夜里を驚かせた。
「何で?」
直ぐに質問する。
「男子と一緒だったの。同じクラスの山崎幸一君。本とか映画とか詳しくて。教室で話していると冷やかされるから、図書室でこっそり会って一緒に本を読んだり、話しをしたりしていたの。だからそれを言うとまた冷やかされると思って」
美紗子の話を聞く紙夜里の表情は少し曇っていた。
「知ってるその人。美紗ちゃんと噂になってる人だよね。ウチのクラスでも聞いたことある」
「そう」
紙夜里の話に美紗子も表情が曇り始めた。
やはり噂として広まっているという事は、男子と二人で仲良くしているのは、傍目にはあまり良くない事なのか。と、美紗子は思った。
「でも、私は美紗ちゃんが男子といても全然問題ないと思う。隠す事ないと思う。別に悪い事をしている訳じゃないじゃない。寧ろそういう風に冷やかす人達って、妬みとか嫉妬があるんじゃない?美紗ちゃんの事を好きな男子とか。その幸一君の事を好きな女子とか。そういう人達なんじゃないの? それで邪魔をしようとして。ねー、きっとそうだよ」
「紙夜里ちゃん」
美紗子の体に抱きついたまま、必死にそう言う紙夜里の姿に感情を揺さぶられたのか、美紗子はジーンと腕に鳥肌が立ち、何とも言えない不思議な温かな気持ちになって、思わずそう呟いた。
「ありがとう、紙夜里ちゃん。そういう風に言って貰えたのは、はじめてだよ」
その言葉に嬉しそうに紙夜里は微笑んだ。
「じゃあさー、皆んなに正直に言っちゃおうよ。冷やかされても最初のうちだけだよ。どうせもう、水口さんには怒られたんだし。美紗ちゃんが言えないなら、私が言ってあげようか?」
「駄目!」
紙夜里の言葉に突然美紗子は、抱き付いていた紙夜里を突き放し、そう叫んだ。
「それは駄目。やっぱりこの事は内緒にして」
美紗子は幸一の事を考えていた。
自分だけなら冷やかされてもそれ程苦にはならないが、幸一は非常に嫌がっていた。
そんな幸一を美紗子は、苦しめたくないと思っていたのだ。
突き放された紙夜里は目を白黒させながらも、美紗子の表情を追った。
(また悲しそうな表情に戻ってしまった)
そう思うと紙夜里も悲しい気持ちになって来た。
だから、
「どうして貰いたい? 教えて。美紗ちゃんの為なら何でもするから」
と、紙夜里は言った。
つづく
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