未成熟なセカイ 

孤独堂

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第一部 未成熟な想い (小学生編)

第24話

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 五年四組の教室の後ろの引き戸を引くと、三時限目の授業はまだ続いていた。
 静かに中に入る水口と根本。
 気付いた教壇の先生が小さく頷いた。
 二人は自分達の席へと音を立てないように静かに戻って行く。
 各々の席に着くと、閉じて机の上に置いて行った教科書とノートを開いて、二人とも授業に戻った。当然後ろの席からは小声で、「どうだった? どうだった?」と訊いてくる生徒もいたが、根本は「後でね」と小声で返し、水口は聞こえない振りをして、何も答えなかった。

 淡々と進む授業の中、水口は別の事を考えていた。
 しつこく美紗子の事を尋ねて来る根本さんには、五年の教室が並ぶ階に着き、廊下を歩き出した時に、仕様がなく「後で言うから、その代わり誰にも言わないでね」と、言った。
 とりあえず根本さんに関してはこれでいい。
 問題はあの時一緒にいた三人にもこの事を伝えるべきかだ。
 とりあえず今腹痛で保健室にいる斉藤さんは除いたとしても後の二人には。
 多分伝えれば、きっとあの時の流れだと「男子と一緒にいて忘れたに違いない」という話になって、直ぐに広まるだろう。しかしそれも、私達の信用を裏切って嘘を付いた罰か。
 そう思い、フッと水口は美紗子の席の方を眺めた。
 黙って正面を向いて、真面目に授業を受けている美紗子の横顔が見えた。
 確かにこのクラスでは飛び抜けて垢抜けている。
 水口は美紗子が男子に人気があるのも頷けると思った。
 でも、だからと言って、果たして美紗子は色々な男子と話して喜んでいるタイプの子だろうか?

(裏切られた思いで、怒りたい気持ちはある。しかし副委員長としての自分の立場的にはどうなのか? 怒りに任せていいのか? それともクラスの今の状態を保つ為に裏で話をつけて、穏便に済ませた方がいいのか? 大体そのどちらかは、正しい事なのか?)

 水口はどうすべきか、行き詰まっていた。
 とりあえず根本さんには今日中には話さなければならないだろう。
 そうしたら他の三人にも…

「はぁ」

 思わず俯いて溜息を漏らす。

(何でただ怒って良い筈の私が、こんなに色々考えて悩んでいるのだろう)

 そう思いながら水口は暫く目を閉じて、静かに心を落ち着かせた。
 そして顔を上げて目を開いた時には一つの結論に達していた。

(とにかくあの三人にも根本さんにも話す前に、まず美紗子に正直に訊いてみよう。美紗子が何て答えるか。本当は何処で何をしていたのか。次の休み時間には訊かなくては。それから、この事は絶対に二組には漏れてはいけない。それこそが私の副委員長としての威信に関る事だ!)


  もうすぐ、三時限目が終ろうとしていた。




   
         つづく
 
 
 
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