27 / 83
第一部 未成熟な想い (小学生編)
第24話
しおりを挟む
五年四組の教室の後ろの引き戸を引くと、三時限目の授業はまだ続いていた。
静かに中に入る水口と根本。
気付いた教壇の先生が小さく頷いた。
二人は自分達の席へと音を立てないように静かに戻って行く。
各々の席に着くと、閉じて机の上に置いて行った教科書とノートを開いて、二人とも授業に戻った。当然後ろの席からは小声で、「どうだった? どうだった?」と訊いてくる生徒もいたが、根本は「後でね」と小声で返し、水口は聞こえない振りをして、何も答えなかった。
淡々と進む授業の中、水口は別の事を考えていた。
しつこく美紗子の事を尋ねて来る根本さんには、五年の教室が並ぶ階に着き、廊下を歩き出した時に、仕様がなく「後で言うから、その代わり誰にも言わないでね」と、言った。
とりあえず根本さんに関してはこれでいい。
問題はあの時一緒にいた三人にもこの事を伝えるべきかだ。
とりあえず今腹痛で保健室にいる斉藤さんは除いたとしても後の二人には。
多分伝えれば、きっとあの時の流れだと「男子と一緒にいて忘れたに違いない」という話になって、直ぐに広まるだろう。しかしそれも、私達の信用を裏切って嘘を付いた罰か。
そう思い、フッと水口は美紗子の席の方を眺めた。
黙って正面を向いて、真面目に授業を受けている美紗子の横顔が見えた。
確かにこのクラスでは飛び抜けて垢抜けている。
水口は美紗子が男子に人気があるのも頷けると思った。
でも、だからと言って、果たして美紗子は色々な男子と話して喜んでいるタイプの子だろうか?
(裏切られた思いで、怒りたい気持ちはある。しかし副委員長としての自分の立場的にはどうなのか? 怒りに任せていいのか? それともクラスの今の状態を保つ為に裏で話をつけて、穏便に済ませた方がいいのか? 大体そのどちらかは、正しい事なのか?)
水口はどうすべきか、行き詰まっていた。
とりあえず根本さんには今日中には話さなければならないだろう。
そうしたら他の三人にも…
「はぁ」
思わず俯いて溜息を漏らす。
(何でただ怒って良い筈の私が、こんなに色々考えて悩んでいるのだろう)
そう思いながら水口は暫く目を閉じて、静かに心を落ち着かせた。
そして顔を上げて目を開いた時には一つの結論に達していた。
(とにかくあの三人にも根本さんにも話す前に、まず美紗子に正直に訊いてみよう。美紗子が何て答えるか。本当は何処で何をしていたのか。次の休み時間には訊かなくては。それから、この事は絶対に二組には漏れてはいけない。それこそが私の副委員長としての威信に関る事だ!)
もうすぐ、三時限目が終ろうとしていた。
つづく
静かに中に入る水口と根本。
気付いた教壇の先生が小さく頷いた。
二人は自分達の席へと音を立てないように静かに戻って行く。
各々の席に着くと、閉じて机の上に置いて行った教科書とノートを開いて、二人とも授業に戻った。当然後ろの席からは小声で、「どうだった? どうだった?」と訊いてくる生徒もいたが、根本は「後でね」と小声で返し、水口は聞こえない振りをして、何も答えなかった。
淡々と進む授業の中、水口は別の事を考えていた。
しつこく美紗子の事を尋ねて来る根本さんには、五年の教室が並ぶ階に着き、廊下を歩き出した時に、仕様がなく「後で言うから、その代わり誰にも言わないでね」と、言った。
とりあえず根本さんに関してはこれでいい。
問題はあの時一緒にいた三人にもこの事を伝えるべきかだ。
とりあえず今腹痛で保健室にいる斉藤さんは除いたとしても後の二人には。
多分伝えれば、きっとあの時の流れだと「男子と一緒にいて忘れたに違いない」という話になって、直ぐに広まるだろう。しかしそれも、私達の信用を裏切って嘘を付いた罰か。
そう思い、フッと水口は美紗子の席の方を眺めた。
黙って正面を向いて、真面目に授業を受けている美紗子の横顔が見えた。
確かにこのクラスでは飛び抜けて垢抜けている。
水口は美紗子が男子に人気があるのも頷けると思った。
でも、だからと言って、果たして美紗子は色々な男子と話して喜んでいるタイプの子だろうか?
(裏切られた思いで、怒りたい気持ちはある。しかし副委員長としての自分の立場的にはどうなのか? 怒りに任せていいのか? それともクラスの今の状態を保つ為に裏で話をつけて、穏便に済ませた方がいいのか? 大体そのどちらかは、正しい事なのか?)
水口はどうすべきか、行き詰まっていた。
とりあえず根本さんには今日中には話さなければならないだろう。
そうしたら他の三人にも…
「はぁ」
思わず俯いて溜息を漏らす。
(何でただ怒って良い筈の私が、こんなに色々考えて悩んでいるのだろう)
そう思いながら水口は暫く目を閉じて、静かに心を落ち着かせた。
そして顔を上げて目を開いた時には一つの結論に達していた。
(とにかくあの三人にも根本さんにも話す前に、まず美紗子に正直に訊いてみよう。美紗子が何て答えるか。本当は何処で何をしていたのか。次の休み時間には訊かなくては。それから、この事は絶対に二組には漏れてはいけない。それこそが私の副委員長としての威信に関る事だ!)
もうすぐ、三時限目が終ろうとしていた。
つづく
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる