未成熟なセカイ 

孤独堂

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第一部 未成熟な想い (小学生編)

第17話

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「結構アイツやるじゃん」

 正面を向いたまま、北村颯太は隣にいる遠野太一に向かって小声で呟いた。

「たいした事ねーよ」

 それに対して太一はちょっとムッとした顔で答える

「ふーん」

 颯太は今度は隣の太一の顔を見て、値踏みでもする様にそう言った。

「なんだよ!?」

 その余裕のある態度にちょっとムカついて、太一も横を向いて颯太に丁度そう言った時だった。

     バシッ!

 太一の目の前で颯太に当たったボールは、跳ねて地面へと落ちた。

「あ、当たっちゃった」

 白々しい口調で言う颯太。

「なんだよ、お前! ワザとだろ」

 呆気に取られた太一が叫んだ。

「えへへへへへへ」

 ワザとらしく笑いながら、颯太はコートの外へ出ようと歩き出す。
 二組のもう一人の男子が転がっていたボールを拾いに来ながら颯太に呆れた様に声を掛けた。

「お前、そろそろ野沢さんが帰って来るからワザとだろ? マジかよ~ ズルい奴~」

「むはははは」

 それに対して颯太は堂々と、ワザとらしく大袈裟に笑って見せて、それから太一の方を向いて言った。

「お前も俺くらいだったら、もっと気楽なのにな」

「は~?」

 太一は意味が分らず首を傾げた。
 

 ボールを拾った二組の男子は、太一の側に来た。

「さっきの野沢さんって?」

 気になっていた太一は思わず尋ねた。

「野沢奈々。同じクラスの女子さ。そろそろ補習、居残り勉強終って、此処を通って帰って来る筈なんだ。アイツ、それまでの時間潰しでドッヂボールしてやがった。信じらんねー」

「はあ? 何それ、颯太の彼女?」

 太一は思わず呆れた声で更に尋ねた。

「彼女? ぷっ! ははははは」

 思わず笑い出す二組の男子。

「ないない! 友達ではあるけれど、それはない! 野沢さん偶に颯太に追い掛けられて逃げてるもん」

「何だそりゃ」

「アイツ、皆んなに自分から言って回ってるけど。颯太がとにかく野沢さんを好きなんだって」

「そりゃあ、その野沢さんは、いい迷惑だな」

「まあな。おかげで他の奴は誰も野沢さんには手を出せない感じだからな。ははは」

「それは酷い」

 そう言いながら太一はコートの外に出ている颯太の方を眺めた。
 颯太はニヤニヤと笑いながら、太一と目が合うと口を開いた。

「お前もこの手使っていいぞ~!」

 颯太の大きな声は、幸一達のコートの方にまで聞こえた。

「ボール投げないで、何やってんだあいつら」

 思わず五十嵐がぼやいた。


「何だよアイツ! こっちの話聞こえてたのかよ!」

 二組の男子は驚いてそう言うと、持っていたボールを見て、思い出したかの様に突然ボールを投げた。

    バシッ!

「えっ?」

 思わず気を抜いていた五十嵐は全然取る事が出来なくて、簡単にボールに当たってしまった。

「太一以外は幸一狙いじゃないみたいだな」

 トボトボとコートの外へと歩いて行く五十嵐と交差する様にボールを拾いに行きながら、谷口は五十嵐と幸一に向かって言った。 




          つづく
 
 
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