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(番外編) キミはボクをスキ? (中)
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颯太は幼稚園の頃からちょくちょく奈々に自分の好きな物を見せたり聞かせたりしていた。自分の好きな物を共有して貰いたかったからだ。例えば小学校高学年の頃はお気に入りのアーチストのCDを貸して、歌詞を聴いて貰いたかったりするのだけれど、奈々の答えは「まだ聞いてない」や「良く分らなかった」等だった。
感情のポイントがずれていた。
それでも颯太はしつこく、自分の好きな物や場所を奈々に紹介していた。
同じ物を好きになって、心が同じ方向を向いてると思いたかったから。
「お前とトイレに入るのは嫌なんだよな」
剛が言った。
「なんで、小五の時の事思い出すからか」
颯太はニヤリと笑った。
「言うなよ~もう中学だぜ」
剛はその話は思い出したくない様だった。
「じゃあ、さっきの話。お前それとなくクラスの奴らに野沢の事フォロー入れてくれるか?」
「それはちょっと変だろ」
「なんで!」
剛の言葉に颯太は急に顔つきを変え、怒鳴った。
「怒るなよ」
剛が颯太を落ち着かせようと言う。
「腹殴られたの覚えてるか?お前野沢のスカートめくりしたの。今度はお前野沢の為に良い事しても良いんじゃないか」
そう言いながら颯太は拳を握り、剛を睨み付けた。
「直ぐ怒る。お前直ぐ切れて怖えーって評判だぞ」
「だから?」
「良く考えろ。男の俺が野沢の事クラスの奴らに良い様に言うのは変じゃないか?只俺が野沢の事好きだと思われるだけだろ。そういう事じゃなくて、クラスの奴らが野沢と余り話さないのは、最初に先生がちゃんと説明しなかったから、皆どう対応して良いか分らないんだ」
「先生が悪いのか」
そう言いながら颯太はまだ剛を睨んでいた。
「それもあるし、野沢も小学の頃は明るい奴だと思ってたけど、中学になってからは自分から話しかけたりしないんだよな。だからなんとなーく、特殊な子って感じで皆遠巻きにしてるっていうか」
「野沢は、奈々は知らない子ばかりで気後れしてんだよ。慣れればいつもの明るい奈々に戻るんだ。だからお前がきっかけを作れば」
「だから男の俺が野沢の所行っていつも話してたら変だろ。それに、そもそもこういうのは野沢本人がちゃんと動かなくちゃ。お前が野沢好きなのは小学の同級生なら皆知ってるけどさ。これはお前が裏でどうこうする問題じゃなくて、やっぱり野沢が自分から勇気を持って話しかけてく話なんじゃないのか?」
「それが上手く出来ないから困ってるんだろ!」
颯太の声に剛は一瞬目を閉じた。また腹を殴られるかと思ったからだ。
しかし、颯太は殴らなかった。
「もういい。お前には頼まない、俺がやる。それに、お前の話も一理ある」
そう言うと颯太は剛を残して男子トイレから出て行った。
「颯太・・・」
颯太はトイレを出ると真っ直ぐ一年二組、奈々のクラスに向かった。
ガラッ
四校時目が始まるまでの休憩時間、教壇側の前の引き戸から入って来た颯太をクラス中が一斉に振り向いた。
後ろの方の席で、机にうつ伏せて寝てる様な格好をしていた奈々も音に顔を上げた。
「あれ、颯太」
「ホントだ、颯太君」
同じ小学出身の武田や松木、須藤らが声をあげた。
「颯太君」
奈々もポツリと声を出した。
「俺は一年四組の北村颯太です。ちょっといいですか?」
颯太は一段上がった教壇に上がり、話し始めた。
「このクラスの野沢奈々と小学校一緒だったから、知らない奴らに伝えた方がいいかなと思って」
『な、何、言い出してんの!』
奈々は慌てた。颯太は間違いなく自分の事を言おうとしている。そんな事をされたら、余計恥ずかしくて話せなくなる。奈々はそう思った。
「野沢奈々は小学の頃から算数が苦手でした。いつも授業に着いて行けず、放課後残って補習受けてるの俺、見てました」
『やめてー!そんな事言ったら皆から馬鹿な子だと思われて、余計友達出来ないよ』
奈々は顔を真っ赤にして下を向いた。
「でも、苦手なのは算数だけで、他の教科は普通で、中には俺より成績良い教科もあるし、このクラスでも、数学だけだろ。授業別に受けてるの。だから、俺やお前らと同じ普通の子だよ、野沢は。武田、お前知ってるだろ?野沢小学校では結構モテたよな?」
「え、俺?」
「そう。小学校一緒だったじゃん」
名前を出されビックリしている武田を見ながら颯太が言った。
「あ、ああ、野沢は可愛いから人気あってモテてたけど、大抵お前が潰してたよな」
「いいよ、余計な事は言わなくて。須藤もちょこちょこ野沢と話してた時あるじゃん。俺見た事あるぜ」
「え、私?」
「そう」
「うん。相談事とかしてたし」
「だから、同じだろ?野沢、俺やお前達と同じだろ?」
「そりゃ、小学校の時は特別な子とか思わなかったし、普通に話してたし。中学で特別支援学級なんてトコに数学の時急に行くからビックリして、ちょっと問題あるのかな?とか思ったりしたけど」
颯太の話に武田が答えた。
「変わらないよ、野沢は。俺やお前らと同じ普通の人間だよ。怒ったり、泣いたり、悩んだりする普通の人間だよ。だから、きっと皆と話せれば嬉しいし、無視されれば悲しいし、一緒に遊べれば笑うし、虐められれば泣くし。隔てる境界線なんてないんだよ。野沢も勝手に自分を特殊だと思って、境界線引いてるとこあるみたいだけど」
颯太の話を奈々は耳を手で塞いで、机に顔をうつ伏せにくっ付けて、聞こえない様にしていた。
「だから、野沢にも、アイツにも悪い所はあると思うけど、異質な目で見ないで、普通に接してみてください。きっと直ぐに、自分と同じだ。普通の子だって分るから」
「野沢さん、野沢さん」
女の子の呼ぶ声がして、耳を塞いで机にうつ伏せていた奈々は、耳から手を離し、顔を上げた。
「行っちゃったよ。さっきの人彼氏?」
奈々の机の周りに女の子が四人程集まって来ていた。
「え、違うよ。全然。只の幼馴染」
奈々は急いでキッパリと否定した。
「面白い人だね~」
「え、じゃあさっきの人彼女いないの?私カッコいいと思った」
「私も」
「私、野沢さんに興味あったんだけど、話す機会逸しちゃてた。ゴメンネ」
野沢の机の周りで口々に話し出す女子達。
「え、私の方こそ、自分から話しかけようとしないで、ごめんなさい。今更だけど、野沢奈々です。宜しくお願いします」
「あれ、野沢さん泣いてる」
「え、へへへ、嬉しいのかな。あれ」
笑いながら奈々は零れた涙を手で拭き取った。
放課後。
陸上部が休みだった颯太は、登下校の道の途中で奈々の帰って来るのを待っていた。
「よお」
奈々の姿が見えて、颯太は手を上げて呼ぶ。
「あ、颯太君」
「どお?上手く行った?」
「ありがとう。おかげで友達とか出来たけど、算数が苦手とか、大きな声で皆の前で言うのは酷いと思った」
そう言うと奈々は拗ねた顔をした。
「何?怒ってるの?」
慌てて颯太は顔色を伺う。
「怒ってないよ。いい幼馴染持ったなって、感謝してる」
「じゃあ、俺の事好きになった?」
颯太はニコニコしながら聞いた。
「ごめん。それはない」
「はや」
颯太は笑うしかなかった。
「それでなーに?私待ってたの?」
奈々が聞く。
「そうだよ、お前に見せたい場所があってさ。陸上の練習で見つけたんだ。この側の高台に上がるんだけど、夕日が凄い綺麗なんだ」
嬉しそうに颯太が言った。
「ごめん。今日は無理。クラスの友達と帰ってから遊ぶ約束したの。急いで帰らなくちゃ」
「もう、そんな仲良くなったの・・・」
「話してみたら良い人たち多かった。ホント、颯太君有難う」
「あ、うん。そうか」
颯太は少し寂しい気分になった。
『ボクの好きな景色をキミと一緒に見て、同じ感動を得て、それについて二人で話しをしたりするのは、ボクの叶わぬささやかな夢なんだけど』
つづく
感情のポイントがずれていた。
それでも颯太はしつこく、自分の好きな物や場所を奈々に紹介していた。
同じ物を好きになって、心が同じ方向を向いてると思いたかったから。
「お前とトイレに入るのは嫌なんだよな」
剛が言った。
「なんで、小五の時の事思い出すからか」
颯太はニヤリと笑った。
「言うなよ~もう中学だぜ」
剛はその話は思い出したくない様だった。
「じゃあ、さっきの話。お前それとなくクラスの奴らに野沢の事フォロー入れてくれるか?」
「それはちょっと変だろ」
「なんで!」
剛の言葉に颯太は急に顔つきを変え、怒鳴った。
「怒るなよ」
剛が颯太を落ち着かせようと言う。
「腹殴られたの覚えてるか?お前野沢のスカートめくりしたの。今度はお前野沢の為に良い事しても良いんじゃないか」
そう言いながら颯太は拳を握り、剛を睨み付けた。
「直ぐ怒る。お前直ぐ切れて怖えーって評判だぞ」
「だから?」
「良く考えろ。男の俺が野沢の事クラスの奴らに良い様に言うのは変じゃないか?只俺が野沢の事好きだと思われるだけだろ。そういう事じゃなくて、クラスの奴らが野沢と余り話さないのは、最初に先生がちゃんと説明しなかったから、皆どう対応して良いか分らないんだ」
「先生が悪いのか」
そう言いながら颯太はまだ剛を睨んでいた。
「それもあるし、野沢も小学の頃は明るい奴だと思ってたけど、中学になってからは自分から話しかけたりしないんだよな。だからなんとなーく、特殊な子って感じで皆遠巻きにしてるっていうか」
「野沢は、奈々は知らない子ばかりで気後れしてんだよ。慣れればいつもの明るい奈々に戻るんだ。だからお前がきっかけを作れば」
「だから男の俺が野沢の所行っていつも話してたら変だろ。それに、そもそもこういうのは野沢本人がちゃんと動かなくちゃ。お前が野沢好きなのは小学の同級生なら皆知ってるけどさ。これはお前が裏でどうこうする問題じゃなくて、やっぱり野沢が自分から勇気を持って話しかけてく話なんじゃないのか?」
「それが上手く出来ないから困ってるんだろ!」
颯太の声に剛は一瞬目を閉じた。また腹を殴られるかと思ったからだ。
しかし、颯太は殴らなかった。
「もういい。お前には頼まない、俺がやる。それに、お前の話も一理ある」
そう言うと颯太は剛を残して男子トイレから出て行った。
「颯太・・・」
颯太はトイレを出ると真っ直ぐ一年二組、奈々のクラスに向かった。
ガラッ
四校時目が始まるまでの休憩時間、教壇側の前の引き戸から入って来た颯太をクラス中が一斉に振り向いた。
後ろの方の席で、机にうつ伏せて寝てる様な格好をしていた奈々も音に顔を上げた。
「あれ、颯太」
「ホントだ、颯太君」
同じ小学出身の武田や松木、須藤らが声をあげた。
「颯太君」
奈々もポツリと声を出した。
「俺は一年四組の北村颯太です。ちょっといいですか?」
颯太は一段上がった教壇に上がり、話し始めた。
「このクラスの野沢奈々と小学校一緒だったから、知らない奴らに伝えた方がいいかなと思って」
『な、何、言い出してんの!』
奈々は慌てた。颯太は間違いなく自分の事を言おうとしている。そんな事をされたら、余計恥ずかしくて話せなくなる。奈々はそう思った。
「野沢奈々は小学の頃から算数が苦手でした。いつも授業に着いて行けず、放課後残って補習受けてるの俺、見てました」
『やめてー!そんな事言ったら皆から馬鹿な子だと思われて、余計友達出来ないよ』
奈々は顔を真っ赤にして下を向いた。
「でも、苦手なのは算数だけで、他の教科は普通で、中には俺より成績良い教科もあるし、このクラスでも、数学だけだろ。授業別に受けてるの。だから、俺やお前らと同じ普通の子だよ、野沢は。武田、お前知ってるだろ?野沢小学校では結構モテたよな?」
「え、俺?」
「そう。小学校一緒だったじゃん」
名前を出されビックリしている武田を見ながら颯太が言った。
「あ、ああ、野沢は可愛いから人気あってモテてたけど、大抵お前が潰してたよな」
「いいよ、余計な事は言わなくて。須藤もちょこちょこ野沢と話してた時あるじゃん。俺見た事あるぜ」
「え、私?」
「そう」
「うん。相談事とかしてたし」
「だから、同じだろ?野沢、俺やお前達と同じだろ?」
「そりゃ、小学校の時は特別な子とか思わなかったし、普通に話してたし。中学で特別支援学級なんてトコに数学の時急に行くからビックリして、ちょっと問題あるのかな?とか思ったりしたけど」
颯太の話に武田が答えた。
「変わらないよ、野沢は。俺やお前らと同じ普通の人間だよ。怒ったり、泣いたり、悩んだりする普通の人間だよ。だから、きっと皆と話せれば嬉しいし、無視されれば悲しいし、一緒に遊べれば笑うし、虐められれば泣くし。隔てる境界線なんてないんだよ。野沢も勝手に自分を特殊だと思って、境界線引いてるとこあるみたいだけど」
颯太の話を奈々は耳を手で塞いで、机に顔をうつ伏せにくっ付けて、聞こえない様にしていた。
「だから、野沢にも、アイツにも悪い所はあると思うけど、異質な目で見ないで、普通に接してみてください。きっと直ぐに、自分と同じだ。普通の子だって分るから」
「野沢さん、野沢さん」
女の子の呼ぶ声がして、耳を塞いで机にうつ伏せていた奈々は、耳から手を離し、顔を上げた。
「行っちゃったよ。さっきの人彼氏?」
奈々の机の周りに女の子が四人程集まって来ていた。
「え、違うよ。全然。只の幼馴染」
奈々は急いでキッパリと否定した。
「面白い人だね~」
「え、じゃあさっきの人彼女いないの?私カッコいいと思った」
「私も」
「私、野沢さんに興味あったんだけど、話す機会逸しちゃてた。ゴメンネ」
野沢の机の周りで口々に話し出す女子達。
「え、私の方こそ、自分から話しかけようとしないで、ごめんなさい。今更だけど、野沢奈々です。宜しくお願いします」
「あれ、野沢さん泣いてる」
「え、へへへ、嬉しいのかな。あれ」
笑いながら奈々は零れた涙を手で拭き取った。
放課後。
陸上部が休みだった颯太は、登下校の道の途中で奈々の帰って来るのを待っていた。
「よお」
奈々の姿が見えて、颯太は手を上げて呼ぶ。
「あ、颯太君」
「どお?上手く行った?」
「ありがとう。おかげで友達とか出来たけど、算数が苦手とか、大きな声で皆の前で言うのは酷いと思った」
そう言うと奈々は拗ねた顔をした。
「何?怒ってるの?」
慌てて颯太は顔色を伺う。
「怒ってないよ。いい幼馴染持ったなって、感謝してる」
「じゃあ、俺の事好きになった?」
颯太はニコニコしながら聞いた。
「ごめん。それはない」
「はや」
颯太は笑うしかなかった。
「それでなーに?私待ってたの?」
奈々が聞く。
「そうだよ、お前に見せたい場所があってさ。陸上の練習で見つけたんだ。この側の高台に上がるんだけど、夕日が凄い綺麗なんだ」
嬉しそうに颯太が言った。
「ごめん。今日は無理。クラスの友達と帰ってから遊ぶ約束したの。急いで帰らなくちゃ」
「もう、そんな仲良くなったの・・・」
「話してみたら良い人たち多かった。ホント、颯太君有難う」
「あ、うん。そうか」
颯太は少し寂しい気分になった。
『ボクの好きな景色をキミと一緒に見て、同じ感動を得て、それについて二人で話しをしたりするのは、ボクの叶わぬささやかな夢なんだけど』
つづく
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