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(番外編) キミはボクをスキ? (上)
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中学に入学して二ヶ月程経った。
北村颯太は小学から続けていた陸上部に入部した。
野沢奈々は元々興味があった演劇部に入部した。
一年のクラスは二人は別々だった。
そして小学校の担任と、中学で担任になる先生が入学前に奈々の事で話し合いを持ち、生活面に問題はないが算数だけがどうしても皆に着いていけないという事と、クラスの他の生徒にも迷惑がかかるだろうという事で、数学の授業は別に個人で受けた方が良いだろうという事になった。
無論学校だけで決める事は出来ないので、奈々の両親にこの事を提案し、了解を得た。
クラスが数学の時間、奈々は一人離れた支援学級の教室に行き、先生と一対一で授業を受ける様になっていた。
放課後。
陸上部の練習で颯太は他の部員達と校庭の外側のトラックを何周も走っていた。
そのうち校庭脇の登下校の道を一人下を向いて寂しそうに帰る奈々に気付いた。
「はっ はっ はっ」
テンポ良く息をつきながらトラックを回り、奈々のいる方に近づいて行く。
「よお、部活は?」
颯太の声に脇を振り向いた奈々はつまらなそうな声で
「休み」
と、言った。
「へー」
そう言いながら颯太は奈々の歩くスピードに走るペースを落として、並ぶようにした。
「つまらなそうだな。なんかあった?」
颯太に優しくそう言われると奈々は一瞬顔を、クシャっとして、泣きそうな顔をした。
「おい、どうした?」
颯太はビックリして聞いた。
「なんでもない」
「なんでもなくはないだろ?なんかオカシイぞ」
「颯太君の部活の邪魔になるから」
そう言って奈々はドンドン道を歩いて行く。
陸上のトラックは直線から弧を描く形になり、道からドンドン離れて行く。
颯太はトラックの弧の部分から外れ、道を歩く奈々の方へと走って行く。
「部活はいいよ。どうした?」
「ワー」
振り向いた奈々は泣き出した。
颯太は奈々の感情の激しさは昔からある程度知っていたので、たいして驚かなかった。
「泣かないで、どうした?」
もう一度優しく声をかける。
「なんかね、皆が無視してる様な感じ・・・」
「皆って、部活?クラス?それとも学校の奴ら全員?」
「クラス」
「ちっ、それで奈々は原因とか分ってるの?」
「多分、私、数学の時一人だけ違う教室行ってるから。それを変に見てるんだと思う」
「じゃあ、説明すれば?説明して数学が苦手なだけだって分って貰えば?奈々、国語なんかは俺より良いじゃん。それだけの事だろ」
颯太は優しく説明する様に言った。
「無視してるんだよ。説明したくても、何も聞いて来ないよ。クラスも前の小学校の子殆どいないし。違う学校から来た子のが断然多いから、私もあっち知らないし、あっちも私の事知らないんだよ」
中学校に来る生徒は近郊の小学校三~四校から集められる。
小学校の知った顔より、知らない顔の方が圧倒的に多くなるのだった。
「聞かれないから説明出来ないか・・・」
そう言いながら颯太は考えた。
「何やってんだ、アイツ」
陸上部二年の志田が立ち止まって、颯太の方を見て言った。
「あ、颯太です。女子となんか話してるみたいですね」
後ろから来た一年で小学校が颯太と同じだった野上誠一が志田に言う。
「北村颯太は分ってる。部活中に何やってんだ!野上呼んで来い!」
「はいっ!」
野上は志田に言われ、颯太の方に走った。
「同じクラスなら俺が何とかするんだけどな。奈々のクラス、小学校同じの誰かいたっけ?」
颯太は部活の事は気にせず、奈々と話していた。
「んー、松木さんと須藤さんと、武田君と加地君と、あー、栗山さんもいたな」
奈々は上を見上げ、指を折りながら思い出して言った。
「加地?加地剛いるのか?よし!アイツを使おう」
颯太はニヤリとして言った。
「何で?加地君なんかあるの?」
「忘れたのかよ。小五の時、お前のスカートめくりしただろ、剛。罪滅ぼしだ、アイツに活躍して貰おう」
「え、悪いよ。何頼むのか知らないけど、嫌がるかも知れないし」
「嫌がったらボコボコにする」
そう言うと颯太はニヤリと笑った。
「おーい!颯太!」
その時後ろから野上の声がした。
颯太は野上の声の方を振り返る。直ぐ側に来ている野上の遥か後ろの方に立ち止まり颯太の方を見ている陸上部員十数名の姿が見えた。
「志田先輩怒ってるぞ。直ぐ戻って来いってよ」
息を切らせながら野上が言う。
「もう少し」
「えー、参ったなぁー。先輩も怖いし、お前も怒ると怖いしなー」
「ほっとけ」
そう言うと颯太は奈々の方に向き直った。
「おい、一年。北村の話してる女子誰?分るか?」
志田が一年部員に聞いた。
「はい、多分一年の野沢奈々だと思います。」
誰かが言った。
「結構可愛いなぁ。北村と付き合ってんの?」
「付き合ってないです。颯太は昔からぞっこんで、ウチの小学校では有名でしたけど、毎回振られてるらしいです」
「マジか。北村ストーカーか?」
そう言うと志田は笑い出した。
「じゃあ奈々、剛に俺が話しつけてやる。クラスの雰囲気変えてやるよ。大丈夫だよ、安心しろ」
「そう?」
「ああ、お前の事はいつも守るって俺、言ってるだろ」
「うん。ありがとう」
奈々は嬉しそうに言った。
「おい、颯太」
後ろから野上が呼ぶ。
「分ってるよ!」
奈々の方を向いたまま颯太が野上に怒鳴る。
「じゃあ、部活戻るから」
「うん。頑張ってね」
颯太と野上は陸上部員の待つ方に走り出した。
「お前も良くやるよな。毎回振られてるんだろ?」
「そういう問題じゃない。大勢の人を助けたり、守ったりは出来ないけど、奈々一人は俺が必ず助けるんだ、守るんだって、幼稚園の時から決めてるんだ。付き合う付き合わないとかじゃない」
颯太が言った。
「じゃあ、野沢に彼氏が出来たらどうする?」
「殺す!例え先輩でも、野上、お前でもだ」
「怖ー。お前喧嘩強いから余計怖いわ」
そんな事を話しながら二人は部員の前に戻って来た。
「お前らダラダラしてんなよ!二人共トラック五周!走れ!」
志田の声が飛ぶ。
「俺もですか?」
「当たり前だ!ホラ!行け!」
「トホホ」
そう言いながら野上も颯太の跡をつけて走り出した。
つづく
北村颯太は小学から続けていた陸上部に入部した。
野沢奈々は元々興味があった演劇部に入部した。
一年のクラスは二人は別々だった。
そして小学校の担任と、中学で担任になる先生が入学前に奈々の事で話し合いを持ち、生活面に問題はないが算数だけがどうしても皆に着いていけないという事と、クラスの他の生徒にも迷惑がかかるだろうという事で、数学の授業は別に個人で受けた方が良いだろうという事になった。
無論学校だけで決める事は出来ないので、奈々の両親にこの事を提案し、了解を得た。
クラスが数学の時間、奈々は一人離れた支援学級の教室に行き、先生と一対一で授業を受ける様になっていた。
放課後。
陸上部の練習で颯太は他の部員達と校庭の外側のトラックを何周も走っていた。
そのうち校庭脇の登下校の道を一人下を向いて寂しそうに帰る奈々に気付いた。
「はっ はっ はっ」
テンポ良く息をつきながらトラックを回り、奈々のいる方に近づいて行く。
「よお、部活は?」
颯太の声に脇を振り向いた奈々はつまらなそうな声で
「休み」
と、言った。
「へー」
そう言いながら颯太は奈々の歩くスピードに走るペースを落として、並ぶようにした。
「つまらなそうだな。なんかあった?」
颯太に優しくそう言われると奈々は一瞬顔を、クシャっとして、泣きそうな顔をした。
「おい、どうした?」
颯太はビックリして聞いた。
「なんでもない」
「なんでもなくはないだろ?なんかオカシイぞ」
「颯太君の部活の邪魔になるから」
そう言って奈々はドンドン道を歩いて行く。
陸上のトラックは直線から弧を描く形になり、道からドンドン離れて行く。
颯太はトラックの弧の部分から外れ、道を歩く奈々の方へと走って行く。
「部活はいいよ。どうした?」
「ワー」
振り向いた奈々は泣き出した。
颯太は奈々の感情の激しさは昔からある程度知っていたので、たいして驚かなかった。
「泣かないで、どうした?」
もう一度優しく声をかける。
「なんかね、皆が無視してる様な感じ・・・」
「皆って、部活?クラス?それとも学校の奴ら全員?」
「クラス」
「ちっ、それで奈々は原因とか分ってるの?」
「多分、私、数学の時一人だけ違う教室行ってるから。それを変に見てるんだと思う」
「じゃあ、説明すれば?説明して数学が苦手なだけだって分って貰えば?奈々、国語なんかは俺より良いじゃん。それだけの事だろ」
颯太は優しく説明する様に言った。
「無視してるんだよ。説明したくても、何も聞いて来ないよ。クラスも前の小学校の子殆どいないし。違う学校から来た子のが断然多いから、私もあっち知らないし、あっちも私の事知らないんだよ」
中学校に来る生徒は近郊の小学校三~四校から集められる。
小学校の知った顔より、知らない顔の方が圧倒的に多くなるのだった。
「聞かれないから説明出来ないか・・・」
そう言いながら颯太は考えた。
「何やってんだ、アイツ」
陸上部二年の志田が立ち止まって、颯太の方を見て言った。
「あ、颯太です。女子となんか話してるみたいですね」
後ろから来た一年で小学校が颯太と同じだった野上誠一が志田に言う。
「北村颯太は分ってる。部活中に何やってんだ!野上呼んで来い!」
「はいっ!」
野上は志田に言われ、颯太の方に走った。
「同じクラスなら俺が何とかするんだけどな。奈々のクラス、小学校同じの誰かいたっけ?」
颯太は部活の事は気にせず、奈々と話していた。
「んー、松木さんと須藤さんと、武田君と加地君と、あー、栗山さんもいたな」
奈々は上を見上げ、指を折りながら思い出して言った。
「加地?加地剛いるのか?よし!アイツを使おう」
颯太はニヤリとして言った。
「何で?加地君なんかあるの?」
「忘れたのかよ。小五の時、お前のスカートめくりしただろ、剛。罪滅ぼしだ、アイツに活躍して貰おう」
「え、悪いよ。何頼むのか知らないけど、嫌がるかも知れないし」
「嫌がったらボコボコにする」
そう言うと颯太はニヤリと笑った。
「おーい!颯太!」
その時後ろから野上の声がした。
颯太は野上の声の方を振り返る。直ぐ側に来ている野上の遥か後ろの方に立ち止まり颯太の方を見ている陸上部員十数名の姿が見えた。
「志田先輩怒ってるぞ。直ぐ戻って来いってよ」
息を切らせながら野上が言う。
「もう少し」
「えー、参ったなぁー。先輩も怖いし、お前も怒ると怖いしなー」
「ほっとけ」
そう言うと颯太は奈々の方に向き直った。
「おい、一年。北村の話してる女子誰?分るか?」
志田が一年部員に聞いた。
「はい、多分一年の野沢奈々だと思います。」
誰かが言った。
「結構可愛いなぁ。北村と付き合ってんの?」
「付き合ってないです。颯太は昔からぞっこんで、ウチの小学校では有名でしたけど、毎回振られてるらしいです」
「マジか。北村ストーカーか?」
そう言うと志田は笑い出した。
「じゃあ奈々、剛に俺が話しつけてやる。クラスの雰囲気変えてやるよ。大丈夫だよ、安心しろ」
「そう?」
「ああ、お前の事はいつも守るって俺、言ってるだろ」
「うん。ありがとう」
奈々は嬉しそうに言った。
「おい、颯太」
後ろから野上が呼ぶ。
「分ってるよ!」
奈々の方を向いたまま颯太が野上に怒鳴る。
「じゃあ、部活戻るから」
「うん。頑張ってね」
颯太と野上は陸上部員の待つ方に走り出した。
「お前も良くやるよな。毎回振られてるんだろ?」
「そういう問題じゃない。大勢の人を助けたり、守ったりは出来ないけど、奈々一人は俺が必ず助けるんだ、守るんだって、幼稚園の時から決めてるんだ。付き合う付き合わないとかじゃない」
颯太が言った。
「じゃあ、野沢に彼氏が出来たらどうする?」
「殺す!例え先輩でも、野上、お前でもだ」
「怖ー。お前喧嘩強いから余計怖いわ」
そんな事を話しながら二人は部員の前に戻って来た。
「お前らダラダラしてんなよ!二人共トラック五周!走れ!」
志田の声が飛ぶ。
「俺もですか?」
「当たり前だ!ホラ!行け!」
「トホホ」
そう言いながら野上も颯太の跡をつけて走り出した。
つづく
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