彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂

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第二十四話 やさしい旅 その⑤

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 「元秋君が私に手を振ったと思った勘違いから二年間思い続けて、再会して元秋君が私の事を好きなタイプに違いないと思って、ドンドン押して行って、そして今がある」
 「うん。川原で初めて話した時から相性は良いと思った」
 「一目惚れが成就したんだよ。勘違いが勘違いじゃなかったって事?」
 「まーそうなるのかな」
 二人はそんな話をしながらお寺の建物脇を通り、奥の墓地の方へと向かい、北村颯太の墓の前に来た。
 奈々は買って持って来た花を、空いていた花立に挿した。
 颯太の墓は北村家の墓の隣に墓誌があり、そこに北村颯太 享年十七歳と書かれていた。
 「あれ?颯太君十七歳になってる。間違ったのかな?」
 奈々が墓誌を見て言った。
 「ああ、享年だから、生まれた瞬間一歳なんだよ。それで最初のお正月で二歳。だから実年齢より二つ増えるんだ確か。北村君は十五歳?」
 「多分そう」
 「じゃあ、これで良いんだよ」
 「ふーん」
 奈々は今一つ腑に落ちない感じだった。
 「それと、お墓参りする前にこれ」
 そう言うと奈々は手紙を元秋の方に差し出した。
 「颯太君の遺書」
 「奈々への?見て良いの?」
 「見て」
 奈々は更に元秋の方へ手紙を前に出した。
 元秋は手紙を受け取り、封を開け、中の四ツ折りの便箋を広げた。
 そして読み始めた。

『野沢奈々へ
 野沢ごめん。
 俺の所為で学校で変な噂流れてるって、看護婦さん達が話してるの盗み聞きして知った。
 俺はお前を守るって言ってたのに、お前に迷惑かけてすまないと思っている。
 足を失って弱音ばかり吐いてた俺に、お前がしてくれた事は死んでも忘れない。
 あれからずっと、あの時の事ばかり頭の中を駆け巡り、それだけを考えていれば幸せだった。
 でも、今の俺には野沢と付き合う事も、まして結婚する事も叶わない。
 それを知っててあんな事してくれたんだろ。
 優しいなお前。
 兎に角これは、お前とは関係ない。
 自分で自分に見切りを付けたんだ。
 誰かの面倒になって生きるのも嫌だし。
 このまま生き続けても、自分が自分じゃないみたいだし、自分じゃなくなってくと思うし。
 ずっとお前の事好きで、ずっと片想いだった俺に、最高の思い出有難う。
 一生守るとか言ってて、守れなくてごめん。
 お前の騒いでた一目惚れの男と、きっと巡り会えて、そいつがお前の事を今度は守ってくれる様に、俺もあの世で祈ってるよ。
 ありがとう。そして、さようなら。 野沢奈々。
 北村颯太 』

 元秋が手紙を読み終えると、奈々は線香に火を付けて渡しながら言った。
 「お墓参りしてもいいと思った」
 「思った」                  
 そう言うと元秋は線香を貰い、お墓に供え、手を合わせた。
 『今まで奈々の事有難う。これからは俺が守るから安心して下さい。それと、俺からは何があっても別れないから、約束するから。安心して成仏して下さい』

 元秋が終わり、続いて奈々が線香をあげ、手を合わせた。
 そして北村颯太へのお墓参りは終った。

 「奈々、随分長く手を合わせてたけど、もしかしてお願い事とかしてない?」
 「したよ、一杯頼み事とかあったから。元秋君もでしょ?」
 「あのさー、神社のお参りじゃないんだから。お墓は願い事はしないの。普通」
 「えー、そうなの?私今までずっとしてたよ!?えー」
 「まったく」
 そう言うと元秋は思わず笑ってしまい、奈々もつられて笑いながら、二人は戻りの下り道を歩いた。

 「そろそろお昼だね。次はピクニック行こう」
 奈々がスマホで時間を見て言った。
 「何処で食べるの?」
 「此処からちょっとあるからバスで行くんだけど。ダム公園って、公園があるの。ダムの貯水池に向かって斜めに芝生になってて。お昼寝に丁度良いよ」
 「へー。ダムがあるなんて知らなかった」
 「あと最近、東京のアニメの会社もダム公園の側に出来たよ」
 「へー、俺、知ってるようで何にも知らないや。奈々の方が物知りじゃん」
 「へへ」
 「ところでさ、154-77は?」
 「え?」
 「考えて」
 「えーえー」
 奈々は指を折りながら計算しようとした。
 「本当に計算は駄目なんだなー」
 元秋はニヤニヤしながら言った。
 「だってだって」
 「77。奈々」


  つづく

     
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