上 下
28 / 31

第二十三話 やさしい旅 その④

しおりを挟む
 (今回はちょっと趣向を変えて、殆ど台詞だけにしてみました。)

 「あれ、それって俺の事?」
 「そうだよ」
 「あれ、でも川原で会って一目惚れしたんじゃないの?」
 「?、そんな事一言も言ってないよ。あれは二目惚れ。あの川原の日の夜は凄かったんだから、もうドキドキが止まらなくて、眠れなくて。本当に出会えた、見つけちゃったって。こんなに好きな気持ち、元秋君は分んないだろーな」
 「でも川原より前に奈々に会った記憶って、ないんだよな」
 「安藤さんは私の髪型変わったの見て、直ぐ気付いたよ」
 「髪型。あー、川原で奈々言ってたな。中学校の時みたいな髪型とか、どう?とか」
 「アピールしたんだけど」
 「ごめん。全然思い出せない」
 「んー、そうかなー、そうかも知れないなー」
 「何?そうかも知れないって?」
 「1500mの試合、元秋君出てたの。あ、カッコいい、好み。って思ってたら、元秋君が私の方を向いて、笑いながら手を振ったの」
 「嘘!それ俺じゃないよ!俺知らない人に手を振らないもん」
 「嘘じゃないの。本当に私の方向いて手を振ったの」
 「何かの間違いだ」
 「兎に角もうそれで一目惚れ。それからの中二・中三は私にとって元秋君はアイドルで王子様で、神様だったの」
 「記憶がないから何とも言えない」
 「私の中でドンドン元秋君のイメージが出来上がって、元秋君で中学時代色々あったけど、乗り切れた部分もあるの。正直、二度と会えるか分らない元秋君を好きだって言う事で、誰とも付き合わない理由にもなったし。でね、川原で元秋君に会ううちにビックリしたのが、元秋君が私の思い描いた通りの人だった事。思ってた通り優しかった。私に優しかった」
 「ああ、ありがとう。でも、全然思い出せないんだよな。ごめん」
 「それはね、この前安藤さんが言った通りだったんだと思う」
 「安藤?」
 「うん。安藤さん、元秋君と中学も一緒だったんだよね。私の持ってる写真にも二人で写ってるし」
 「そう。あいつもずっと陸上部だった。種目違うけど」
 「それでね、私が一目惚れした時。安藤さん、可愛い女の子がいるなって、私の隣に来て話し掛けようとしたんだって」
 「あの野郎」
 「そしたら丁度、元秋君が安藤さん見つけて手を振ったらしいの。安藤さんが言うには」
 「へ?」
 「だから私、ずっと勘違いしてたみたい。安藤さんは、元秋君に見られたから私に声掛けづらくなって止めたんだって」
 「安藤に手を振る位はあるかも知れない」
 「やっぱり?」
 「やっぱり。でも、俺が安藤に手を振ったとして、それが奈々を安藤の毒牙から守る事になって、今の二人に繋がってるなら、それは凄い事だ」
 「そう、私も安藤さんから聞いた後思ったの。凄い運命。きっと本当に赤い糸かなんかで繋がってるんだって」
 「そういう話聞いたら益々好きになっちゃうな」
 「私もそう思った」
 「なるほど、安藤が知れば嬉しくなる話って言ってたのは、こういう事だったのか」
 「勘違いでも、ずーと好きだったんだよ。凄いでしょ」
 「うん、凄い。益々奈々が可愛く感じる」
 「へへへへ」
 「だから奈々は俺に最初からオープンな感じだったんだ。誰にでもって訳じゃないんだね」
 「うん」

 石段を上がり終わり、境内に入った所で奈々は、ワンピースのポケットから少し古びた二年前の中学陸上地区大会での写真を出して、元秋に見せた。
 奈々の中学校の陸上部の集合写真だった。
 その写真の脇に悪戯のつもりか、ピースして笑顔の安藤と元秋が写っていた。
 元秋は右四分の一程は写真から切れていた。
 「こんな俺を大事に持っててくれたの?」
 「うん!」
 奈々は元気な声で言った。


   つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女の音が聞こえる

孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。完結しました。平均読了時間約70分。 別に番外編の『秘密の昔話』(R18)という短編も投稿してあります。そちらも併せて読んで頂けると幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら
恋愛
 障害があることは“普通”ではないのか?  “普通”ってなんだろうか?  目が見えない光穂、耳が聞こえない理人、一度離れたカメラを再び始めた清也、光穂たちの担任をする瑞希……彼ら4人が織りなすラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...