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この世界はギャルゲーの世界なんだ!

自分がやってたアプリの舞台だと思うと感動してしまう

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 ごはんを済ませて部屋を出る。
 当然ながら正門を使うことは許されていないので、使用人さん達が使う裏口から出入りしている。

「お早うございます」
 丁度すれ違った庭師のおじさんに挨拶をする。
 返事は無いが、これもいつもの事だ。

「挨拶することありませんよ」
 鞄を持ってくれてるレンが吐き捨てた。

「でも、目上の人だし」
「使用人にまで下手に出てどうするんですか。貴方は妾腹とは言えども、この家の三男であることには違いないんですよ」

「わかってるよ。だからレンが送り迎えしてくれてるんだろ。こんな派手な車で」

 レンが開いてくれたドアから車に乗り込む。
 正面玄関からの出入りは許されていないとはいえども白神家の息子。
 オレが移動するときに乗る車は、触るのも気が引けるような黒光りするベンツなのだ。

「でも……、そろそろ、SPを変えてもらえるようにお父様にお願いしとく」
「な……!?」

 レンが絶句すると同時に、車がガコンと嫌な音を上げてエンジンを停止させた。

「わ、私が何か無礼な振舞いをしてしまいましたか……!?」
「そうじゃなくてさ、せっかく外国からこっちに働きに来てるのに、オレに付いてたんじゃ一生出世出来無いだろ? 速人(はやと)お兄様か泰斗(たいと)お兄様の世話役になれるよう、話してみるよ」
「あんな豚共に付くの嫌ですよ」
「豚って」
「身長160も無いのに体重100キロ超えてるような物体はまぎれもなく豚です。余計な気を回さないでください。私は今のままで十分充実していますから」

「なら……よかった。オレもレンがいいから」
「……」

 レンはしばらく沈黙してから、続けた。

「もし、あなたがあの家を出たとしても、どこまでもお供致します」
「ええ……? 家を出たらレンに給料払えないよ」
「別に就職口を見つけますから、給料は必要ありません」
「それってレンにどんな徳があるんだよ」
「あなたにお仕えすることが徳なんです」
「レンってホントに忠実なSPなんだな。外国人だけど武士って感じ」
「ありがとうございます」

 今度こそ車が動き出す。

「そういえば、ギャルゲーの悪役だとおっしゃってましたよね? なぜ男性である白様が悪役なんですか?」
「ゲームのイラストレーターさんが自分が描く女の子を悪役に使いたく無いって言い張ったからだよ。妥協した結果、女っぽい男になったんだ」
「妄想にしては妙に辻褄があっていますねえ」
「妄想じゃないってば」

 車で30分ほどで、深紅躑躅学園へと到着した。

「行ってらっしゃいませ」
「行ってきます!」

 ドアを開き、うやうやしく一礼してくれたレンフォードに手を振りつつ、校門をくぐる。
 入学式から約一か月。

 まだ、右も左もわからない校舎だけど、自分がやってたゲームアプリの舞台だと思うとちょっと感動してしまう。

「お、おはよう、白神君……」
「お早う!」

 名前を呼ばれて足を止める。同じクラスで、オレの唯一の友人でもある 左近 速人(さこん はやと)君だ。

 黒縁の眼鏡を掛けて、女子がするみたいなおかっぱ頭で、隣に立っていても聞き取るのがやっとってぐらいの小さな声で喋る。
 身長175センチでオレより20センチ以上も高いんだけど、猫背で小声だから身長よりずっと小柄に見える。
 オレと一緒にヒロイン達に嫌がらせをする悪役キャラの一人だ。
 悪役というか、オレが気の弱い速人君に命令してアレコレやらせてたんだけどもさ。
 今は普通の友達だ。

「お、女男とカッパヤローが登校してきたぞ」

 机の上に座っていた男が嫌な笑い顔を浮かべながらオレ達を指さす。
 この学校は親がでかい病院の院長だったり、テレビに出るような有名な弁護士だったりといった高額所得者の子供が多く通っている。オレのように送り迎えしてもらってる生徒の数だって決して少なくはない。
 その分、わがままに育てられてきたのか、入学式の日から容姿でからかってくる連中がいた。

 どこから漏れたのか、オレが愛人の子だってのもばっちり知られちゃってる。

「そんな呼び方すんのやめろよな」
 オレが反論すると、ギャハハハと笑って話を再開しだす。
「速人君も文句言ってやればいいのに」
「ぼ、ぼくは、文句は……」

 語尾も不確かに、ただでさえ猫背だった背中を更に丸めてしまう。
 これじゃ、原作の『白神 白』にいいように使われてしまうのも無理は無い。

「皆、席に付け」
 チャイムが鳴り、担任の先生が入ってきた。



 つつがなく、授業が終わり、下校。迎えに来てくれたレンフォードの車で屋敷に帰った。


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