僕は美女だったらしい

寺蔵

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ストーカー視点

各屋台の店主(おっさん達)が鼻の下を伸ばし

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 初めまして。ボクの名前は須藤 佳央斗(すどう かおと)と申します。

 初めて僕の名前を聞いた人たちはちょっと考え込むでしょう。
 『すどーかおとー?』――『ストーカー男?』と。

 名は体を表すという言葉はよく言ったもので、ボクは若干15歳にして、名前に恥じないストーカーにメガシンカしました。

 後悔はしてない。むしろ誇りに思ってます。

 ボクのスペックをもう少し説明しておくと、京北台高校に所属している高校一年生です。

 同じクラスには話しかけることさえできない極悪非道の八鬼白夜様とその舎弟の三坂真十郎君、そして羽鳥夏樹ちゃんが居ます。

 真十郎君は八鬼様と同じ髪型と似たピアスを付けているのになぜ八鬼様は嫌がらないのでしょうか?

 自分を真似する同級生なんて普通なら真っ先にぶっ殺されそうなのに。

 などと思っていたら、一年生どころか二年にも三年にも八鬼様と同じ髪型とピアスをする真似っこが溢れかえってました。流石バカ不良校。容姿から入る短絡さ。八鬼様はそういうのに慣れてたんですね。目に余ることさえしなけらば飽きるまで好きにさせておこう、といったところでしょうか。カリスマ人あるある。

 特に真十郎君は入学初日から八鬼様に懐いてましたし、犬みたいに忠実でもあるからお目こぼしされたのでしょう。

 まぁ、そんなことはどうでもいいのです。

 ボクがストーカーをするのはただ一人。

 そう。

 この世で一番美しいと言っても過言ではない、羽鳥夏樹ちゃんです!!!!!!!

 実は、一緒のクラスになる前から激写しまくっていました。

 彼女――もとい彼を初めて見たのは入学式前の列車の中です。

 夏樹ちゃんは電車の中でも目立ちまくってました。
 ボクと同じ制服を着た女の子が一人座席に座っていたのですから、目立たないはずありませんよね。

 なんせ、詰め襟ですもん。
 詰め襟の制服を着た超可愛い女の子がいるのに目立つなとか、そんな無茶を言ってはいけません。
 運よく通路を挟んだ向かい側に座っていたボクは、激写しまくりましたよ。

 愛用のデジカメで、列車の中を取るふりをしてのべ100枚は激写しましたよ。
 というか通路を挟んだだけの席でカメラを構えた男がいるのに全く気が付きもしなかったのは今考えても不思議なことです。
 見られることに関して鈍感過ぎるにもほどがあります。ボクが説教できる話ではありませんがもっと警戒してください。

 そして、その後、八鬼様がその車両に乗ってきました。

 八鬼様は普通に通り過ぎようとしていたのですが、その、超可愛い女の子が八鬼様を見つめました。

 この世の物とも思えない妖艶な視線でした。
(後から聞いた話によると、八鬼様の身長が高かったからびっくりして凝視しちゃったんだそうです)

 この視線に魅入らない人類がいるなら連れて来いと。

 たとえその男がゲイであっても幼女嗜好であっても、死体愛好家であっても足を止めずにはいられない恐ろしい迫力のある視線でした。

 そして、挑発するように唇を吊り上げました。
(後から聞いた話によると、ガンつけたと思われたかもしれないと慌てて愛想笑いをしたそうです。アホかな?)

 ボクは、横で見ていただけにすぎません。

 でも、その表情に危うく射精しそうになりました。

 隣に座っていたとうに枯れてそうな60代の男性までビンビンにさせていましたからね。何をビンビンにさせてたかは明言しませんが。

 それだけ誘いに誘っておいたくせに、ふい、と、なんの興味もなさそうに八鬼様から視線を外したのです。
 後から説明された(カッコ)内の心情を知らないボクらにとっては、小悪魔もここに極まりけりな態度です。

 だってだって、意味深な視線で誘っておきながら、何事も無かったのように無視したのですから!

 八鬼様の横に立っていた薫君は眉間に皺を寄せ、ヒロト君は愉快そうにニヤニヤしていました。

 挑発する夏樹ちゃんプライスレス。
 この席に座って良かった!
 一生の宝物になる写真が撮れました。神様ありがとう。80歳になるまでおかずにできそうです。

 しかも、その美女羽鳥夏樹ちゃんと同じクラスになるという幸運が待ち構えてました。
 なんという行幸。

 ボクはここで一生分の運を使い果たしたのだと覚悟しました。

 使い果たした以上、元を取らなくては。

 パッシャパシャしまくりましたよ。
 シャッター音を消したスマホだったりデジカメだったりあやしげな通販サイトで購入した仕込みカメラで撮影しまくりました。

 初めてクラスに入ってきたときの不安そうな表情。

 隣の席の八鬼様を見た瞬間にどんな男でもたぶらかすような蕩けた表情になった瞬間。
(後ほど本人から聞いたところによると、普通に八鬼様を怖がっていただけだったそうです)

 隣の席の八鬼様に瞳を潤ませ今すぐにでも八鬼様のアレをフェラしようとでもしそうな妖艶な笑顔で八鬼様に微笑みかけた瞬間。
(後ほど本人から聞いたところによると、見た目は怖いけども普通の人かもしれないから話しかけようとしたらしいです。アホかな?)

 そして、今日、素晴らしい写真が更に数千枚も増えることとなりました。

 浴衣姿、プライスレス。

 たとえ男物だろうと、目を見張るほどに美しい。

 白の浴衣にワンポイントの金魚の浴衣。野暮な暗色の浴衣には引き出せない、清楚な魅力が満載ですよ……!!!
 それこそ、めっちゃ可愛い女の子がちょっとはしゃいでコスプレしちゃった的な倒錯的な可愛さです!

 男物の浴衣から女装姿になった時にはもう、鼻血を噴きました……!!!!
 通りすがりの家族連れ様が心配して危うく救急車を呼ばれるところでした。
 お気遣いはとてもありがたいのですが救急搬送されてる場合ではない。

 ボクは夏樹ちゃんの微笑みのワンシーンも逃さないようにシャッターを切り続けるという使命があるのですから……!!!!!!!!

「うっわあ可愛い、アイドルか? 女優か? あんな子いたっけ?」
「モデルっぽいけど見たことないな」
「話しかけてぇ……。せめて名前だけでも……でも周りがこええ……!」
「あのデカイの、さっきチンピラを瞬殺してたしなぁ」
「なんででけえオカマまでいんだよ」

 すれ違う人すれ違う人、夏樹ちゃんを見ながら小声で言葉を交わしています。
 夏樹ちゃんはそんな人たちの視線に怯えて八鬼様の陰に逃げ込んでしまいました。

 もちろんそんな夏樹ちゃんもパッシャパシャですよ!
 夏樹ちゃんはか弱い容姿をしておきながら意外と気が強く、一時期など上級生も教師さえも避けて通る八鬼様を「お前」呼ばわりしてました。

 そんな気丈な子が女装をしてビクビクする姿に、どれだけの希少価値があるか……!

 挙句の果てには八鬼様に凭れ掛かって「疲れちゃった……。少し座りたいな……」などとほざく夏樹ちゃん!!!!

 もうね、毎秒連射ですよ。
 あっという間に64GBのカードが容量いっぱいになりましたよ。どうしてくれるんですか。

 いえ、普通に現像してコレクションにさせていただきますけどね!

 などとホクホク気分でいたボクは甘かったのです。

 まさか、この後に、チョコバナナのフェラ画像を手に入れられるとは…………!!!!!!!!!!

 ちょ、ちょっと待って、これ、未来永劫おかずにできる神画像なのですが。
 それなりの雑誌に送れば6桁レベルの賞金を貰えるレベルなのですが……!!!!

 いや、絶対送りませんけどね!
 ボクの個人的なコレクションとして封印しますけどね!

 可愛い……! めちゃくちゃ可愛い……!

 またも溢れてきた鼻血を抑えつつ、新たなシャッターチャンスを逃さないようにカメラを構えます。

 街路樹の陰に隠れたボクの前で、真十郎君の頭に八鬼様のげんこつが落とされました。

「あだぁ……! すいません、出来心だったんです。まさかあそこまでフェラになるなんて夢にも思ってませんでした。ほんとです」
 平身低頭で真十郎が謝ります。

「私も真十郎は悪くないと思うわ」

「いやーいいねぇ~。『かたい……おおきい……』とかオレも言われてみてえ」
 ヒロト君の椅子に八鬼様の蹴りが入り、椅子ごと吹っ飛びます。

「八鬼ー! 見て見てぇ、こんなにたくさんタダで貰っちゃったああ!」

 焼きそばを買いにいったはずの夏樹ちゃんが両手にたくさんの食べ物を抱えて走ってきました。
 フランクフルトソーセージ。焼きトウモロコシ。冷やしパイン。きゅうりの一本漬け。アメリカンドック。チュロス。

「全部、棒ばっかじゃねーか」

 八鬼様が不穏な低音を絞り出します。

 見てみれば、各屋台の店主(おっさん)が鼻の下を伸ばして夏樹ちゃんを見ています。

「いいもの見せてもらったお礼にだって! いい物ってなんだろね? よくわかんないけどこんな一杯タダで貰えるなんて……! 皆で食べて!」

 夏樹ちゃんのフェラ顔をもう一度見たいという店主達の下心が丸見えすぎているのに、本人はまったく気が付かずに友人たちに配布しようとしました。

「ちょっと待ちなさい。あんた、この中に好きなの無いの?」
 薫君が夏樹ちゃんが貰って来た食べ物を指さします。

「? 全部大好きだよ? フランクフルトソーセージとかアメリカンドックとか焼きトウモロコシ嫌いな人ってあんまりいないと思うけど……」
 と首を傾げています。

 八鬼様が「大好き」という言葉に反応しました。
「これも、食えるのか?」
 掴んだのはフランクフルトソーセージ。

「うん。食べられるけど、一本食べきるのは無理だから皆に食べて欲しいな」
「残ったら食ってやるから、一口でもいいから食え」

 八鬼様が夏樹ちゃんの口元にフランクフルトを差し出しました。

「うん……」

 夏樹ちゃんは困った顔をしながらも、八鬼様の目を潤んだ瞳で見つめながらソーセージをかじりました。
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